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    iguchi69

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    ジョ双SSチャレンジ 4/7
    ょばスタ時空

    ニット/子供の頃の想い出/雪合戦「あのクソガキ共が……!」
    「いいじゃねぇか、懐かれてるってこった」
    白い息と共に毒づく双循の声は心なしか力ない。震えるほどの寒さに狛犬の耳の内側が赤くなっている。彼の耳や尾はおよそ一般的な犬属には似つかわしくなくあまり感情を露わにすることはないが、こういった生理的な、本人の理性ではどうにもならない現象を見つける度にジョウは自分にはないいたいけな器官を愛おしく思うのだった。

    MIDICITYに初雪が降ったのは12月も半ばに差し掛かった頃のことだ。その日は日曜日で、純白に染まった公園には朝から多くの人が訪れていた。
    あるミューモンは雪の被る椿の鮮やかさを楽しみ、あるミューモンはソリ遊びに夢中になっている。老若男女が各々に一年ぶりの銀世界を楽しむ中、ジョウと双循がそこを通りかかったのは偶然の出来事だった。

    今更雪にはしゃぐような子供でもない。かといって白銀に特別な情緒を感じるほど達観もしていない。こんな寒い日は、暖房の効いた部屋で一日中こもっていたいのが本音だ。けれど、ジョウの家の食料が尽きる(正しく言えば、ささみ肉と豆腐、卵はあったが)のだけは家主でもない双循にとって予定外のことであった。

    「ヤスん家のからあげ弁当、特盛じゃ」
    ベッドから起きることなく言ってのける双循の要求をジョウは当然突っぱねた。食いたきゃ自分で行け、誰かさんの所為で腰が痛いんじゃと無益な応酬を繰り返し数十分。決着はお薬ゼリーの限定特売を思い出したジョウの「一緒に行こうぜ」という声でつく。

    「ハァ~? なんの意味があるんじゃ、どうせおどれは外に出るんじゃろ。ついでじゃ、ついで。早う買うてこい」
    「いいだろ。……なぁ」
    布団を離すまいと掴む手に掌を重ねる。なるほど確かに氷点下の気温に小麦色の肌がその色に似会わず冷えていた。ジョウの高い体温が溶けていく。こうやって甘い声を出せば存外この狛犬はすぐに陥落することを知っていた。
    ジョウの頭には『おひとり様一点ずつ!ティッシュ一箱198円』のチラシの文字があったが、もぞもぞと寝床を出る双循はその甘えの真意など知る術もない。雪景色の中をふたり歩くのも悪くないと思ったのか、昨夜脱ぎ散らした服を拾っては着る姿はどこか浮足だっている。

    そうやって外出した矢先のことだ。通りすがりの公園から「おじさん!」と声がかかる。駆け寄る小さなユニコーンはジョウには見覚えがなかったが、屈んで応対する双循の姿から彼の知り合いだとすぐにわかった。盗み聞きするまでもなく、声の調節ができない幼子の言葉は耳に入ってくる。青い髪の幼児はShibuvalleyに住んでいる知人で、兄の仕事をここで遊びながら待っているのだということがわかった。
    「見て、おじさん! 雪だるま!」そう誘うのを嗜める同族の子供が呼ぶ『ニケル』が彼の名なのだろう。

    あれよあれよと手を引かれ、公園に入っていく双循をジョウは見守っていた。いくら悪魔の狛犬といえども子供に危害を加えはしないだろうが、万が一を考えていたのが拍子抜けするほどに双循はされるがままで遊びに付き合っている。恋人の知らぬ一面に、胸に靄がかかるのが自分でも以外だった。

    始めは雪だるまづくり、そのうちにどこからか近付いてきた子供に巻き込まれ雪合戦をすることになった。とはいえ、大人の双循が未就学児の戦いに参戦する訳にもいくまい。おそらくは近所の友人たちで徒党を組んでいるらしい少年が見慣れぬユニコーン族の兄弟に宣戦布告する形で始まった合戦だ。多勢に無勢ではあったが、あくまで子供同士のお遊びの域を出はしない。
    背後から雪玉をぶつけられべそをかくニケルの仇討ちとばかりに双循は雪玉を量産した。参加はしないが、後方支援は構わないという彼なりの線引きだろう。不死鳥族の体温故に雪を握れないジョウを役立たずめと言いたげな目で睨むのには閉口したが、子供4人に対し子供2人と高校生1人のチーム戦は意外にもバランスが取れているようだった。
    体格の所為なのか、はたまた暴力的なことに慣れていないのかおずおずと雪玉を投げる『ちぃ兄たま』にジョウも肩の使い方を教えて応援する。五分五分の戦いは互いの保護者が彼らを迎えに来るまで十数分続けられた。
    ジョウはその時に初めてユニコーン兄弟の兄がかつて対バンを果たしたARCAREAFACTのメンバーであることを知ったのだった。

    ◇◇◇

    「たわけが、ワシが言うとるんはこの辺のガキじゃ。いきなり雪玉投げてきおって、どういう躾をしとるんじゃ……!」
    せっせと雪玉を握り続け、冷水が沁みたニットを伸ばしながら双循が言う。ジョウは意外そうに瞬きをした。
    てっきり慕われていることへの照れ隠しで言っているのかと思っていた。バルトとニケル(チタンは弟をそう呼んだ)を雪合戦に巻き込んだ少年への非難だったとは。だとするならば、黙ってその場を離れるか、相手を叱ればよかったものを。

    知った顔の子供を遊びとはいえ良くない方法で巻き込まれた双循が憤るのは当然のことだ。けれど、明らかに体格も技術も、雪玉をひとにぶつけるという遠慮のなさについても差のある相手を前になぜもっと最善の方法を取らなかったのか。ジョウは双循の頭の回転の速さ、いかに己が手を汚さずに上手い汁だけを吸うかを見極める慧眼については一目置いていた。だから不思議に思う。彼の行動はバルトとニケルを『各上の相手でも雪合戦でいい勝負をしながら勝利すること』に導いているように見えたからだ。ジョウが投球について、自分の経験を生かしてアドバイスをしたのもその意図を汲んでのことだ。

    随分不思議なことを言う。ジョウは素直に疑問を口にした。
    「じゃ、やんなきゃよかっただろ」
    一瞬だけ緑の眼が揺れる。その揺らめきは、これもジョウの知らないものだ。また心がざわつく。
    「強うならんと、どうしようもないこともある」
    足を速め、ジョウよりも半歩先を行きながら双循が言った。その視線が何を見ているのかはわからない。ただその声が、寒さとは違う何かに震えているような気がした。
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