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    海老🦐

    しんじゃのSSまとめです。

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    海老🦐

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    院生シン様×学部生ジャーファル 2
    現パロ大学生シンジャです。続きです。

    ほんとシン様が女の子にだらしないので、苦手な方は避けてくださいー

    ##現パロ大学生シンジャ

    ----------------



     研究室の冷房はいつも効きすぎていて、長時間籠もっていると外がどんなに猛暑でも手足が冷える。俺は特に、素足にサンダルだし。
    「はい、どうぞ」
     紙袋から取り出したホットコーヒーの紙コップをキーボードの横にちょこんと置くと、ジャーファルが顔を上げた。眼鏡の奥からこっちを見上げる目が真ん丸だ。
    「え? あの」
     明らかに戸惑っている。
    「この間のお詫び。せっかく誘ってくれたのに断ってごめんな」
    「そんな、お詫びだなんて。こっちがお礼をしたかったのに」
    「いいの、いいの。この部屋寒いだろ? ホットの方がいいかなと思って」
     ためらいがちに手を伸ばして紙コップを手に取る。ジャーファルがふわっと笑った。またあの笑顔だ。なんでかそれを見て安心した。
    「ありがとうございます、嬉しいです」
     ジャーファルはおずおずと両手で持ってふーふーしながら口をつけた。女子かよ! 喉まで出かかった突っ込みをごくりと飲み込む。蓋に小さくくり抜かれた飲み口からいくら息を吹き込んだところで無駄だろう。
    「ところで教授は? もしかしてお昼行っちゃった?」
    「いえ、出かけてます。戻りは二時だって言ってましたよ」
    「あ、そうなんだ。失敗したなー」
     とか何とか適当なことを言って、本当は知っててわざと不在のこの時間に来たのだけど。だけどよく考えたらおかしい。研究室に二人きりになって何をしようというのか。コーヒーでも驕って手なづけておこうと思っただけ。そう別にそれだけ。いや、そもそも手なづけたところで何か俺にメリットはあるんだろうか。
    「シンドバッドさんて何曜日にここにいらっしゃるんですか」
    「あー、はは、シンでいいよ。みんなそう呼ぶから」
    「じゃあ、シンさんは」
    「さんもいらない。曜日は特に決まってない。休み中はね。後期が始まったら割と毎日いるかなあ」
    「次、いつ来るか教えてくれませんか」
    「え、なんで?」
     突然そんなことを聞かれて何なのかと思えばそうか、これはきっとコーヒーを驕り返したいとかそういうあれか。でも別にコーヒーが飲みたいわけじゃないんだけどな。
    「コーヒーを」
    「言うと思った。本当に律儀だな。いいよ、コーヒーはもう」
    「なら何か別の、お昼とか?」
     お昼、というのは学食だろうか。別にいいけど。でもそれならもっと別の。
    「だったら、飲み行かない?」
     思わず口をついて出た言葉に自分でもびっくりする。びっくりするし間違えたと思った。だって、こいつはゼミ飲みにもめったに顔出さない。たぶん飲むのがあまり好きではない、はず。うっかりいつものノリで誘ってしまった。
     それに女の子じゃない、男だ。男を飲みに誘ってどうしようというのか、しかも何かあまり共通の話題もなさそうな……俺があれこれ考えあぐねていると、ジャーファルは意外にもあっさり頷いた。
    「いいですよ、それならそこは驕らせてくださいね」
     本当に律儀なやつ。かくして俺はジャーファルと二人で飲みに行くことになった。

     ポケットからスマホを引っ張り出す。むーむーと鳴いているそれを傾ければ待受画面にはメッセージの受信通知が溜まっていた。既読がつかないようにざっと誰から何の用件か確かめる。女の子の名前ばかり並んでいて、我ながらひどいなと思う。「今夜あいてる?」「今日イベントあるんだってー」「明日の夜なんだけど」みんなが俺を誘う。
     自分から誰かを誘うことなんてほとんどない。いつだって誰かが勝手に連絡してきて、中には名前と顔が記憶の中で一致しないような子もいたりして、本当に最低なのは俺なんだけど、でもそういうつきあい方が楽だし好きだった。ずっと特定はつくっていない。飲みに行ってクラブで騒いでその辺で適当にセックスして、何度か繰り返したらスマホから削除する。しつこく連絡が来る場合はブロックすることもある。
     できるだけ家には連れ込まない。この間みたいに酔ってうっかりやらかすこともあるけど、あれは本当に焦った。偶然、後腐れないタイプだったのはラッキーだった。
     家を知られたくないというのもあったけど、それ以上に連れ込めない事情がある。

     ああ、そうだこの子は何となく顔を覚えている。かわいかったから。あと胸が大きかった。遊び慣れてる感じもいい。この子にしよう。「渋谷にいるよ、会う?」返信を送るとすぐに既読がつく。「今すぐ行くね♡」あと何のキャラかはわからないゆるい感じの猫のスタンプ。あっという間に今夜の予定が決まる。さてどうしようかな。宮益坂の交差点を渡りながらふと頭上を見上げる。ビルとネオンばっかりの空はすっかりオレンジ色に染まっていて、こんなごみごみした街にだって夕暮れは訪れるんだなあとのんきなことを考える。

     女の子は柔らかくてかわいくて気持ちがいい。みんな同じに見えてほとんど見分けがつかないけれど、俺の顔が好きで近寄ってきてくれる子は大抵素直で面倒臭くない。そういう都合がいい子が好きだ。たまにはずれを引いてしまうこともあるけれど。クラブのフロアで女の子が取っ組み合いを始めたときはさすがに笑えなかった。
     だから俺は普段から十分に注意するようにしている。同じような匂いがする子にしか手を出さない。そう決めていた。それなのに。

     気を利かせてわざと安い居酒屋を選んだ。チェーン店ではない、細い路地を入ったところにあるサラリーマンに人気の大衆居酒屋。仕事帰りに一杯ひっかけにきたスーツ姿のおっさんとたまにお姉さん、ばかり。気取らずに入れるし、何しろ金額が学生向けだ。学生向けなのになぜか学生客がほとんどいない。さすがに女の子を連れて来るような店ではなかったかもしれないけど、別に構わないだろう、今夜の相手は男なんだし。
    「こんなところにこんなお店があったんですねえ」
     おしぼりで手を拭きながら、ジャーファルが店内を見回している。
    「そう、意外だろ?」
     聞いたところによると、ジャーファルは別に酒が嫌いなわけではないらしい。
    「あんまり強くはないんですけど」
     そう言って眉間に皺を寄せた。その顔が妙に深刻で、おかしくてつい俺は笑ってしまった。きっとあまり誰かに言いたくないような失態をおかしたことがあるんだろう。よくわかるよ、そう言って肩を叩くと不思議そうに頭を傾げた。しぐさがいちいち小動物のようだ。
     こいつと酒を飲んで何を話せばいいのかわからなかったが、結局いざ飲み始めてしまえば会話は尽きなかった。最初は取り組んでいる課題のこととか、卒論のテーマについてとか割と真面目な内容だったが、途中からはもうあまり関係なく色んな話をした。どんな話を振っても割と通じて、住んでいる世界は違うはずなのに不思議だった。
     酔っ払えば調子がいい俺のことだ。(酔っ払わなくても調子はいいかもしれないけど)そんなに心配することもなかった。あっという間に時間は過ぎたし、適当に小一時間くらい飲んだら帰ろうと思っていたのにいつの間にか店内の客もまばらになっていた。誰かと喋るのがこんなに楽しいなんて久しぶりだった。いつだって上辺だけ、調子を合わせて適当なことばかり言って、会話の内容なんてほとんど何もなかったから。
    「いや、ほんと、彼女はいないんだって」
    「信じられないですね、シンだったら選び放題じゃないんですか?」
     それはそうだ。だから毎晩選んでいる。クローゼットから服を引っ張り出すみたいに。そんなことは言えないけど。
    「そういうおまえはどうなんだよ、ジャーファル。彼女とかいないの?」
    「いるように見えます?」
    「見えない」
     ジャーファルがけたけた笑う。俺もつられて笑う。
    「女の子とつきあったことないんです実は」
    「嘘だろ? ほんとに? 天然記念物だな」
    「今どきそうでもないみたいですよ」
    「あー、そうか、なるほど、おまえは今どきなのか」
     中生のジョッキをぐいっと呷る。けれど中身は空だった。おかわりを頼もうと店員に向かって片手を上げる。
    「つきあってみたいと思わないの?」
    「あんまり考えたことなかったです。今は勉強が楽しくて」
     店員が気づいてこちらにやってくる。人差し指を立てて、これ、同じものをもう一つと合図する。
    「ほんと真面目だよな、おまえ。若いうちに楽しんでおいた方がいいこともあるぞ」
    「何ですか、説教ですか?」
     ずばり言われて俺は吹き出した。なかなかいい返しだ。それですっかり楽しくなってしまった。酒に飲まれるところが俺の欠点だ。そのせいで何度も失敗してきたはずなのに、少しも学習しない。
    「そうは言いますけど、シンと違って相手がそうそういるわけではないんです」
    「そうか、なら俺とつきあってみる?」
     店員がテーブルの上にどんと生ビールのジョッキを置いた。
    「あ、どうも」
     と言ってぐびりと一口。炭酸が喉の奥をじんわりと刺激する。ジャーファルは一瞬目を見張って、でもすぐににこにこといつもの笑顔に戻るとさらりと答えた。
    「いいですよ」
     酔っているのかいないのか、全然まったくわからなかったが俺は上機嫌だったし、何より確実に酔っていた。
    「ほんとに? そうか、じゃあよろしくな」
     右手を差し出すと、ジャーファルがはいと握り返す。俺がその手をぶんぶん振っても変わらずににこにこしている。
    「こちらこそ、よろしくお願いします」
     本当によくわからないやつ。かくして俺はジャーファルとつきあうことになった。
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    海老🦐

    DOODLE院生シン様×学部生ジャーファル 10-2
    これで最後です。
    おつきあいくださりありがとうございました!
    ----------------



     ちょうど改札を出てくるところだった。手を振る前にこちらに気づいて、へらっと笑った顔がかわいかった。シンの、そういうちょっとした仕草が愛おしくてたまらない。
    「二次会、ジャーファルも来ればよかったのに。三年も結構来てるやついたぞ」
     駅構内にはまだ人がたくさんいるのに、シンは構わずに抱き寄せてくる。人前だろうがなんだろうが隠れたりしない。
    「いやですよ、だって絶対シンが酔ってべたべたしてくるもん」
    「なんでだよ、別にいいだろ。俺、みんなの前でおまえとつきあってるって言ってもいいよ。むしろ言いたい」
    「ぜったいにダメです」
     むーーっと口を尖らせて寄せてくる顔をブロックして体を引き剥がす。シンは抵抗ないのかもしれないけど、わたしはさすがにちょっと人前は。
    「ええ、何それひどくない? 俺とつきあってるって知られるのやなの?」
    「嫌ですよ、ゼミの中だけでもあなたのこと好きな女子が何人いると思ってるんですか? あなたは卒業したら関係ないかもしれないですけど、わたしはまだあと一年あるんですよ? いたたまれないですよ、そんなの」
    「へえ、ジャーファルってそう 4653

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    ----------------



     研究室の冷房はいつも効きすぎていて、長時間籠もっていると外がどんなに猛暑でも手足が冷える。俺は特に、素足にサンダルだし。
    「はい、どうぞ」
     紙袋から取り出したホットコーヒーの紙コップをキーボードの横にちょこんと置くと、ジャーファルが顔を上げた。眼鏡の奥からこっちを見上げる目が真ん丸だ。
    「え? あの」
     明らかに戸惑っている。
    「この間のお詫び。せっかく誘ってくれたのに断ってごめんな」
    「そんな、お詫びだなんて。こっちがお礼をしたかったのに」
    「いいの、いいの。この部屋寒いだろ? ホットの方がいいかなと思って」
     ためらいがちに手を伸ばして紙コップを手に取る。ジャーファルがふわっと笑った。またあの笑顔だ。なんでかそれを見て安心した。
    「ありがとうございます、嬉しいです」
     ジャーファルはおずおずと両手で持ってふーふーしながら口をつけた。女子かよ! 喉まで出かかった突っ込みをごくりと飲み込む。蓋に小さくくり抜かれた飲み口からいくら息を吹き込んだところで無駄だろう。
    「ところで教授は? もしかしてお昼行っちゃった?」
    「いえ、出かけてます。戻りは 3879

    海老🦐

    DOODLE院生シン様×学部生ジャーファル 3
    現パロ大学生シンジャです。続きです。

    前回から間があいてしまってすみませーん!
    ----------------



     俺は本当にばかなんだと思う。もう二度と酒なんか飲むべきではない。何やってんだ。
    「なら俺とつきあってみる?」
     じゃない。つきあってみるわけがない。いくら酔ってたからって、何であんなことを言ってしまったんだろう。ジャーファルだってジャーファルだ。そんなの、何ふざけてんですかーとか、適当に笑い飛ばしてくれればよかったのに。大体つきあうって何だ。何をするんだ。あいつと俺で。自分で言っておきながら何もわからない。想像しかけて途中でつらくなる。それはあり得ない。俺は女の子が好きだ。かわいくてやわらかくて華奢で抱きしめたらいい匂いがするような女の子が好きなんだ。
     ああ、ジャーファルも同じように酔っ払ってて、都合よく全部忘れてくれてればいいのに。今はその可能性にかけたい。

     そっと研究室の扉を開けた。おそるおそる覗き込むとパソコンモニタの向こう側のジャーファルと目が合った。俺に気づいたジャーファルは恥ずかしそうにためらいがちにちょっとだけ微笑んで、それからさっと視線を手元の資料に戻してしまう。耳たぶが赤い、ような気がするたぶん。
     俺は心のなかで二十回 7218

    海老🦐

    DOODLE院生シン様×学部生ジャーファル 7
    現パロ大学生シンジャです。続きです。

    おそいうけ~~
    ----------------



    「ちょっ、ちょっとシン!?」
     わめくジャーファルを引っぱってエレベーターに押し込む。閉じるボタンを連打すれば、ゆっくりと扉が閉まってエレベーターは静かに上昇し始めた。もう逃げ場はない。それでも俺は手を放さない。
    「痛い、はなしてください」
    「はなさない」
     狭い箱の中で向き合う。俺は口を真一文字に結んで押し黙ったままでいる。明らかにジャーファルは戸惑っているけど、そんなことはどうでもいい。スマートフォンが鳴る。俺のじゃない、ジャーファルのだ。掴まれていない方の手でバックパックのポケットから引っ張り出したスマホを、俺はすかさずジャーファルの手から取り上げた。
    「あ、待って」
     鈍く光っている画面を見る。知らない名前だ。たぶん準ミスだろう。
    「返してください」
    「だめ」
    「さっきの彼女からです」
     だからだめなんだろうが。俺が答えないでいると、諦めたのかジャーファルはため息を一つ吐いた。
    「一体どうしたんですか、いきなりこんな」
    「おまえ、あの子とつきあってんの? 俺と別れて」
    「はあ?」
     ジャーファルは思いきり眉根を寄せた。
    「俺の代わりにあの 5976