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    海老🦐

    しんじゃのSSまとめです。

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    海老🦐

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    院生シン様×学部生ジャーファル 3
    現パロ大学生シンジャです。続きです。

    前回から間があいてしまってすみませーん!

    ##現パロ大学生シンジャ

    ----------------



     俺は本当にばかなんだと思う。もう二度と酒なんか飲むべきではない。何やってんだ。
    「なら俺とつきあってみる?」
     じゃない。つきあってみるわけがない。いくら酔ってたからって、何であんなことを言ってしまったんだろう。ジャーファルだってジャーファルだ。そんなの、何ふざけてんですかーとか、適当に笑い飛ばしてくれればよかったのに。大体つきあうって何だ。何をするんだ。あいつと俺で。自分で言っておきながら何もわからない。想像しかけて途中でつらくなる。それはあり得ない。俺は女の子が好きだ。かわいくてやわらかくて華奢で抱きしめたらいい匂いがするような女の子が好きなんだ。
     ああ、ジャーファルも同じように酔っ払ってて、都合よく全部忘れてくれてればいいのに。今はその可能性にかけたい。

     そっと研究室の扉を開けた。おそるおそる覗き込むとパソコンモニタの向こう側のジャーファルと目が合った。俺に気づいたジャーファルは恥ずかしそうにためらいがちにちょっとだけ微笑んで、それからさっと視線を手元の資料に戻してしまう。耳たぶが赤い、ような気がするたぶん。
     俺は心のなかで二十回くらい大きくため息をついて何とか心を落ち着ける。逆の発想だ。むしろこれは今がチャンスだ。ここできちんと「この間は酔っ払ってて記憶があんまりないんだ。変なこと言ってたらごめんなー」とかなんとか、適当になかったことにするべきだ。そうすればジャーファルだって、そうか酔っ払ったいきおいでつい口から出た冗談だったんだと安心するだろう。するに決まっている。
     そう覚悟を決めて力強く一歩を踏み出す。

    「連絡先、教えてもらってもいいですか?」
    「おう、もちろん」

     QRコードとかスキャンしてる場合じゃない。本当に。俺は何をやっているんだ。なんで連絡先を交換する必要があるんだ。いいからここで切り出せ、ほら、酔っ払っててうっかりええと、なんだっけ。
    「おや、仲良くなったんですねえ」
     いつの間にか教授がにこにこしながら横に立っていた。く、そっっ。心の中で悪態をつく。せっかくのチャンスが。さすがに教授の前でこんな話をするわけにはいかない。そうだ、俺たちは仲良くなったどころかつきあっている。そう言ったら教授は卒倒するだろうか、それとも、「それはよかったですねえ」なんてさらににこにこするだろうか。
    「あの、この間のお支払いをしたくて。いくらでしたか?」
    「え、あ、支払い? 別にいいよそんなの」
     昨日、飲み屋でジャーファルがトイレに行っている間に会計を済ましておいた。つい、いつもの癖でそうしただけなんだけど、うやむやにせずにちゃんと自己申告してくるところはえらい。黙ってればそのままになったのに。まあ、確かによく考えれば始めはジャーファルから俺へのお礼だったはずだから、お礼なのに俺がおごったらおかしなことになる。でもコーヒーをアルコールにグレードアップさせたのは俺だし、年上なんだし、それにそもそも大した金額でもないし。
    「いえ、そういうわけにはいきません。お礼で誘ったのに、逆におごってもらってしまうなんておかしいです。コーヒーだって」
    「いいって、ここは黙っておごられて」
     そしてついでにその後のあれこれをなかったことにして。
    「でも、」
    「ほんとに、いいんだ。どうせ俺の金じゃないし」
    「え、どういうことですか?」
     あ、しまった。うっかり口が滑った。
    「ええとそれは、うん、つまりね、ほら、支払ったのはカード会社だろ。だから大丈夫ってこと」
    「何言ってんですか、それって結局はシンが払うんじゃないですか」
    「いやまあそうなんだけど」
     笑ってごまかす。
    「もういいです、だったらこれで」
     諭吉を一人差し出される。いらない、というかもらえない。覚えてないけどそんなにはかかってないし、それに本当に俺の金じゃないから。むしろ錬金になってしまう。
    「あーいいって、ほんとに。あ、なあ、ジャーファルって映画好き?」
     何とかして話題を変えたい。
    「あまり見ないけど嫌いじゃないです。それよりとにかくこれ、受け取ってください」
    「いらないって、それよりさあ、見たい映画があるんだけど」
    「映画、ですか?」
    「そうそう、映画。つきあって。チケット代おごってくれればそれでいいから。な、いいだろう?」
     そしてここですかさずの営業スマイル。ジャーファルは俺に万券を押しつけていた手をふっとゆるめる。
    「何か見たいんですか?」
    「あ、そうなんだ。先週から始まったやつ、知ってる?」
     急いでスマホを開いて映画館のサイトから最新作をチェックする。なんでもいいだろ、適当な作品をタップしてジャーファルに見せた。
    「これ」
    「知らない、ですけど。でも、映画一本じゃ足りないです。あ、他にも何か見たいのありますか?」
     意外としつこいな、こいつ。ちらりと後ろを振り返る。教授は応接用のソファで、眼鏡を額のあたりまで持ち上げながらスマホ画面に見入っている。老眼のせいで小さい文字が読めないからスマホをいじるときはいつも真剣だ。よしよし、今なら大丈夫だ。
    「いいからって。なあ、ジャーファル。そういうのは金額の問題じゃないだろう? 一緒に酒飲んで、映画見て、ご飯食べて、それで楽しかったら」
     ちょうどよく観葉植物で遮られる角度に立って、ふいっとジャーファルの耳元に顔を寄せた。
    「俺はそれが嬉しいんだ」
     ついにジャーファルは黙る。両目を大きく見開いてじっと俺を見た。じわじわと顔が赤くなっていく。色が白いからわかりやすい。にこっと笑いかけると、ついには俯いてしまう。あはは、かわいいな。

     俺は本当に救いようのないばかだな。だから、こいつを、落として、どうする。五分で我に返って、それから猛烈に後悔した。後悔先に立たず。

     結局、酔った勢いの「つきあってみる?」を撤回するどころかまたしても俺はジャーファルとデートすることになっている。何してんだ。調子にのるからだ。さて、ここからどうしよう。まあ、映画を見るくらいなら。
     待ち合わせた道玄坂のエクセルシオール前にすでにジャーファルはいた。俺も別に遅刻したわけじゃないが、時間には正確そうに見える。正確どころか、待ち合わせの三十分前には到着していそうなタイプだ。ものすごく勝手なイメージだが。
     ジャーファルは顔も服装も地味すぎて、渋谷の雑踏に溶け込むとまったく目立たない。そのくせ向こうはすぐに俺を発見してしまう。小さく手を振るとちょこんと頭を下げた。
    「お待たせ」
    「いえ、たった今来たところです」
     いつも待ち合わせの相手は女の子ばかりだから、こうしてジャーファルと二人、街中に並んでいると久しぶりに友だち同士で出掛けた気分になる。そうだ、友だち、友だちじゃ駄目だったんだろうか、俺たち。
    「実は知らなくて、この映画。話題作なんですね。予告動画見てみました」
     そう言ってジャーファルはスマホを傾ける。興味がなくてもちゃんと予習するところがまた律儀だなあと思う。俺なんか正直、この映画のことを何ひとつ知らない。
    「そうなんだよ、気になっててさあ」
    「へえ、シンは映画が好きなんですね」
     いや、別に、全然。デートで映画を見るなんてことも、もう長い間ご無沙汰だ。最後に映画館に行ったのはいつだっただろう。思い出せないくらい昔だ。ここ何年かはずっと、夜になると街に出て、適当に呼ばれるまま飲み会やクラブに顔を出して、そのまま気に入った女の子をお持ち帰りするばかりだった。行き先はホテルか女の子の家。それだけ。自分で考えてみてもなんだかなあと思う。何かもっと他にすることはなかったんだろうか。なかったんだろうな。
     映画館ではさすがにおごってもらった。チケットとポップコーンとコーラ。これ以上こちらが出せば、またこの無意味なお礼デートを繰り返すことになってしまう。さすがに今日で最後にしたい。映画を見たら飯を食って、それで帰り際にきっぱり断ろう。酔った勢いで変なこと言った、ごめんと。冗談ですと。正直に謝ればきっと笑って許してくれるだろう。ジャーファルだって本気にしているわけではないんだと思う。俺が飲みに誘って、つきあおうとかふざけたこと言って、それから映画に誘った。よく考えたらジャーファルは単に俺にお礼がしたかっただけなのだ。妙な茶番に巻き込んでしまって申し訳なかったな。だからお詫びに飯をおごる。それでおしまい。
     映画はあまりおもしろくなかった。おもしろくないというより、よくわかんなかった。画面にまったく集中できなくて、ぼんやりつらつらとそんなことを考えながら時折横をチラ見しては、真剣にスクリーンに見入っているジャーファルの横顔を眺めた。ポップコーンはしょっぱいのと甘いのがカップに半分ずつ入っていて、ジャーファルはしょっぱい方ばかり食べるから仕方なく俺は甘い方ばかり食べた。

    「今回は監督が自分で脚本書いてるんですね。共著じゃなくて個人でクレジットされてました。すごいと思いません?」
     Bunkamuraの並びにあるフレンチビストロでワインをちびちび舐めてる間、ずっとジャーファルはさっき見た映画について語っている。俺は適当に相槌を打ちながら、だんだん眠くなってくる。映画はあまり見ないとか言って、よく知ってるじゃないか。今回っていうのはつまり、前作も見たということだろうか。大体からして監督の名前を聞いても俺にはさっぱりだ。そもそも興味がない。
    「主人公がまたかっこよかったですよねえ、特にあの最初の劇場襲撃のシーンで」
    「ああいうのがいいの?」
    「うん、かっこいいですよ」
    「そうか?」
    「それどういう意味ですか?」
     ジャーファルがけたけた笑った。酔っているのか、こいつ。
    「ああいうのが好きなのかってこと」
    「特殊部隊上がりの諜報機関工作員ですか? まさか。アクションがかっこよかったですよね、ってことです。特にスーツを着て格闘するのって実際にはきついらしいですよ。撮影ではスーツが何枚も破けるって、聞いたことあります」
     やっぱり。本当は映画好きなんじゃないのか、これ。いろいろと知ってるようで。
    「へえ、スーツ着て戦うことはさすがにないからなあ」
    「シンはスーツ似合いそうですね。背が高いし」
    「顔もいいし?」
    「自分で言います? それ」
     またしてもジャーファルはおかしそうに笑う。俺は今おかしなことを言っただろうか。なんかちょっとむっとした。確かにいつもTシャツに短パンとかだらしない格好ばかりかもしれないが、俺だってちゃんとしたスーツくらい持ってるし、それなりに着こなせる。少なくともあの主人公くらいには、こう、びしっと。特殊部隊の経験はないけど。ただし、学校に着ていくとなればせいぜい就活スーツくらいで、それだって別に就活もしてないのにわざわざ着る理由もない。
    「そうだ、スーツと言えばさあ、来週の水曜なんだけど。夜、空いてる?」
    「水曜ですか? はい、特に予定はないです」
    「教授からセミナーの招待状もらってるんだ。本当は教授宛なんだけど、行かれないから代理で行ってこいって。一緒に行く? デリバティブの評価モデル開発をテーマにクオンツアナリストが喋るんだけど」
    「あ、はい、行きたいです。実務レベルでの話が聞けるってことですよね」
     よし、いい食いつきだ。俺も、ちょうどいい具合にいい具合なネタを持ってたもんだ。教授のおかげなんだけど。
    「そうそう。じゃあ、詳細はリンク送るからそっから見て」
    「そのセミナーって学生が行ってもいいんですか?」
    「うん、まあそれはたぶん平気なんだけど」
     なにしろ教授の名代だ、門前払いということはさすがにない。ただし、参加者に学生はいない。たぶん。ほとんどが現役の金融マンで、あとは研究者。そんな中でTシャツに短パンはさすがに厳しい。
    「ところでスーツ持ってる?」

     決してムカついたからとか、そういうことではない。さすがの俺もそこまで大人げなくはない。ハリウッドスターと張り合ったところで無駄でしかないし、なんたって相手はスクリーンの向こうのキャラクターだ。でも、俺だってスーツくらいそれなりに着こなせる。ただし、いくら口でそんな説明をしたところで虚しいだけだ。だからといってスーツを着る機会も理由もない。なければつくればいい。セミナーはちょうどいい口実になった。声をかけられたときには面倒臭くて断ったくせに、俺は翌日、教授に頭を下げて二人分の参加申し込みを頼んだ。先生が招待状を捨ててしまっていなくてよかった。
     だから当日、カンファレンスルームに現れたジャーファルがスーツ姿の俺を見るなりちょっと固まったのはおかしかった。オーダーではないけどトム・フォードの威力はなかなか絶大だ。ついでのフォーナインズは度の入ってない単なる伊達メガネ。全部買ってもらったもので一円たりとも自分では払ってないし、着せ替え人形にされてるだけで別に俺の趣味ではない。見た目の通り、ちゃんとした社会人っぽさを演じることも忘れない。そういうのは得意だ。
     ジャーファルは妙にぎこちなくそわそわしているし、何よりさっきからずっと目が合わない。席についてからも手元の資料を捲ってばかりでこちらを見ようとしない。挙句の果てにちょっと指先が触れただけで跳ね上がって、その資料の束を机の下に全部落とした。大げさだろう。屈んで拾い上げてるジャーファルの耳たぶが赤くなってて、子どもみたいだった。かぷりと噛みついたらひっくり返るだろうか。期待していた以上の効果で、さすがにちょっと気まずい。そんなにか?
    「それ、就活用?」
    「あ、はい、そうです」
     相変わらず視線を逸したままでジャーファルが答える。いかにもリクルートスーツっぽい格好、でも意外と似合ってる。清潔感がスーツ着て歩いてるみたいで、面接官に好感を持たれそうだ。いつもは掛けている眼鏡を今日は何故か外していて、コンタクトにしたのだろうか、そのせいか若干幼く見えた。
    「あの」
    「うん?」
    「七五三みたいって思ってます?」
    「し、しち、ご?」
     耐えきれずに吹き出してしまった。不意打ちすぎる。別にそんなことは思ってなかったけど、そう言ってようやくこちらを振り返った顔があまりにも、あんまりだったせいで。
    「やっぱり」
    「いや、思ってないって。自分で言ったんだろ」
    「じゃあ、なんで笑うんですか?」
     必死に笑いをこらえる。息が苦しい。せめて成人式にしてほしい。なんだよ七五三て、五歳かよ。
    「いいんです、笑いたければ笑ってください。そりゃあ、シンと比べたら」
    「俺と比べてんの?」
    「ち、違いますけど」
    「大丈夫だ、自信持てよ。かわいいから」
     あ、うっかり余計なことを言った。さすがにスーツ着た成人男子にかわいいはないだろう。案の定、さらに顔を真赤にしてジャーファルは口唇を噛んだまま、怒ってるのか照れてるのかよくわからない表情で見上げてくる。その上目遣いはやめろ。
    「スーツで、かわいいって何か、」
    「ごめん、そういう意味じゃなくて。あー、ええと、ほら、なんだ?」
    「別にいいですって、フォローしなくても」
    「フォローしてるわけじゃないって、本当に」
     本当にフォローしているわけじゃなかったけど、でも、なんて言えばいいのかわからなくて慌てる。上手く表現する言葉が見つからない。
    「あれ?」
     突然、頭上から声が降ってくる。二人して同時に顔を上げた。知らない男がジャーファルに笑いかける。
    「久しぶり」
     ジャーファルの表情が一瞬だけぴりっと緊張したのを俺は見逃さなかった。でもそれは本当に一瞬で、すぐにくだけた笑みを見せる。それは他の誰かにはあまり見せない、俺にだけ向けるような類の笑顔だった。
    「お久しぶりです」
    「こんなところで会うなんて、驚いたよ。セミナーに?」
    「あ、うん。今日は付き添いで」
    「そうなんだ」
     男はちらりと俺を見た。俺も遠慮せず見返す。いたって普通の会社員という感じだ。ひょろりと細身で、着慣れたふうにスーツを着こなし、ものすごく美形という感じではないがどちらかと言えば薄めの、やさしそうな雰囲気の顔立ち。一見温和そうに見えるが、俺へ向ける視線にピリッとした刺激を含んでいる、ような気がした。気のせいかもれない。
     それきりどちらも黙ってしまう。黙ったまま見つめ合っている。なんだこの空気は。実際には数秒だったと思うが、体感でたっぷり数分くらいその謎の間は続いて、そこで時間切れ。扉が開いてスタッフが入ってきた。時計を見れば、ちょうど始まる時刻だった。
    「元気そうでよかった」
     柔らかな声で男は言った。
    「うん」
    「それじゃあ」
    「うん」
    「後で連絡するよ」
    「それはいらない」
     ジャーファルは曖昧に笑って頭を振った。俺はそんな二人をただ黙って凝視していた。なんだこのやりとりは。「連絡するよ」「いらない」、いらないってなんだ? 何の連絡かは知らないけど、断ることってあるのか?
     それきり。ジャーファルは何事もなかったようにアナリストの講義に耳を傾け、メモを取りながら真剣に聞き入っていた。セミナーの後、あの男は特に話しかけてくることなく、別の知り合いと談笑しながらさっさと部屋を出ていってしまった。講義の内容はさっぱり頭に入らず、俺はその後ずっとさっきのやりとりを脳内で反芻しながらもやもやしていた。さっきのあれが誰なのか、一体どんな関係なのか、結局何も聞き出すことができないままその日は帰路についた。
     肝心なところで気が小さい。のかもしれない。
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    海老🦐

    DOODLE院生シン様×学部生ジャーファル 10-2
    これで最後です。
    おつきあいくださりありがとうございました!
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     ちょうど改札を出てくるところだった。手を振る前にこちらに気づいて、へらっと笑った顔がかわいかった。シンの、そういうちょっとした仕草が愛おしくてたまらない。
    「二次会、ジャーファルも来ればよかったのに。三年も結構来てるやついたぞ」
     駅構内にはまだ人がたくさんいるのに、シンは構わずに抱き寄せてくる。人前だろうがなんだろうが隠れたりしない。
    「いやですよ、だって絶対シンが酔ってべたべたしてくるもん」
    「なんでだよ、別にいいだろ。俺、みんなの前でおまえとつきあってるって言ってもいいよ。むしろ言いたい」
    「ぜったいにダメです」
     むーーっと口を尖らせて寄せてくる顔をブロックして体を引き剥がす。シンは抵抗ないのかもしれないけど、わたしはさすがにちょっと人前は。
    「ええ、何それひどくない? 俺とつきあってるって知られるのやなの?」
    「嫌ですよ、ゼミの中だけでもあなたのこと好きな女子が何人いると思ってるんですか? あなたは卒業したら関係ないかもしれないですけど、わたしはまだあと一年あるんですよ? いたたまれないですよ、そんなの」
    「へえ、ジャーファルってそう 4653

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    海老🦐

    DOODLE院生シン様×学部生ジャーファル 2
    現パロ大学生シンジャです。続きです。

    ほんとシン様が女の子にだらしないので、苦手な方は避けてくださいー
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     研究室の冷房はいつも効きすぎていて、長時間籠もっていると外がどんなに猛暑でも手足が冷える。俺は特に、素足にサンダルだし。
    「はい、どうぞ」
     紙袋から取り出したホットコーヒーの紙コップをキーボードの横にちょこんと置くと、ジャーファルが顔を上げた。眼鏡の奥からこっちを見上げる目が真ん丸だ。
    「え? あの」
     明らかに戸惑っている。
    「この間のお詫び。せっかく誘ってくれたのに断ってごめんな」
    「そんな、お詫びだなんて。こっちがお礼をしたかったのに」
    「いいの、いいの。この部屋寒いだろ? ホットの方がいいかなと思って」
     ためらいがちに手を伸ばして紙コップを手に取る。ジャーファルがふわっと笑った。またあの笑顔だ。なんでかそれを見て安心した。
    「ありがとうございます、嬉しいです」
     ジャーファルはおずおずと両手で持ってふーふーしながら口をつけた。女子かよ! 喉まで出かかった突っ込みをごくりと飲み込む。蓋に小さくくり抜かれた飲み口からいくら息を吹き込んだところで無駄だろう。
    「ところで教授は? もしかしてお昼行っちゃった?」
    「いえ、出かけてます。戻りは 3879

    海老🦐

    DOODLE院生シン様×学部生ジャーファル 3
    現パロ大学生シンジャです。続きです。

    前回から間があいてしまってすみませーん!
    ----------------



     俺は本当にばかなんだと思う。もう二度と酒なんか飲むべきではない。何やってんだ。
    「なら俺とつきあってみる?」
     じゃない。つきあってみるわけがない。いくら酔ってたからって、何であんなことを言ってしまったんだろう。ジャーファルだってジャーファルだ。そんなの、何ふざけてんですかーとか、適当に笑い飛ばしてくれればよかったのに。大体つきあうって何だ。何をするんだ。あいつと俺で。自分で言っておきながら何もわからない。想像しかけて途中でつらくなる。それはあり得ない。俺は女の子が好きだ。かわいくてやわらかくて華奢で抱きしめたらいい匂いがするような女の子が好きなんだ。
     ああ、ジャーファルも同じように酔っ払ってて、都合よく全部忘れてくれてればいいのに。今はその可能性にかけたい。

     そっと研究室の扉を開けた。おそるおそる覗き込むとパソコンモニタの向こう側のジャーファルと目が合った。俺に気づいたジャーファルは恥ずかしそうにためらいがちにちょっとだけ微笑んで、それからさっと視線を手元の資料に戻してしまう。耳たぶが赤い、ような気がするたぶん。
     俺は心のなかで二十回 7218

    海老🦐

    DOODLE院生シン様×学部生ジャーファル 7
    現パロ大学生シンジャです。続きです。

    おそいうけ~~
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    「ちょっ、ちょっとシン!?」
     わめくジャーファルを引っぱってエレベーターに押し込む。閉じるボタンを連打すれば、ゆっくりと扉が閉まってエレベーターは静かに上昇し始めた。もう逃げ場はない。それでも俺は手を放さない。
    「痛い、はなしてください」
    「はなさない」
     狭い箱の中で向き合う。俺は口を真一文字に結んで押し黙ったままでいる。明らかにジャーファルは戸惑っているけど、そんなことはどうでもいい。スマートフォンが鳴る。俺のじゃない、ジャーファルのだ。掴まれていない方の手でバックパックのポケットから引っ張り出したスマホを、俺はすかさずジャーファルの手から取り上げた。
    「あ、待って」
     鈍く光っている画面を見る。知らない名前だ。たぶん準ミスだろう。
    「返してください」
    「だめ」
    「さっきの彼女からです」
     だからだめなんだろうが。俺が答えないでいると、諦めたのかジャーファルはため息を一つ吐いた。
    「一体どうしたんですか、いきなりこんな」
    「おまえ、あの子とつきあってんの? 俺と別れて」
    「はあ?」
     ジャーファルは思いきり眉根を寄せた。
    「俺の代わりにあの 5976