①「連休前の忙しい時に申し訳ないのですが、来月有給を頂きたいのですが」
その言葉に、あたりはざわついた。あの仕事人間の踪玄が。早く帰れと言わなければ当たり前みたいに残業をする彼が。自ら有給を希望するなんて。そう思ったのは上司も同じだったようで。
「沢山残ってるからね、好きにしていいよ」
そう、二つ返事で。書類だけよろしくねとつけたした。
「………何処か出掛けられるんですか?」
記入された日付けは6月5日。月曜日だ。日曜日から旅行に行くからと休みをとる人も多い。彼もそうだろうかと思って、聞いたのはただの興味だったが。
「……恋人の、誕生日でして」
少しだけ、気恥ずかしそうに笑って。「ご迷惑おかけします」と、書類に視線を落とした。