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    iguchi69

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    ジョ双SSチャレンジ 6/7

    使い捨てカイロ/アイスクリーム/山茶花/来年の計画または目標普段なら買い溜めている服薬用ゼリーが切れたのはここ一週間スタジオに通い詰めだったからだ。大きなライブを控え、いよいよ大詰めとばかりに学校とアルバイト以外の時間はほとんど練習に費やしている。ドラッグストアの開いている時間に空を見上げることのできた日はもう遠い。ジョウは仕方なくコンビニで馴染みの商品を手に取った。今日と明日の分、ふたつをレジに渡す。表示されるのは記憶している価格よりも随分割高で、どうせ定価を払うなら近所のドラッグストアでは扱っていない珍しい味にすれば良かったなとしみったれた考えが頭をよぎった。

    「1回でーす、どうぞ」
    店員が片手で示したのは赤と白の抽選箱だ。500円で1回。大概がハズレの応募券だが、低くはない確率で何かしらの商品との引換券が手に入るらしい。少しばかり期待しながら手を入れる。こういった軽い運試しは好きな性質だ。軽くかきまぜ、指の先に当たったものを摘まむ。が、防火用グローブ越しでは薄く小さなカードを掴むのは難しかった。引き抜きざまに引っかかったものが指先のカードを道連れに、二枚がカウンターに落ちる。

    「あ」
    「あ、大丈夫ですよ。どちらにします?」
    よくあることなのだろうか。店員は狼狽えずジョウに問うた。幸いにも両方ともが引換券だ。あまりに対照的なふたつの景品を見比べ、ジョウは一瞬だけ逡巡し、片方を差し出した。

    ◇◇◇

    「これ」
    「なんじゃ、貢物か?」
    「クジで当たったんだよ。溶けるからさっさと持てって」
    イートインスペースで立っていた双循はつまらなそうに立てかけてあるフリーペーパーの表紙を眺めている。用事はなくとも寒い外で待つのは嫌なのだろう。平日夜10時のコンビニは混んではいないが閑散ともしていない。イートインにも数人のミューモンが疎らに座っている。長躯の男に背後を取られたサラリーマン風の男は、哀れにも怯えた顔を黒いガラスに映していた。

    「迷惑かけんな、行くぞ」
    「はぁ? おどれの寄り道に付き合うたったんじゃろうが」
    「じゃあコレ、ご褒美にやるよ」
    再びずい、と押し付けたものを双循は反射的に受け取った。強いにおいが鼻に抜ける。綺麗な球体に盛られたコーンのアイスクリームはジョウの手の中で微かに溶け、甘ったるい香りを放っていた。

    「帰るぞ」
    「あぁ!? オイ、クソ不死鳥……」
    反論は言わせずに店を出る。12月の寒風が髪を嬲った。ここからジョウの家までは5分ほどだ。わかっているから、双循もしぶしぶ後に続く。
    「このクソ寒い中わざわざこんなもん喰わせられるとはのう」
    「当たっちまったもんは仕方ないだろ。勿体ねぇし」
    「まったく、どこぞのアホの所為でどこもかしこも冷え切ってしまうわい」
    既に溶け始めている表面を赤い舌が控えめに舐めとる。真冬にアイスを食べながら歩く狛犬の異常さが、夜の人通りのなさの中で妙に幻想的だ。彼の言う言葉さえ聞かなければ、だが。
    「だったらこれで文句ないだろ」
    ジョウはアイスクリームを持っていない方の手を掴んだ。人並みの体温は不死鳥族にとっては驚くほどに冷たい。溶かすように握り、自分のポケットに無理矢理入れる。呆気に取られているらしい緑を見ないようにしながら、ジョウは「帰んぞ」と繰り返した。足早に道を行く。5分の道のりが早まってしまうのが、惜しいような気がした。

    もう1枚のクジが使い捨てカイロのパックだったことを双循は知らない。今日使わなくても置いておけるそれと、今食べなければいけないアイスクリームとを迷った挙句後者を選んだことも。口実を見つけなければ、多忙の中久しく触れていない肌に触れる理由を探せない臆病さを知るのは、道端の山茶花だけでいいと願う。
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