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    ※千不在

    #ヤマ千

    ヤマ千 家に呼んでご飯を食べさせてたら付き合ってると思ってた話中途半端な時間に解放されて、大和はテレビ局員に勧められたままビル内のカフェテリアに入った。
    ゲートの中にあるここは、洒落た店内でありながらもテレビ局で働いてる人しか入れないため、一般の人目を気にする必要はない。この時間帯、カフェテリアは閑散としていた。
    大和はカウンターで受け取ったほうじ茶ラテとサンドイッチを、窓際の2人がけテーブルに置く。テレビ局の上階から見える景色はビルばかりだ。改めて眺めたことはなかった。非日常に感じられて、年甲斐もなくワクワクしている自分に苦笑した。

    カバンから台本を取り出して、パラパラと捲る。ありがたいことにアイドリッシュセブンは多忙で、共有のスケジュールを確認する限り、寮に帰ったところで誰もいないだろう。寂しさはあるが、このカフェテリアを知れたのは良い機会かもしれない。サンドイッチを齧ると、職場併設のカフェとは思えない、ベーコンのしっかりとした塩味がする。
    「ここ、座っていい?」
    台本に目を落としていた大和が顔を上げる前に、向かいから手が伸びて、そのままトレイを押しやられる。空いた隙間に、大盛りのカレーが置かれた。
    驚いて台本をかばんにしまう。辺りを見回すが、カフェテリアは来店時と変わらず。人が疎らで、近くには誰もいない。わざわざなぜ、同じテーブルに着くのか。
    不審に思って顔を上げると、丁度男が椅子に座るところだった。
    「あれ? 大和だよね?」
    口を開かない大和を不思議に思ったのか、男が前髪の間を見るように覗き込んでくる。
    「百さん」
    「モモちゃんだよ〜」
    男ーRe:valeの百は、名前を呼ばれたことが心底嬉しそうにきゅっと笑顔を作ると、にゃははと笑った。
    「大和が居るなんて珍しい!仕事終わり?」
    百が喋ると空気に色がついたように明るくなる。眩しい人だと、大和は思う。
    「そうです。ここ、スタッフさんにおすすめされて、初めて入りました。百さんはよく来るんです?」
    「うん。忙しいと食べそこねちゃうから、結構重宝してる。お弁当があることが多いけどね。でもさ、たまーに入りたくなるんだよね。外部の人も局の人も食べてるから、結構色んな人に会えるしさ。思いがけない人に会えるって、嬉しいよね。今日は大和に会えてハッピー!」
    ぱちんとウィンクをされる。『色んな人に会える』の1人が、今日は大和だったわけだ。人脈を広げることに余念がない百には感服する。下心もなさそうだから、尚の事。
    「百さんもスケジュール終わりですか?」
    「そうそう。でも内容はヒミツ。特番の時期になったらわかるかにゃ? 今日はそれの打ち合わせだったんだ」
    もう特番の時期か。テレビ局の中は季節が曖昧だ。大和は考える。
    今日だって、メンバーの何人かは地方ロケに出かけていたはずだ。事務所もスケジュール調整でバタバタしていた。
    「ウチも、それぞれ忙しいそうですね」
    「大和はドラマでるよね。ホラーのやつ」
    百はスプーンを取ると、カレーを掬って頬張った。
    「そうです。って、あれ? 告知まだですよね」
    「いやー聞いちゃった! ユキも見るってさ。ユキってば怖がりさんなのに、大和が出るならリアタイするって! 一緒に見る約束しちゃったよ。めっちゃ楽しみ」
    「相変わらず仲がいいっすね」
    「うん」
    他愛のない会話は気が楽だった。メンバーが居ない現場を終えて、出会ったのが百でよかった。そういう空気を作るのが、彼は上手い。
    屈託のない笑みから八重歯がちらりと見えると、瞬く間にカレーが消えていく。プライベートだというのに、百は本当に美味しそうに食べる。以前グループでご馳走になった時に「みんな喜んでくれるから奢り甲斐があるね」なんて笑っていたことがあった。他から見れば百だってそうだろう。提供者が喜ぶリアクションだ。
    「何?」
    物思いをしていたせいか、食事の手を止めていた大和に、百は首をひねった。丸い瞳が不思議そうに大和を見つめている。
    「百さんって美味しそうに食べますよね。なんつーか、見惚れちゃって」
    「ええぇ? モモちゃん照れちゃう。でも、ユキもよく大和と同じこと言うよ。役者さんだからかな? 観察癖があるんじゃない?」
    それはどう考えたって、千さんが百さんのことが好きだからだろう。大和は思う。先日千と2人で食事していた時も、百の話ばかりしていた。
    「職業柄、他人を観察する癖があるのは認めます。でもやっと理解りましたよ。千さんがよく『モモって本当に美味しそうに食べてくれるから、作り甲斐があるんだ』って言う理由が」
    もちろん千のご飯が美味しいのも、百の食べっぷりの理由の1つにあるだろう。大和だって、千にご馳走すると言われたら、面倒な態度を脇に置いて、のこのこと家に上がってしまうのだから。
    「ええ!?」
    突然百が素っ頓狂な声を出して、顔を真っ赤にした。
    「ユキ、大和にオレの話してるの?」
    頬に手を当てた百は、顔を伏せて大和を見つめてくる。
    何を驚いているのだろう。千がいる所に、百の話題があるのなんて、芸能界では当然の事実に近い。あの人、友達いないし。百さんの話以外に話題がないんじゃなかろうか。というのが大和の疑うところだ。
    「そうですけど、一昨日会った時も百さんの近況話してましたよ。俺は聞き流してましたけど」
    「そうなんだ……」
    しおしおと萎れていく百に、大和は首を傾げる。
    「千さんと何かありました?」
    「いや、全然!? オレとユキは仲良しだよ! ……その、なんていうか」
    「なんていうか?」
    大和が促すと、百は目をギュッと瞑る。それから眉を下げたままに視線を彷徨わせると、心を決めたように大和に向いた。
    「流石に、彼氏と2人きりの場でオレとの惚気話をされると………モモちゃん照れるであります」
    「彼氏?」
    覚えのない言葉だった。
    「うん」
    「誰の?」
    「ユキの」
    「誰が?」
    「大和が」
    「俺が!?」
    「違うの!?!」
    驚いたまま百が立ち上がる。ガシャン! と食器が軽くはねて、机と音をと立てた。
    まんまるの目を開いた百が我に返って、辺りを見回す。人が少ないとはいえ、いくつか視線が向いていた。
    騒げばコトだ。話題が話題でもある。
    「騒いじゃってごめんね」
    百が落ち着き払って少し大きめに声を発すると、周囲が慌てて目を逸らす。パフォーマンスだ。大和は思った。
    立ち上がったままの百は、そのまま大和に椅子を寄せて座り、小声で話を続ける。
    「あのさ、大和とユキって、付き合ってないの?」
    感情表現が豊かな百に対して、驚いたのは大和も同じだった。最近、よく千に食事に誘われる。小洒落た個室に付き合うことも稀にはあるが、大概が千の自宅だ。出不精が主な理由ではあるけれど、千の手料理は絶品だし、別に不満はない。それに彼に直接施されているような、淡い満足感があった。
    だけど誘われる本当の理由は、聞いたことがなかった。
    食卓を挟んでやわく笑って話す、実のない会話に付き合う。誘われるまま、こちらから話すと、平坦なようで、でも静かで明朗な反応をもらう。そのやり取りが何を意味しているかなんて、考えたことはない。あまりにも日常になっていたから。
    「それ、千さんから聞いたんですか?」
    「そう、です……」
    どこか観念したかのような様子で、百の喉から押し出される。大の大人が2人して顔を真っ赤にして、しかも当事者の片方は居ないのだから、我ながらおかしな様相だ。
    しかし、Re:valeの2人がまた拗れた理解をしていない限り、千は、大和との関係を『そう』思っているのか。大和は理解を改める。だって2人でご飯を食べて、会話をして、並んで映画を見て、やれ感想を言い合って、時折、千の家に放置されていたゲームもした。でもそんなの、それだけだ。これを付き合ってると言うのなんて。そんなの、子供じゃあるまいし。
    『大和くん、美味しい?』
    満足気に目を細めて、弧を描く薄い唇が思い浮かぶ。
    思考が深くなっていくたびに、まっ白い平面に投げ出されたような気分になった。見覚えのあるものは全て遠くにある。何を掴むこともできないし、しかし、大事なものは内側にあるのだった。
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    またね

    DONEカプなし Re:valeの共同制作の話。

    完成した曲から手を離せるようになった分、百がひとつひとつの楽曲を愛でているのが可愛くて、その上で制作で同じ悩みにぶつかった時、先輩としてアドバイスできる千がいたらいいな。の話です。
    先輩の手引き/同じ場所で百にとって楽曲製作は、粘土を捏ねる作業に近かった。伝えたい言葉の断片は沢山作れても、それを繋げて作品を作ることは、しごく困難だ。接着面がどうも滑らかに繋がらない。無理矢理に捏ねて形を作ったって、ちょっと触っただけで外れてしまって、そもそも何故くっついていたのかも分からなくなってくる。
    音楽だって美術だって、授業を受ける分には、自分の楽しみのため、引いては先生の評価のため、真剣に取り組んでいるつもりではいた。でもこれはプロの作業だ。
    それに評価者は千である。これが百にとって一番の問題だった。
    「ちょっと語尾を変えたほうがニュアンスが柔らかくなるかも」なんて言うもんなら、評価者は柔軟に音色を変えてしまう。下した評価が、彼の音楽にとっての正解であるのか、百にはわからない。彼が作り出すものすべてが良いものに聴こえてしまうのだ。ひとつ前に戻そうと思ったところで、形を変えてしまった粘土を元の形に再現する技術もないのだから、どうしても発する言葉ひとつに慎重になってしまう。
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