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    waha

    なんでも大丈夫な人向け夢とか/ぼそぼそ更新

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    bj/弟かと思ったらそうじゃなかった

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    よくできましたシール 小学六年生の時にシール集めがクラスで流行った。例に漏れず私もハマって、ラメが入った手触りのザラザラしたものやぷくぷくと柔らかいもの、タイルみたいに硬いもの等色んな種類を持っていた。昼休みには友達と手持ちのシールを広げて見せあったり、交換したりして楽しんだ。
     集めたシールの使い道はそれだけではなくて、近所に住んでいた2コ下の男の子が何か“いいこと”をするたびに「よく出来ました」と言ってシールをあげた。男の子、圭介は私によく懐いてくれていて、一人っ子だった私も本当の弟のように可愛がっていた。

    「おーい■■ー」
    「あっ圭介! 今帰り?」
    「おー」
     中学生になった私たちの関係は、あの頃と何も変わらない。同じ学校に上がった圭介は、学校でも通学路でも私を見掛けるたびに声をかけてくれた。
    私を引き止めて隣に並んだ圭介の目線が上から降ってくる。こいつ、会うたびに身長が伸びてない? 昔に比べて少し可愛げが無くなった気がする。
    「今日は喧嘩売ってきたヤツらボコしたぜ」
    「ふぅん……怪我は?」
    「ねーよ!」
    「それなら、まぁ」
     鞄から手帳を取り出して、挟んでいたシールを圭介に見せる。だいぶ種類も少なくなってきたから後で補充しておかないと。
     昔は“いいこと(例えば、夕飯のおつかいや、駆けっこで一番にゴールする等)”をしたらあげる『よく出来ましたシール』だったけれど、最近は喧嘩に勝ったらあげる『よく出来ましたシール』になってしまっている。圭介は強いし、男の子の問題に私が口出すのもおかしいかなとは思うんだけど。でも、やっぱり少し心配だった。
    「どれが良い? シャム猫あるよ」
    「んー、ミケ」
    「オッケー」
     指名が入った三毛猫を台紙から剥がして、圭介の携帯の裏に貼ってあげた。満足そうな表情が可愛い。背はぐんぐん大きくなるし、喧嘩ばっかりだし、勉強はちっとも出来ないけれど。圭介は小さい時から何も変わらない。いつだって私の可愛い弟だった。
    「そういえば、この前テストだったでしょ? どうだった?」
    「あーべっつにー」
    「……赤点だったってお母さん言ってたよ」
    「なぁ分かってんならわざわざ聞くなよぉ」
     犬とか猫なら耳がぺたんと下がっているんだろうな、なんて思ってしまうくらいに元気が無くなった圭介に苦笑する。この子は昔から本当に頭が悪いんだよなぁ。
    「教えてあげよっか? 勉強」
    「え、マジで!? 頼む!」
     可愛い弟の為なら。そう思って提案すると、思ったよりも食い付きが良くって嬉しくなった。やっぱりお姉さん振れるのはいつまで経っても良いものだ。
    「じゃあ荷物置いたら部屋行くね」
    「サンキュー!」
     背後から「飲み物買っとくわ」と聞こえたから「オレンジジュース」と返して別れた。教科書は圭介のを見れば良いし、財布と携帯だけ持って行けば良いかな。



    「お邪魔しまぁす」
    「オウ、悪りぃな」
    「良いよ。一年の内容なら余裕」
     取り敢えず分からない所を聞くと「全部!」と元気な返事が返ってきたので、特に点数の低かった数学の教科書を開いた。まずはテストで間違えた問題から解き直していこう。
     簡単そうな問題からノートに書き写して、それをじっと見ていた圭介の方にスライドさせる。一問目で止まってしまったシャーペンに呆れる気持ちをオレンジジュースで流し込む。圭介が準備してくれたそれは冷たくて美味しかった。

     三十分後。ようやく公式が頭に入った圭介は、公式が頭に入ったにも関わらず問題が解けなくて苦戦していたが、なんとか一問正解した。その後も時間は掛かるもののどうにか解いて、回答用紙にはマルが増えていく。その様子に少し安心してオレンジジュースに手を伸ばした。それは渇いた喉を潤すのには少し温くて気が抜けた。
     進みが遅いシャーペンから真剣な横顔に視線を移すと、頬の、普段は髪の毛で隠れる部分に傷があるのを見つけた。ほとんど治ってはいるけれど、きっと喧嘩でつくった傷だった。
     圭介が誰かに傷付けられたという事実になんだか悲しくなってしまう。きっと圭介が誰かを傷付けたという事実にも。
    「ね、もう喧嘩で勝った、はシール対象外ね」
    「はぁ? なんだよ急に」
    「テストで良い点取ったとか、宿題毎日やったとか、何か頑張った時にあげるよ」
     元々そう言う約束だったじゃん。それがどうして今のかたちになったのだろう。どうしてこの子が未だにシールを貰いに来るのかも、本当はよく分からないし。この繋がりが無くなるのは寂しいので、そこは絶対に言わないけれど。
     でも、これで少しでも喧嘩の回数が減るのだろうかとちょっとだけ期待した。
     私の宣言に不服そうな顔をした圭介は、じゃあさ、と言って顔を上げた。黒い髪が頬の傷を隠す。
    「■■、俺の目見ろよ」
    「ん?」
    「ガキの頃からずっとお前の事が好きだ。オレと付き合ってください」
    「えっ……え?」
     真っ直ぐな瞳が私の行動を制限する。あーとかうーとか言葉にならない呻き声みたいな音が口から出た。だって、いま、好きって言った?
    「……ほら、頑張って伝えたンだからくれよ、なぁ」
     「シール」と、机に置いていた私の手の甲に軽く触れて、そのまま指先が私の人差し指を真っ直ぐなぞった。背中がぞくりとして、一拍置いてからようやく顔に熱が集まる。
    「ちょっと、そういう冗談はダメじゃん」
    「フーン」
     圭介の手が私の手を攫って厚い胸板に押し当てた。心臓、すごくドキドキしてる。よく見ると顔も耳まで真っ赤。
    「冗談だと思ったかよ」
    「い、いいえ……」
    「うん。本気だぜ」
    「あっでも、鞄置いてきたからシール家だ」
    「あ? 良いよ別に」
     ほら、そう言ってさっきまで私の手の甲に悪戯していた指先が圭介の唇にトントンと触れる。
    「くれよ、“よく出来ました”のキス」
    「キス!?」
    「あ、待て。お前俺の事好きなんか? 返事聞いてねえ」
     圭介の真っ直ぐな表情とふたりの間に漂う青春みたいな雰囲気に流されてしまいそうになった。それでも本気の想いには正面から向き合わないといけない。私はこの子のお姉さんなのだから。
    「ごめんなさい。圭介のこと、弟としか見てない」
    「ふぅん」
     やっぱそうだよなぁ、みたいにひとりで納得するように呟いた圭介に胸が痛んだ。告白、断っちゃった。可愛い弟が心臓をバクバク鳴らして伝えてくれた想いに、私は応えられなかった。
    「じゃあ、とりあえず付き合ってみるか」
    「あれっ?」
     想像と違う展開に、さっきの納得した表情は何だった? と問いたかったけど、目の前に居る人が私の知っている「近所に住む弟みたいな男の子」とは別人で言葉が出ない。
     熱の籠った鋭い瞳とセクシーな八重歯、体格だって私よりずっと大きくてちゃんと男の子だ。無垢でおバカな弟じゃなく、虎視眈々と獲物を狙う肉食獣みたい。ゆっくりと距離を詰められているような、逆に離れていってるような、不思議な感覚。
     焦りからなのか何なのか、頭の中が真っ白になって自身のキャパオーバーを察する。それでも彼から目が逸らせない。
     ねぇ、もう私は圭介にとって「近所のお姉ちゃん」じゃないの? 分かりきった質問を投げかける勇気はもう無かった。
    「ちゃんとオレが男だって分からせるから。 だから、お前がオレの事好きになるまではココで良いぜ」
     唇がダメだと分かり、今度は頬を圭介の指が指す。私が固まっているのを見て楽しそうな顔をしたかと思うと、
    「キスってこうやるんだぜ。 知らねぇの?お姉ちゃん」
     全部がズルい。言葉選びも頬に触れた熱の優しさも何もかも。離れていった唇は悪戯っぽく弧を描いており、私はコイツの掌の上で遊ばれているみたい。悔しい。段々と自分の頭がクリアになってきているのが分かった。
    「教えてくれてありがとう」
     圭介の表情を隠すような黒い髪の毛を耳に掛けて、さっき見つけた傷跡に唇で触れる。私からの反撃を予想していなかったのか、圭介の身体はびくりと跳ねた。
     さっきの私と同じように、あーとかうーとか言葉にならない音をこぼす彼が可愛くて。うん、そう、やっぱり可愛いんだよなぁ。
    「ね、どうやって意識させてくれるの?」
     耳元で訊ねると強い力で肩を掴まれて身体を剥がされた。私の顔は火が出るんじゃないかってくらい真っ赤だけれど、圭介だって同じ色だ。格好良くて可愛い私の弟。
    「■■、てめぇなぁ……!」
    「先にしてきたのはそっちじゃん」
    「俺はお前の事が好きだから出来るんだよ! お前は俺の事好きでもなんでもねぇんだろ!?」
    「すっ好きだよ! ただ、恋愛感情とか、そういうのかはまだ分からないっていうか……」
    「じゃあ、取り敢えず付き合うって事で良いンだよな?」
    「ん、うん。 よろしくお願いします」
     小さく頭を下げると、「オウ」って太陽みたいな笑顔で答えてくれた。やっぱり可愛いじゃん。
     そう思っていると圭介の手が私の顔の輪郭をなぞって、今度は唇じゃなくて鼻先が頬に触れる。まるで大きな猫が擦り寄るみたいに。
    「なぁ、俺以外にこの距離許すなよ」
     やっぱりコイツ、可愛いだけじゃないじゃん。


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