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    nyantama0129

    にゃんたま(去勢前)の遊び場。
    うちの子もよその子も居るよ!

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    nyantama0129

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    うちよそがあれやこれやで同じ匂いになる話

    繋がりたい ぱらり、ぱらりとページをめくる音。本当に読んでいるのか疑わしくなるほど音はゆっくりで、ただ機械的に紙を落としているだけのようにも見える。
     紙の音が囁く部屋に、小さな寝息。スヤスヤと安らかなそれはページをめくる音と連動して。

    「……ん、うぅん」

     真っ白な一枚を丁寧に切り裂いたように、薄く目が開いた。
     ぼんやりとした瞳が紫草を捉える。丸まった体にかけられた毛布を顔まで被ると、寝ぼけた声でラスカル・スミスは呟いた。

    「もすこし、ねかせておくれ……あとさんじかん、くらい」

     舌っ足らずで幼い声。可愛らしすぎるお願いだから是が非でも叶えたい。が、そうもいかない事情が紫草にも、ラスカルにもある。
     紫草はめくっていただけの本をサイドテーブルに置くと、椅子から立ち上がる。少し長めのバスローブを身にまとい、着崩れするのも構わずベッドにて丸まっているラスカルに覆いかぶさって、彼女の耳元に口を寄せた。

    「良いのかい?眠り姫の起こし方は相場が決まっているのだけれど」

     囁く声にラスカルが再び目を開ける。

     間近で聞こえた声。
     すぐそこにある笑顔。
     
     それが誰なのか気づいた瞬間、ラスカルは後ろに身を……引こうとしたが、それは覆いかぶさっている紫草の腕によって阻まれた。

    「……ッ朝から最悪な目覚めだぜ」

     寝ぼけ眼から一転、鋭い目付きが紫草を刺す。

    「朝、というか既に昼が近いのだが。君、昨日のことは覚えているかい?」
    「……きのう……?」

     きょとんとした顔をしたと思ったら、見る見るうちに歪んでいく表情。それは羞恥、怒り、嫌悪。
     力の限り紫草を押し返すと、ラスカルはベッドの隅に避難した。追い込まれ怯えた小動物のように。

    「今度はぼくにナニをするつもりだぃ?」

     嘲笑を含む声。
     昨日のことが余程お気に召さなかったらしい。紫草には愉しそうに見えたのだが。実際、紫草は愉しかった。誰かの協力の元、だったとしても。

    「記憶に異常は無いみたいだね。体にも変化は見られなかった、と静句女史には報告しておこう」
    「……ぼくの体を見たのか?」
    「見たと言うか、流石にあのまま放置するわけにもいかないだろう?体を綺麗にしてここに寝かせたのは私だ。服も洗濯してある。その証拠に、」

     紫草はラスカルを指さした。

    「中々に大胆な姿じゃないか」

     指の先を辿り、ラスカルは驚愕した。下半身こそ毛布で隠れてはいるものの、上半身は一糸まとわずその姿を晒している。
     慌ててラスカルは毛布で自分を包んだ。

    「余計なことを!!」

     ラスカルは叫ぶ。
     見られた。見られた。見られてしまった。
     この体は。
     醜い体は。
     どっちつかずの傷痕は。
     今もラスカルを劣等感で苛ませる、コンプレックスの具現。空虚な下腹部が否応無しに過去を思い出させ、現実を蝕み、未来を嘲笑う。

    「あのまま放置の方が良かったのか?」
    「当然だね!君に裸を見られるくらいなら、」
    「私は裸以上の君を見せてもらったんだが」
    「本ッ当に悪趣味だぜ、きみ」
    「何とでも。ただイイモノを魅せてくれた君への、私なりのお礼のつもりだったんだ」
    「お礼?ぼくを極限まで辱めることが、か?バカげてる」

     ラスカルは膝を抱えて蹲る。紫草の視線から逃れるように。世界から隔絶を望むように。
     と、ふわりと体が浮いた。毛布ごと重力に逆らった体からは一瞬だけ力が抜けて、世界が覗く。あるのは紫草の顔。だいぶ近い。いや、近すぎる。
     触れるか触れないかの距離で見つめ合う。

    「可憐な体液で濡れたままにしておくのも官能的で素敵だと思うよ。考えるだけでゾクゾクする。いつまでも見ていたかった。が、あのまま君を放置して、報酬を渡して、それではサヨウナラ、なんて私が出来るわけないだろう?」

     あんなことをしておいていけしゃあしゃあと上辺だけの言葉を並べて、と睨めば。
     ラスカルが映る紫草の瞳。普段はいじわるにしか見えないそれが、存外水分を含んでいることに気づいた。
     心配。淋しい。愛しい。
     そんな感情が流れ込んでくるような気がして、ラスカルは顔を逸らした。
     名残惜しげに空気が動くと、スタスタと紫草は歩き出す。迷いなくどこかへ向かっているようだ。

    「お、おい、きみ……」
    「体は綺麗にしたが、大事な部分を勝手に触るわけにはいかないからね。悪いがソコは君自身で綺麗にしてくれたまえ」

     言いながら開け放たれた浴室の扉。もわりとした湯気がラスカルの頬を撫でると、紫草は毛布のままラスカルを浴槽に沈めた。
     染み込んでくるお湯は適温で気持ち良く、ほんのりとピンク色に染まっている。

    「おい、きみ、」
    「悪いが毛布はいただくよ」

     そう言うとお湯の中に手を突っ込んで、紫草は十分に水分を吸った毛布をラスカルから取り上げた。無造作に洗濯機へと放り込むと再び浴室へと入ってきて、後ろ手に扉を閉める。
     慣れた手つきでバスローブを脱げば、一糸まとわぬ裸体がそこにあった。

    「……勘弁してくれよ」

     お湯の中でラスカルが呟く。

    「私も昨日はシャワーを浴びれてなくてね、狭くなってしまって申し訳ないが、失礼するよ」

     言いながらくるくると長い髪を束ねて、ラスカルの返事を聞く前に湯船へと入ってきた。
     肩まで浸かれば、ふぅ、と心地良さそうなため息が漏れる。

     ラスカルは浴室の扉を見る。紫草が油断しきってる今なら、隙を見て逃げ出せるのではないか。
     そう思ってチラリと紫草を窺うと、緑色の何かを楽しそうに弄っている。

    「一応聞くけど、今度は何をされてるのかな、ぼくは?」
    「ん?君の三つ編みを解いているのさ」
    「なんで」
    「結んだままじゃ洗いにくいだろう?」
    「余計なお世話だ。頼んでないぜ」
    「私が頼んだ」
    「……はぁ?」

     思わず出た声は、心底呆れていた。

    「言い忘れていたが、契約延長だ。カリン嬢に掻い摘んで説明したら理解を示してくれてね、好きなだけ時間を使って良い、とのことさ」

     例えば、ここから逃げ出したら契約不履行ってやつで報酬が貰えない。皆に何を言われるか分かったもんじゃない。し、あれだけのことをされて手ぶらで帰るなんて癪だ。理不尽だ。しかし、どうしたって逃げられない。

    「カリンちゃん……そりゃないぜぇ」

     ラスカルの情けない声に紫草が楽しげに笑った。
     これはもう腹をくくるしか無さそうだ。変なことをしてきたら目いっぱい抵抗してやる。ラスカルは決意を固めると、目だけで浴室内を見渡した。
     少し広め。だが、浴槽自体は普通のもの。置いてあるシャンプーやら何やらに変わったものは無さそうだ。気になるのは。

    「この、匂いはなんだぃ?」

     嗅いだことの無い匂い。
     不思議と落ち着く香り。
     お湯が濁っていることから入浴剤であろうことは予想出来るが、何が使われているのかが分からない。
     また変なものが入っていたら……そう思うと途端に体が硬直する。

    「梅だよ」
    「ウメ?ウメって、あの酸っぱいやつかぃ?こんな匂いはしないはずだぜ?きみ、また何か」
    「何も無いよ。ただの香り付けさ。良い香りだろう?」

     問われて、恐る恐る吸い込んだ香りは、甘かった。
     フローラルと言うほど華やかではなく、フルーティーと言うほど強くもない。道端に揺れる小さな花のような、微かな甘さ。
     自己主張の強い紫草には似合わない。素直にそう思った。から、素直にそう言った。

    「君は私を何だと思ってるんだ」

     紫草がほくそ笑む。

    「匂いが強いものは好きじゃなくてね。静句女史に頼んで作ってもらったのさ。っと言っても、これは本当にただの入浴剤だ。安心したまえ」

     聞きたくない名前に肩がピクリと反応すれば、紫草はすぐにフォローを入れた。

    「梅には大きくわけて二種類ある。食用と観賞用だ。この入浴剤は観賞用の梅の花が元になっている。実際はもっとふくよかな香りがするのだけれど、入浴剤としては好ましくなくてね」

     良い香りだろう?という問いかけに、ラスカルは「うぅん」と曖昧な返事をした。
     ウメと言えば、日本という島国の酸っぱい食べ物。そんな認識しか無かったからだ。急に色々言われても脳が混乱してしまう。入浴剤と、ラスカルの知っているウメとが繋がらなくて、なんと答えれば良いのか。

    「ところで、」

     ぼんやりと考えているラスカルに、紫草が声をかける。

    「君はどうして私を見てくれないんだい?」
    「……入浴剤の効果でとうとう頭に花が咲いたのかなぁ?」

     おどけて答えるラスカル。
     彼女はずっと、扉を見たり、横の壁を見つめたり、兎に角紫草を見ないように努めていた。だって。

    「君と私の間柄だ。気にするほどのこともないだろう?」
    「きみとの間柄なんて、ぼくは作った覚えがないぜ」
    「ご謙遜を」

     紫草がわざとらしく優美に笑う。
     いつの間にか三つ編みは全て解かれていて、長い緑色が川のように揺蕩っている。

    「君の裸を見たことを怒っているのか?ご希望なら私の裸も見せるが、あまり面白いものでもないよ」
    「面白いって……」

     途端に鼻じらむ。

    「きみは、ぼくの体を見て面白いとでも思ったのかぃ?」
    「あぁ、とても愉しかったよ」

     心底愉快そうに犬歯を輝かせる紫草の言葉に、思わず立ち上がった。長い髪がラスカルにまとわりつく。その細すぎる体を隠すように。

    「この体がたのしかった?ケロイドだらけで、パーツの足りないこの体が!?冗談なら止めてくれ。悪質極まりないぜ。
     ああそれとも、きみお得意のぼくへのいじわるってやつかぃ?きみって奴は本当に
     反吐が出る」

     込み上げる怒り。憎しみ。哀しみ。
     お前に何が分かる。会って間もない、お前なんかに。
     ぼくの過去なんて知らないだろう?話したことなんてないんだから。乞われたって話すもんか。ぼくがどんなことをされて、どんな気持ちで生きているかなんて。

    「お前なんかに!」
    「君のことは分からないよ」

     渦巻く怒りに、冷静な声が刺さった。

    「聞きかじった程度しか知らない。君がどんな思いで、どんな苦しみを持って、あるいはどんな感情や行動原理で生きてきたか、君じゃない私には到底理解出来ない」

     そうだろう?と首を傾げながら、紫草が近づく。
     ラスカルの後ろは壁。逃げ場がない。荒い息で必死に紫草を睨むが、そんな行動は相手には無意味だ。現に今だって。

     閉じ込めるように壁に手をつくと、紫草はラスカルの肩に唇を落とした。触れたのは髪越しのケロイド。
     少し離れて、見つめ合いながら指を伸ばす。鎖骨のくぼみに触れ、鳩尾までゆっくりと降りていく感触に、ぞわりとした。

    「細いね。もっと食べた方が良い。肉付きがどうのじゃない。健康のために、さ」

     ラスカルの手を取り、紫草は自分の心臓部分に当てた。

    「見てわかる通り、私も女性らしい体つきはしていない。峰不二子のような欲情を煽る体に憧れたこともあったけれど、体質なんだろうね、これ以上成長することはなかったよ」

     紫草の体は、くびれこそあるものの胸は小さく肋骨は浮き出て、お世辞にも肉付きが良いとは言えなかった。
     それでも。

    「それでも、きみには、」

     女性と言える確実なものを内包しているじゃないか。
     それだけじゃ不満なのか。
     まだ何かを求めるというのか。

     上手く言葉に出来ない感情に口をぱくぱくさせていると、くるり、と体が回転した。背中に紫草の体温を感じて。
     二人で湯船に沈んだ。

    「あのままじゃあ洗いにくいからね」

     さらさらと緑色の髪を集めると、入浴剤より少しだけ甘さを増した空気がラスカルを包んだ。
     長い髪を泡で包んでいき、ワシワシと頭皮を揉まれる。
     仔猫が母猫のお腹を揉むような心地に、先程までの緊張が解れていく気がした。

    「これは独り言ってやつさ」

     紫草が呟いた。

    「怒りに満ちた言葉も、憎悪に染まった瞳も、悲しみに歪む唇も、快楽に染まる表情も、全て魅力的だ。細い身体。消えない痕。彼女が生きてきた全てが愛おしい。良いものも悪いものも。彼女が……あの子がどう考えようと、他人がどう思おうと、私はあの子が可愛くて愛おしくて堪らないんだ。
     理解は出来ない。絶対的に。悔しいけれど。
     分かち合うことも無理だろう。絶対的に。哀しいけれど。
     救うなんて以ての外だ。傲慢だね。自分自身に怒りさえ湧いてくるよ。それでも、」

     紫草は一息つくと、シャワーで泡を流し始めた。声が聞きづらくなる。

    「一緒に居たいんだ。金で繋がれるならいくらでも払おう。それで同じ時間を過ごせるのなら安いものさ」

     泡を流し、トリートメントを塗り込んで、暫しの無言。
     入った時より甘い香りが支配する空間に、ラスカルは何だか目眩がするような心持ちだった。

    「もう一度流すよ。これで終わりだ」

     独り言、というものは終わったのだろうか。
     紫草は無言でシャワーを流し続ける。
     と、キュッと音がしてお湯が止まった。丁寧にしぼって、それでも重さを増した髪を何かで留めた。

    「これはカンザシというものだ。どんな長さの髪もまとめられる優れものさ。と言っても、君の髪は長すぎだな。普段はどうしてるんだ?」
    「……えっと、いーかげんに短くしてから洗ってる」
    「この髪を切るのかい!?なんて冒涜的な……ッ!!」

     芝居がかった台詞に、今までとの空気感の差を覚えて、思わず笑ってしまった。

    「いいんだよ。朝には元通りだから」
    「おや、一晩で元に戻るとは優秀だな。今度君が切ったものを私におくれ」
    「ぜッッッッたいに嫌だ」

     ラスカルが答えれば、紫草がふふっと笑う。
     抗議の声に効果はなく、一度ギュッと抱きしめられたと思ったら、項に柔らかいものが触れた。気がした。
     不思議に思う間もなく、紫草が立ち上がる。ササッとシャワーで体を流し、そのまま浴室の扉へと向かった。後ろ姿は髪で隠れている。

    「私はもう出るよ。やりたいことは出来たからね。あとは君の髪を乾かせば終わりさ」
    「まだあるのかぃ?」
    「髪を乾かさないと帰れないよ?」

     浴室にラスカルの盛大なため息が響く。

    「タオルは好きに使うと良い。服は畳んで洗濯機の上に置いてある。
     ああ、好きにして良いとは言ったが、のぼせないように気をつけてくれたまえ。まぁ一緒にいる時間が増えるのは喜ばしいことだけれどね」
    「ぼくをバカにしないでくれないかぃ?」
    「お茶を用意してリビングで待ってるよ」

     笑顔で扉の向こうへ消える紫草。
     全く、なんて奴なんだ。
     思い出せばフツフツと怒りにも憎しみにも似た感情が湧いてくる。
     それでも、呼吸をする度に鼻腔を刺激する微かな甘い香り。

    「ウメ、かぁ」

     透明度のある薄いピンク色のお湯を手ですくってみる。手の中のお湯は透明だ。匂いだけが、甘い。

    「帰ったらカリンちゃんに聞いてみようかなぁ」

     呟けば、ラスカルの口の中に甘酸っぱい梅の香りが広がった。
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    Replies from the creator

    nyantama0129

    DONEラスカルくんちゃんと鎮巳くん(DT)の小話。
    はしごの詩 イブムニアという国において知らぬ者は居ないであろう、株式会社ブランクイン。そんな誰もが憧れる大企業ばかりが立ち並ぶオフィス街の中心。の、中小企業ゾーンを抜けた先。国の西側にある住宅街に程近い場所に広がる公園。
     お昼時はオフィス街や住宅地に住まう家族で賑わう場所だが、ピークを過ぎれば老夫婦が犬を連れて散歩したり、学校終わりの学生が少しはしゃいだり、鳩の鳴き声が聞こえる程度には居心地の良い場所。
     国の治安とは無関係と思えるようなのほほんとした公園で、遠山鎮巳は日向ぼっこを楽しんでいた。
     今日は平日。もちろん会社がある。しかし鎮巳の勤める株式会社ブランクインは大企業らしくフレシキブルな業務形態を採用している。曰く"朝は早くても8時、遅くても10時までに出社すること”"遅くても19時までに退勤すること”とのこと。この二点さえ守っていれば後は比較的自由であり、朝早く来て夕方ごろに帰る社員もいれば、ギリギリに来てギリギリに帰る社員もいる。自分の仕事を終えて昼過ぎにさっさと帰宅する者、そんな同僚に泣きついて助けを乞う者。哀れな同僚を尻目に優雅に昼食や休憩を楽しむ者など、様々だ。
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