2025-04-03
両の手で大きく外套を広げた。誰もいない夜の部屋。しんと静かで誰の声もしやしない。これを届けた男ももうとっくに去ってしまって、僕は夜の中一人取り残されている。
似合いもしないのに握りしめていた斧と瞳の色と良く似合う緑の外套。随分前に失った僕のグレミオ。ずっと隠し持っていたくせに、明日死ぬかもしれないから返しに来たなんて笑わせる。
どれだけ腕を持ち上げても、僕の背丈では裾が床についてしまう。菌糸にやられたのか、それとも保管方法が悪かったのか、使い込まれて柔らかな外套にはそこここに穴が開いていた。グレミオならすぐに直してしまうだろうが、僕にその技術はない。
自分が腕を上げた場所よりももう少し上にグレミオの頭はあった気がする。手足ばかりがひょろりと長くて、眉を下げて情けなく笑う。僕を叱る時でさえ、厳めしい顔は出来なかった優しい男。
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