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    海老🦐

    しんじゃのSSまとめです。

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    海老🦐

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    院生シン様×学部生ジャーファル 10-2
    これで最後です。
    おつきあいくださりありがとうございました!

    ##現パロ大学生シンジャ

    ----------------



     ちょうど改札を出てくるところだった。手を振る前にこちらに気づいて、へらっと笑った顔がかわいかった。シンの、そういうちょっとした仕草が愛おしくてたまらない。
    「二次会、ジャーファルも来ればよかったのに。三年も結構来てるやついたぞ」
     駅構内にはまだ人がたくさんいるのに、シンは構わずに抱き寄せてくる。人前だろうがなんだろうが隠れたりしない。
    「いやですよ、だって絶対シンが酔ってべたべたしてくるもん」
    「なんでだよ、別にいいだろ。俺、みんなの前でおまえとつきあってるって言ってもいいよ。むしろ言いたい」
    「ぜったいにダメです」
     むーーっと口を尖らせて寄せてくる顔をブロックして体を引き剥がす。シンは抵抗ないのかもしれないけど、わたしはさすがにちょっと人前は。
    「ええ、何それひどくない? 俺とつきあってるって知られるのやなの?」
    「嫌ですよ、ゼミの中だけでもあなたのこと好きな女子が何人いると思ってるんですか? あなたは卒業したら関係ないかもしれないですけど、わたしはまだあと一年あるんですよ? いたたまれないですよ、そんなの」
    「へえ、ジャーファルってそういうの気にするんだ」
    「します。体育館裏に呼び出されたりしたらどうするんですか」
     途中、コンビニで買ったペットボトルの水を押しつける。
    「俺、それ、影からスマホでムービー録りたい」
    「もう、他人事だと思って」
    「絶対おもしろい」
     しつこく肩を組んでくるので、するりと身を交わし先に立って歩き出す。
    「あれ? ジャーファル、ジャーファルくーん」
     慌てて後ろから追いかけてきたシンが、怒ったと思ったのか機嫌をとろうと何度も名前を呼んでくるのがまたおかしい。別に、何も怒ってないのだけど。(ただし、人前でキスはできません)
     ふいに手をとられる。振り返ると、叱られた子犬みたいな顔できゅっと手を握られた。ほんのわずか握り返すと、ぱっと笑顔になる。
    「怒った?」
    「何も怒ってないですよ」
     指を滑り込ませ、右手と左手を絡め合う。
    「手、つないでくれるの」
     こくんと無言で頷く。
    「嬉しいなあ」
    「それはよかったです」
     そんなに喜んでくれるのなら、このくらいはいいかな。どうせ誰も見てないだろうし。そうして手をつないで二人、夜の帰り道をのろのろと歩いた。
    「ジャーファルが手、つないで歩いてくれるようになった。前は触れただけでびくってなってたのに」
     ふと、シンが思い出したように言う。
    「前、って?」
    「おまえさ、俺のことずっと怖がってただろ」
    「怖がってなんかないですよ、いつのことですか?」
    「最初の頃、去年の夏とか」
    「怖いなんて全然、そんなこと思ったこともないです」
     記憶をたどる。でも、思い出せない。そもそもそんなこと考えたこともない。
    「うそだあ、だってさ、何かのタイミングでちょっとこう、手が触っちゃったくらいで飛び退いてただろ」
    「そう、でしたっけ」
    「飯盒炊さんのときだって、頭についてた灰を取ろうとしたら後ろにひっくり返った」
    「あ、ああ、そんなこともありました、ね」
    「実はちょっと傷ついてたんだよね」
     そんなこと、気にしてたんだ、シンって。意外だった。すごく。
    「さすがに嫌われてるとは思ってなかったけど、でも俺に触られるのが怖いのかなって思ってた」
    「違います、それはシンが怖かったんじゃなくて、シンに嫌われるのが怖かったんです」
    「何それ、どういう意味?」
    「だって、わたし、ずっとシンのことが好きだったんですよ」
     シンは眉間に皺を寄せてしばらく考え込む。
    「うん、わかんないな」
    「それはえーと、説明が難しいんですけど」

     セックスが嫌いなわけじゃなかった。人並みに性欲はあったし、気持ちいいことはしたいと思う。入れるより、入れられたいと思う。触ってもらわなくても中だけでいけるし、どこをどうされたら自分の体がどう反応するかもちゃんと知ってる。
     でも学校の友だちはたぶんみんな、こいつは恋愛に縁がないと思ってたと思う。彼女がいたこともないし、浮いた話だってまったくないし。奥手で経験がないだけと思われてれば気が楽だった。何より自分からそういう話をするのは絶対に避けていた。話題をふられても適当に知らないふりをして誤魔化した。だって、こんなこと話せない。話せるわけがない。いいところを突かれたら声を上げてよがるし、口でするのも、されるのだって好きだった。だけどそんなこと、誰にも言えない。知られたくない。恥ずかしいというよりは醜いと思われることが怖かった。
     シンは何度も何度もかわいいって言ってくれた。声をたくさん出した方がずっと気持ちがいいということもわかった。でも、セックスの仕方を教わったのはシンじゃなかった。

     初めての人。何もかも全部が。その人はほんの少し大人で、そのくせ子どもっぽい人だった。人目に隠れて手をつないだり、舌を絡めるようなキスをしたり、肌を寄せ合って他人と眠ったりしたのはその人が初めてだった。向こうから声をかけてきて、それからつきあうことになった。最初は恋愛というよりむしろ驚きが大きかった。自分にもこんなチャンスがあるんだってことに。女の子を好きになることができないと気づいてから、恋愛は諦めていた。そこまで誰かとそういう関係になりたいと思うことがなかった。受験で忙しかったし、元々そんなに興味があったわけでもなかった。でも、その人のことはつきあっているうちにちゃんと好きになった。一緒にいて楽しかった。学んだこともたくさんあった。けんかもよくしたけど、別れた直接の原因はすれ違うことが増えたせい。忙しいからと約束をよくすっぽかされ、会うことも連絡することも減っていった。たぶんきっと今は仕事が楽しいんだろうなと理解はしてるつもりだった。たぶんお互い嫌いになったわけではなかったけど、なんとなく関係が冷めていって、最後は笑顔でさよならをした。平凡な恋。傷ついたりのぼせ上がったりすることもなく、こんなもんなんだろうなと、冷静に思い返すことができるくらいの。だからこれでもう、おしまい。この先の人生で自分が本気で恋愛するなんて想像できなかった。

     シンには嫌われたくなかった。でも本当のわたしのことを知ったらどう思うんだろう。それが一番怖かった。あなたに抱かれたいんです。なんて言ったらどんな顔するんだろう。
     必要以上に踏み込まないように慎重に、これ以上好きになったりしないように、欲望が目覚めたりしないように、努めて冷静に。それこそ、きちんと最後には良い友人になれるように。
    「シンが女の子を好きなのはよくわかってたし、つきあってみるって言ったのはもちろん冗談で、わたしのことを恋愛対象として見ることも絶対にないって、ずっとそう思ってて」
    「あ、そうなんだ」
     シンが苦笑いする。わたしも笑った。それはそうに決まってる。
    「でもわたしはきちんと自覚してたんですよ。あなたのことが好きだったし、手を握ったり、キスしたり、その、そういうことしたいって」
    「そういうこと」
    「つまり、抱かれたいって思ってたってことです。でも一生懸命隠してたんです。だって、気持ち悪いでしょう? きっとわたしがそんなこと考えてるって知ったらあなたは傷つくから、だから必死で隠してたんです。それが一つ」
    「他にもあるのか?」
    「もう一つは、やっぱり知られたくなかったんですけど、もし仮にですよ、仮にあなたとそういう関係になって、抱かれたら」
    「へ?」
    「バレちゃうじゃないですか、初めてじゃなかったって。それが、絶対に嫌だったんです」
     思わず力強く言いきって、はたと我に返る。うっかり大きな声を出してしまった。
    「嫌って、おまえ」
     シンは呆気にとられている。
    「前におつきあいしてた人がいたってことも、それに、い、一応わたしにもそれなりに性欲というものがあって、ですね、」
    「ん? うん」
    「好きなんです、セックスだって、別に。嫌いなわけじゃなくて。だからあなたに抱かれたりしたら、その、そんなの絶対に気持ちよくなっちゃって、出ちゃうと思ったんです、いろいろと。は、はしたないとことか」
    「はしたない、とこ」
    「見たでしょう」
    「まあ、ね」
    「絶対に見られたくなかったのに」
    「え、かわいいじゃん」
    「は?」
    「だからかわいいって。大丈夫だ、自信持て」
    「だって、汚くないですか?」
    「じゃあ、おまえ、俺のこと汚いって思ってたの?」
    「思わないです、そんなこと」
     思い切りよく頭を振った。シンはまだ腑に落ちないって顔をしている。
    「俺は汚くないのに、前につきあってた彼氏がいたってのと、セックスが好きってだけでおまえは汚いってこと? それはちょっと、曲解すぎないか?」
    「シンはわたしのこと、聖人君子か何かだと思ってたでしょう? 真面目で勉強ばかりしてて、それで恋愛なんてまるで縁がないやつだって」
    「ああ、確かにそう言われてみれば、そう思ってたかも。最初の頃は」
    「それなのにそうじゃなくて、それがわかって幻滅されたらどうしようって」
     好きになってもらわなくてもいい、でも嫌われたくなかった。その思いが強すぎて、無意識に態度に出てたのかもしれない。
    「それで? 俺に触るのが怖かったのかよ」
    「そうです、指が当たっただけで心臓が飛び出るかと」
    「さすがにそれは、俺にはわかんないな」
    「わかんない、ですか?」
     そんなに難しいことなんだろうか。いたって単純だと思ったんだけど。うーんとしばらく唸ってからシンはぽんぽんとわたしの肩を叩いた。
    「まあでも、一つ言えることは、全部無駄だったってことだな」
    「わたしのこと、軽蔑、しませんでした?」
    「なんで謝ってるのかなとは思った。クリスマスのとき、気持ちいいって言いながら、ごめんなさいって。あとずっと、俺は怖がられてると思って傷ついたりはした」
    「それは、すみません」
     自分を守るのに必死でシンのことを考える余裕がなかった。そんなふうに傷ついてたなんて、考えもしなかった。ぐいっと手を引っ張られて肩と肩がぶつかる。
    「そっかあ、ジャーファルくんはそんなこと考えてたのかあ」
     こころなしか、シンの声はとても嬉しそうに聞こえた。
    「そうです」
    「えっち」
    「うるさい。わたしだって男なんです」
    「そうか、そうか。じゃあ、帰ったらえっちなこといっぱいしよ」
    「望むところですよ」
     むふふとシンが満足そうに笑った。結局こうなるんだったら、何も心配なんてすることなかったのに。あんなに不安になって、萎縮してた去年の自分にそう教えてあげたい。ちゃんと幸せになれるよって。
     ちょうどまたあの桜並木を通りがかる。見上げればまばらな白い花がさわさわと枝の先で揺れている。シンがこっちを見ているのに気づく。顔を傾ければ、ちゅっと口唇にキスされた。家に帰ったらたくさん抱きしめてもらおう。そしてたくさん甘えて、思いきり甘やかそう。そう思ったら、みぞおちの辺りがきゅっとなった。
    「ジャーファルってさあ、意外とめんどくさいよな」
     そう言ってシンはわたしの頭をわしゃわしゃと撫でた。確かに、意外と結構めんどくさい。自分でもそう思った。でもそれは、相手がシンだからだ。だって本当に好きな人のことはいつだって怖い。
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    海老🦐

    DOODLE院生シン様×学部生ジャーファル 10-2
    これで最後です。
    おつきあいくださりありがとうございました!
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     ちょうど改札を出てくるところだった。手を振る前にこちらに気づいて、へらっと笑った顔がかわいかった。シンの、そういうちょっとした仕草が愛おしくてたまらない。
    「二次会、ジャーファルも来ればよかったのに。三年も結構来てるやついたぞ」
     駅構内にはまだ人がたくさんいるのに、シンは構わずに抱き寄せてくる。人前だろうがなんだろうが隠れたりしない。
    「いやですよ、だって絶対シンが酔ってべたべたしてくるもん」
    「なんでだよ、別にいいだろ。俺、みんなの前でおまえとつきあってるって言ってもいいよ。むしろ言いたい」
    「ぜったいにダメです」
     むーーっと口を尖らせて寄せてくる顔をブロックして体を引き剥がす。シンは抵抗ないのかもしれないけど、わたしはさすがにちょっと人前は。
    「ええ、何それひどくない? 俺とつきあってるって知られるのやなの?」
    「嫌ですよ、ゼミの中だけでもあなたのこと好きな女子が何人いると思ってるんですか? あなたは卒業したら関係ないかもしれないですけど、わたしはまだあと一年あるんですよ? いたたまれないですよ、そんなの」
    「へえ、ジャーファルってそう 4653

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    海老🦐

    DOODLE院生シン様×学部生ジャーファル 2
    現パロ大学生シンジャです。続きです。

    ほんとシン様が女の子にだらしないので、苦手な方は避けてくださいー
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     研究室の冷房はいつも効きすぎていて、長時間籠もっていると外がどんなに猛暑でも手足が冷える。俺は特に、素足にサンダルだし。
    「はい、どうぞ」
     紙袋から取り出したホットコーヒーの紙コップをキーボードの横にちょこんと置くと、ジャーファルが顔を上げた。眼鏡の奥からこっちを見上げる目が真ん丸だ。
    「え? あの」
     明らかに戸惑っている。
    「この間のお詫び。せっかく誘ってくれたのに断ってごめんな」
    「そんな、お詫びだなんて。こっちがお礼をしたかったのに」
    「いいの、いいの。この部屋寒いだろ? ホットの方がいいかなと思って」
     ためらいがちに手を伸ばして紙コップを手に取る。ジャーファルがふわっと笑った。またあの笑顔だ。なんでかそれを見て安心した。
    「ありがとうございます、嬉しいです」
     ジャーファルはおずおずと両手で持ってふーふーしながら口をつけた。女子かよ! 喉まで出かかった突っ込みをごくりと飲み込む。蓋に小さくくり抜かれた飲み口からいくら息を吹き込んだところで無駄だろう。
    「ところで教授は? もしかしてお昼行っちゃった?」
    「いえ、出かけてます。戻りは 3879

    海老🦐

    DOODLE院生シン様×学部生ジャーファル 3
    現パロ大学生シンジャです。続きです。

    前回から間があいてしまってすみませーん!
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     俺は本当にばかなんだと思う。もう二度と酒なんか飲むべきではない。何やってんだ。
    「なら俺とつきあってみる?」
     じゃない。つきあってみるわけがない。いくら酔ってたからって、何であんなことを言ってしまったんだろう。ジャーファルだってジャーファルだ。そんなの、何ふざけてんですかーとか、適当に笑い飛ばしてくれればよかったのに。大体つきあうって何だ。何をするんだ。あいつと俺で。自分で言っておきながら何もわからない。想像しかけて途中でつらくなる。それはあり得ない。俺は女の子が好きだ。かわいくてやわらかくて華奢で抱きしめたらいい匂いがするような女の子が好きなんだ。
     ああ、ジャーファルも同じように酔っ払ってて、都合よく全部忘れてくれてればいいのに。今はその可能性にかけたい。

     そっと研究室の扉を開けた。おそるおそる覗き込むとパソコンモニタの向こう側のジャーファルと目が合った。俺に気づいたジャーファルは恥ずかしそうにためらいがちにちょっとだけ微笑んで、それからさっと視線を手元の資料に戻してしまう。耳たぶが赤い、ような気がするたぶん。
     俺は心のなかで二十回 7218

    海老🦐

    DOODLE院生シン様×学部生ジャーファル 7
    現パロ大学生シンジャです。続きです。

    おそいうけ~~
    ----------------



    「ちょっ、ちょっとシン!?」
     わめくジャーファルを引っぱってエレベーターに押し込む。閉じるボタンを連打すれば、ゆっくりと扉が閉まってエレベーターは静かに上昇し始めた。もう逃げ場はない。それでも俺は手を放さない。
    「痛い、はなしてください」
    「はなさない」
     狭い箱の中で向き合う。俺は口を真一文字に結んで押し黙ったままでいる。明らかにジャーファルは戸惑っているけど、そんなことはどうでもいい。スマートフォンが鳴る。俺のじゃない、ジャーファルのだ。掴まれていない方の手でバックパックのポケットから引っ張り出したスマホを、俺はすかさずジャーファルの手から取り上げた。
    「あ、待って」
     鈍く光っている画面を見る。知らない名前だ。たぶん準ミスだろう。
    「返してください」
    「だめ」
    「さっきの彼女からです」
     だからだめなんだろうが。俺が答えないでいると、諦めたのかジャーファルはため息を一つ吐いた。
    「一体どうしたんですか、いきなりこんな」
    「おまえ、あの子とつきあってんの? 俺と別れて」
    「はあ?」
     ジャーファルは思いきり眉根を寄せた。
    「俺の代わりにあの 5976