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    合宿に参加する牧仙の話

    #牧仙
    shepherdFairy

    合宿に参加する牧仙の話 周囲から注目されるのには慣れている。
     
     バスケットでも、その他の面でも、生まれてこの方仙道彰の周囲はいつだって騒がしかった。己が望もうが望むまいがそれが変わることはなかったので、いつしか仙道は気にすることをやめた。周囲の騒々しさや他人の視線などよりも、バスケットの面白さや釣りの成果の方が彼にとっては遥かに大切だったからだ。そのせいで「マイペース」「気まぐれ」「能天気」だと言われようが、やはり彼には何の影響も及ぼさなかった。
     
     だから、神奈川県国体選抜チーム合宿宿舎の脱衣所で、髪を下ろした湯上がりの仙道を前に「誰だこいつ」「不審者……!?」「知らねー顔がいる」と周囲から騒がれても、仙道はのほほんと微笑みを浮かべるだけである。
     
     中学の修学旅行でも、陵南で初めて合宿した時もこーだったな。
     
     自分の髪を下ろした姿はそこまで珍しいものか、と体を拭きながら呑気に物思いに耽る仙道の周囲では、他校の生徒達が賑やかにざわめき続けている。

    「こんな奴いたか……?」
    「いや、どっかの高校の秘密兵器かもしれん」
    「おいマジで誰だこいつ」

     脱衣所の隅で福田が笑いを堪えているのが目に入ったが、どうやら正体を明かす気はないらしい。
     まいったなと苦笑を零し、着替えを終えると仙道はひとり脱衣所を抜け出した。あいつは誰なんだと大盛り上がりの高校生達を背に、のんびり自販機へと向かう。 
     途中すれ違う選抜メンバーが、二度見どころか三度見してきたり、訝しむような視線を投げかけてきたが、仙道は常の微笑みを返すだけで意に介さなかった。こういう反応も慣れたものだ。
     
     乾ききらない前髪から雫が落ちてきて、リノリウムの床を濡らす。
     
     寝る前に、ちょっと会いてぇな。
     
     冷えたスポーツドリンクを手にし、仙道がミーティングやら後輩の世話やらで忙しい恋人を思い浮かべた瞬間、その声は聞こえてきた。
     
    「髪、早く乾かせっていつも言ってんだろ」
     
     それはまさに恋人である牧のもので、言うなり牧は肩にかけていたタオルで乱暴に仙道の頭をかき混ぜ始めた。風邪でも引いたらどうする、と小言を並べられるが、その響きは途方もなく甘い。きっと、この声を聞けるのはオレだけなんだろう。そう思うだけで、仙道の胸は躍る。
     
     よくオレって分かりましたね。
     
     そう言おうとして、いやこれは愚問だったな、と仙道は言葉を飲み込んだ。風呂上がりの濡れた髪も、散々抱き潰されて乱れた髪も、お泊りした翌朝のひどい寝癖も、牧にはとっくに見られているのだ。
     代わりに、とびきり甘い瞳で囁く。

    「牧さんって、オレのこと好きですね」
    「? そりゃそうだろ」

     タオルで水分を吸い取りながら至極当然のように返されて、仙道は笑みを深めた。

    「オレも、牧さん好きですよ」
    「そうだな」

     やはり当然だと言わんばかりの返答に、仙道は声を上げて笑った。
     
     
     
     
     
     
     脱衣所から出てきた清田の、「さっきまで風呂に不審者がいたんですよ! 不審者!!」の声が背後から聞こえるまで、仙道と牧の秘密の逢瀬は続いたのだった。
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