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    梨 末

    @03smmms1006

    壁打ち。

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    梨 末

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    剣伊。現代パロ。眠れない伊織と家に帰りたくないセイバー②
    他人以上知り合い未満の二人が雨宿りする話

    #剣伊
    Fate/Samurai Remnant saber×Miyamoto Iori

    ②雨天、横並び、一歩半 今宵も天は暗く、雲が厚く覆い被さっている。
     降り続ける雨は辺りの音を掻き消し、景色がぼやけさせ、まるで世界に一人で立っているような錯覚に苛まれる。
    「……」
     震える片手を抑え込む。これは暫く止まないのだろうな、そう考えながら家路とは反対の方向へと足を向けた。






     夕方から続いている雨が草木を揺らす音に視界を上げる。
     傘越しに見える景色は相変わらず薄暗く、まるで深い森の中に迷い込んだかのようだった。
     此処がどこかと問われれば、町外れにある自然公園だ。彷徨っている内に敷地内に潜り込んでいたらしい。足を動かす度に整備された硬いコンクリートとぶつかる音が雨音に混じって聞こえる。
     一本道に沿って周りは自然豊かに樹木が生い茂り、少し視線を横にずらせばどこまでも走り回れそうな広い原っぱが広がっている。
     しかし、生憎の雨模様で今は子供一人見かけない。そもそもこんな遅い時間に子供が遊んでいる筈もない、こんな雨が強い日は外に出ずに大人しく家で過ごすのがいいだろう。
     だから、進んだ先で人影を見るとは思わなかった。
     屋根のついた休憩所、人気のないベンチに誰かが座っている。
    「……?」
     道に沿ってまばらに建てられている電灯の明かりは頼りなく、此処からでは姿形は解っても顔はよく見えなかった。
     どうにか見えないかと目を凝らせば、その人物はじっと座ったまま動かず、休憩所の周りに植えられていた花壇を静かに見つめているようだった。
     人物に習って視線をやれば、そこには雨が多くなるこの時期に相応しい紫陽花の花が咲いていた。青や紫の色鮮やかな紫陽花は雨に打たれながらも美しく咲き誇り、雨風に小さく揺れる。
     ああ、花を見ていたのかと理解してからその人物へと視線を戻せば、ふっと小さく笑った気がした。
     焦燥と憂いと諦め。それは自嘲するような乾いた笑みだった。

    (……道を、引き返した方が良さそうだな)
     他人が安易に立ち入るべきではないなと感じた伊織は踵を返す。あの御仁が何を思っているかは知らないが、通りすがりの人間が邪魔をしては悪いだろう。
     見なかったことにしようと決め、足を一歩進めた時に思い出したことがあった。以前にもこんな出来事がなかっただろうか。
     ふと疑問が湧き、振り返ると改めて人物を見つめる。
     子供のような小さな背丈、長く伸びた黒い髪を一つに纏めた髪型。どこか上品さを感じさせる服装。その姿には覚えがあった。
    (どうして、こんなところに?)
     それよりもだ。何故、あんな表情をしているのだろうか。あれはまるで、帰り路を無くしてしまった迷子のようだ。
     小さい背丈は更に小さくなったように見え、表情は疲れ果てたように硬く、瞳は光を失って昏い色をしていた。周りを取り囲み止む気配のない雨は、その心情を表しているかのようだった。
     放っていおけない。そう思った。


    「紫陽花の花言葉は冷淡、無情、浮り気だそうだ」
    「…………、……いきなりなんだ不躾に。失礼な奴だなきみは」
     昔聞いて覚えていた単語を羅列すれば、ぎろりと音がしそうな勢いで睨みつけられた。肌を刺すような圧を感じるが気にはならない。それよりも顔付きが変わったことの方が喜ばしい。
    「花を、紫陽花が気になっていたから見ていたんだろう?」
    「それは……きみには関係ない」
    「確かに関係ないな」
     ぷいと顔を背けて伊織との対話を受け入れようとしない子供に同意を示して頷いてから、差したままだった傘を畳んだ。
     ざっと辺りを見渡し、丁度空いていた隣の場所に少し距離を開けて座る。馴れ馴れしいぞと隣から非難の視線を感じるが、そこまで気にしなくていいだろう。
    「また会うとは思わなかった、セイバー」
    「……私としては会いたくなかったがな」
    「はは、手厳しいな」
     相変わらず警戒の姿勢を崩さないセイバーに苦笑しながら、脳裏に少し前の記憶が蘇る。突き放すような強めの物言いは懐かしさすら感じる程だ。

     確かニ週間ほど前だったか、偶然公園で見掛けた子供もといセイバーを深夜に一人で外にいては不用心だろうと家に招いた事があった。
     そうして一晩を共に過ごした間柄だが、会話など無いに等しく(あるにはあったがあれを会話と呼ぶかは不明だ)、知人と呼ぶにも怪しい。単に顔と名前を知っているだけの間柄だ。
     それでも他人ではないのだから声を掛けてもいいだろう。由は解らないが、また家にいたくない事情があるのだろう。それなら伊織とて前回と同じだ。子供をこんな夜遅くに放って置くことなどできない。
    「何しに来た?」
    「急に雨が降ってきたからな、雨宿りに」
     そう云いながら広がったままだった傘を紐で纏める。雨から身を守ってくれた傘は重く、斜めにした傘の先からは受け止めていた雨水が流れ落ち、地面に水溜りができていた。
     傘から伝い落ちる雫の様子を見ながら横目をやれば、セイバーが疑いの目で此方を見ていた。
    (……嘘つきめ、と云いたそうな顔だな)
     傘を持って余裕綽々に歩いていた奴が雨宿りなんてあり得ない、そう顔に書いてあった。
     確かに少し嘘だ、急ではない。雨が降るのは知っていたので予め雨具は持参していた。予想よりも雨脚が強く、傘がなければずぶ濡れになってしまっていただろう。
     それに対して、セイバーは着のみ着の儘で家を出たらしく何も持っていない。
     夜は雨になると天気予報は報じていたが、セイバーは知らなかったようだ。大方、突然降り出した雨に追われてこの場所に追いやられてしまったのだろう。雨は止むどころか強くなる一方で身動きが取れない、部外者である伊織が居ても出ていけない。いかに不満があっても睨みつける他無いということだ。
    「居座るつもりか」
    「特に行く当てがないからな」
     丁度歩き回って疲れを感じていたところだ。こうやって休憩するもの悪くないだろう。思ったことをそのまま云ったというのにセイバーは信じようとしなかった。口にはしないが、何かあれば容赦しないぞと此方を見ながら身構えている。
     あの日も何もなかったのだから少しは信用してほしいものだが、そう簡単にはいかないらしい。
     伊織としては何もする気はないので、無言のまま外の景色を眺めていた。
     未だに雨は強く、止む気配はない。


    「冷淡、無情、移り気、だったか……」
     振り続ける雨音の合間を縫って、言の葉が零れた。
     音の元は隣のセイバーからだった。暫く時間が経って落ち着いたのか、出会い頭の時と違って幾分か落ち着いた声音で呟きながら、視線はそのまま伊織と同じ様に変わらない外の景色を眺めている。
     此方に話しかけたというよりは、無意識に口にしてしまったもののようだ。
    「こんなに綺麗に咲いているだけだというのに、人間というのは熟々勝手だな」
     セイバーが口にしている内容は伊織が話した紫陽花の話だろう。話し掛けるきっかけになればと適当に口にした言の葉をセイバーは律儀に覚えていたらしい。
    「……気になるのか?」
     問い掛けながら顔を見れば、セイバーは咄嗟に顔をそらした。そこには声が出ていたのに気づいて油断していたと自分の迂闊さに後悔しながらも、尋ねられた手前無下には出来ないと気まずそうにしているセイバーの姿があった。戸惑う態度を見せるセイバーに意外だなと思いながらも伊織は顔には出さずこう続けた。
    「前に妹から聞いた話だ。この話にはまだ続きがあってな」
     伊織の妹であるカヤは伊織よりも様々なことを知っている。
     紫陽花は色が移ろいやすい性質から移り気、青色の花が冷淡さを表すなどあまり良くない花言葉が当てはまること。しかし悪いものばかりではなく、別の花言葉を持つ種類もあること。
     紫陽花は色によって花言葉が変わり、桃色は強い愛情、白色は寛容。また、小さな複数の花が集まっているところから家族団欒などの意味があると教えてくれた。

    「……家族団欒、か」
     そう説明すると黙って話を聞いていたセイバーがぽつりと云った。その表情はどこか悲しげで、それは先程見掛けたものによく似ていた。ぼうっとどこか遠くを見ていたかと思うと顔を下げ、膝の上に置いていた手を握り込む。強い力で掴まれた服はくしゃりと歪んだ。
    「……父上には、兄上だけが居れば良かったのだ……私は……いなくとも」
     誰に掛けるでもない小さな声は独り言だ。気持ちが抑えきれずに溢れてしまったのだろう。一度溢れてしまったものは簡単には収まらない。次々と紡がれる言の葉は止まることを知らず、握っている手の力が更に強まった。
    「なのに、病に倒れた途端私に押し付けようなどと! おかしいではないか! 私は絶対に嫌だからな!」
     悲痛な叫び声は雨音を打ち消す勢いで響く。けれど、途切れれば忽ち雨に覆い隠されてしまった。
     はぁはぁと肩で息をしながら乱れた息を何度か深く呼吸をして整えると、セイバーは静かに頭を振ってから暗い空を見上げた。
    「……駄目だな、こんな天候では気が滅入ってしまう。早く止めばいいのに」
    「明け方には止むそうだ」
    「……そうか」
     なら、まだ降り続くのだなと残念そうに呟いてから、返答があったことに驚いてはっとする。直ぐ様此方を睨みつけてくるが、顔には焦りが見えた。
    「雨でよく聞こえなかった」
    「白々しい嘘を付くな!」
     こんな近くにいて聞こえない筈無いだろうと反論するセイバーに伊織は肩を竦めて、何のことか解らないと知らぬ存ぜぬを通す。余裕のある態度は生意気だとセイバーは不機嫌そうに頬を膨らませた。

    (……セイバーには、何か込み入った事情があるようだ)
     聞こえた言の葉を鑑みるに家の事情で悩みがあるようだ。親子関係、父親とのすれ違い。それはやり切れない思いを抱えて家を抜け出してしまう程には切羽詰まった状況のようだ。
    (出来れば力になりたいと思うが……俺は、深く立ち入るべきではないだろうな)
     顔見知りとはいえ所詮は他人だ。二度相見えただけの間柄の人間に何ができるだろう。伊織には耐え切れずに吐露された気持ちを知らないふりをして聞き流すくらいしかできそうにない。

    「……暇だ、何か話をしろ」
     当てつけのように投げられた大雑把な言の葉には私の話を勝手に聞いておいて断りはしないだろうなという強い意思が込められていた。
     伊織としては負荷抗力で聞くつもりは全く持ってなかったのだが、そんなこともあるかと受け入れる。顎に手を当てると、何か話せる話題がないかと頭を巡らせた。
    「ふむ、そうだな。前にカヤ、妹がいると話しただろう」
    「待て、それはいい」
     思いついた話題を話し出そうとすれば、手で制して止められた。
     何故だろうか。セイバーが自身の家族の話のした分、こちらも同じ話をしようとしたのだがお気に召さなかったらしい。由を問うようにセイバーを見れば、なんともいえないような顔をしている。
    「嫌な予感がする。それ、話が長くなるだろう」
    「カヤは良い子だからな、積もる話は沢山ある。暇潰しにはもってこいだと思うが」
    「……シスコンめ」
    「なにか云ったか?」
    「なんでもない」
     小さくて聞き取れなかった声を聞き返せば、どこか呆れたような表情をしたセイバーに気にするなと云い切られてしまう。それ以上説明する気はないようで、多少引っ掛かりを感じていても追求するのは難しそうだった。
    「妹ではなくきみ自身の話をしろ、イオリ」
     続けられた言の葉の最後に聞こえた三文字に目を見張る。名を呼ばれただけだと云うのに胸がざわついた。
    「覚えていたのか」
    「忘れたかったが、覚えていた……不審者を通報するには必要だからな」
     遺憾であるという態度を隠しもせずにぶてぶてしく云うと後付の様に由を付け足した。以前の出来事を本人としては納得がいっていなくとも、頭の片隅で覚えていたのだと知れて伊織は嬉しく思った。
     そんな気持ちが滲み出ていたのか、不満げにセイバーの顔が歪んだかと思えば急にニヤリと笑った。
    「その顔色を見るに、また獲物を求めて夜な夜な彷徨い歩いていたんだろう?」
    「人聞きの悪いことを云うな……期待に添えなくて悪いが、今日は仕事帰りだ」
    「仕事?」
    「夜勤のアルバイトだ」
    「きみ、働いているのか」
     突然セイバーが大きな声を出すと、信じられないと驚きながら此方側に身を乗り出してきた。
     大袈裟な反応にそこまで驚く事柄だろうかと考えて、価値観の違いかと納得する。成る程、セイバーからすれば労働は大人がするものであり、若い伊織が働いているとは思わなかったようだ。
    「そうなのか、そうか……」
     学生が働いているのは今の御時世で珍しいものではないと説明すると、頭の左右に手を当てながら成る程そうかと何度か同じ言の葉を繰り返していた。うんうんと暫くの間悩んだ後、聞いた内容をどうにか飲み込めたのか、一度深く頷いた。
    「事情は解った。だが、遅くまで働いている間、妹はどうしているんだ? まさか一人にさせている訳ではないだろうな」
    「それは問題無い。俺は一人暮らしだ。カヤとは離れて暮らしている」
     進学にあたって伊織は実家を離れている。
     此方に来てからは直接顔を見ていないが、カヤとは時折通話やスマホのメッセージでやり取りをしている。ほぼ毎週のように会話しているので、距離が離れていても寂しいと思ったことはない。
     とはいえ、環境が変わればやることは多い。
     日中は学校に通い、夜はアルバイトをして生計を立てる。
     夜勤の仕事は賃金が高く、物によっては肉体労働もするが、眠くならない伊織の体質にあっている。稼いだ金は生活費に使うのは当然として、将来的にはカヤが受験する際の費用や学費に当てたいとも思っている。
    「忙しないな、きみちゃんと休んでいるのか」
    「適度に休息は取っている」
    「そうは云っても、またには息抜きもするだろう?」
    「必要ない。俺には趣味に現を抜かす時間などないよ」
     強いて云えば、この状況が息抜きなのだろう。
     眠れない夜の時間は長く、暇を持て余す。何かしらをして日が昇るのを待つしか無い。当てもなく彷徨っているのも暇を潰す何かを探しているからだ。
    (……それに、そのお陰でセイバーとの縁ができたのだから悪くない)
     そう思いながら静かに顔を下に向ける。そこには何もなく、ただ空虚な掌しかない。
     しかし、少し力を込めれば意識しなくても握った得物の感覚がありありと蘇る。竹刀を手に取らなくなって数ヶ月経つが、これまで一度たりともその重さを忘れた事はない。
     伊織は幼い頃から続けていた剣道を進学にあたってやめていた。
     軽く頭を振って、染み付いている感覚を払う。もう終わった話だ。後ろ髪を引かれる事があっても振り返りはしない。それは駄目だと戒める。
     優秀だと褒められていた剣の道も、残念ながら社会では何の役にも立たない。それよりは勉学に尽力して、より良い職についた方が良い。
     趣味よりも現実を優先すると決めたのだから、考えるだけ時間の無駄だ。この感覚も時と共に慣れ、薄れていくに違いない。
     震えている手を握りしめることで誤魔化しながら、天を見上げる。
     雨の勢いは少し落ち着いてきたように思えた。この調子なら予報通り明け方には止むのだろう。灰色の空は暗く、この空の模様では当然ながら月は見えない。

     ――あの眩さは今は遠い。


     見える筈も無い月を思い浮かべながら空を眺めていると突如なんの前触れもなく、ぐう〜〜と情けない音が響いた。
     自身の腹から鳴ったものかと手をやるがそこまで空腹は感じなかった。つまり、近くにいる誰かの音だ。
    「……腹が、減ったな」
    「なら、食べに行くか」
     そっぽを向いまま小さく口にしたセイバーからの遠回しな提案を伊織は快く承諾した。
     雨も弱まってきているし、少しくらい出歩いても問題ないだろう。濡れるのが嫌ならセイバーに傘を貸してやれば良い。腹の空き具合も少し余裕はある、伊織としても悪くない提案だった。
    「俺の家は、遠いか。此処から少し歩けばコンビニがある、往くか?」
    「征く! 肉まんが食べたい」
    「肉まんは……今の時期は無いかもしれないな、焼き鳥やフライドチキンではどうだ?」
     肉まんは冬場によく売られている商品でこの時期は取り扱っていない店が多いだろう。だとしても、期待に胸を膨らませているセイバーの希望に沿いたいと別の案を伝えれば、それはどういった食べ物だときょとんした顔付きで聞かれた。
     話をしている内に気付いたが、セイバーはコンビニに入った経験がないらしい。それもそうか、裕福な育ちのセイバーが庶民向けの店舗に入る機会はないだろう。
     ならばとできる限り噛み砕いた説明をすれば、セイバーは伊織の話を興味津々に聞き入り、目を輝かせていた。
     伊織からすればさして珍しくはないものも、立場が違えばこうも魅力あるものに見えるようだ。その姿はとても微笑ましい。
    「よし決まりだな。暇潰しに付き合ってくれた礼だ、金は俺が出そう」
    「いいのか?」
    「俺が買える範囲であればな」
    「やったぁ!」
     そう元気よく声を上げると嬉しそうに笑った。その時、伊織は初めて心から喜んで笑っているセイバーを見た。
    「なら疾く征くぞ!……どうした?」
     体を後ろに揺らしてから勢い良く立ち上がったセイバーは外向かおうとして、ベンチから微動だにしない伊織に気付いた。その姿を見て怒るでもなく怪訝そうな顔をすると伊織に声を掛ける。
    「イオリ?」
    「いや、貴殿はそうやって笑うのだなと思ってな」
     声を掛けられてから呆けていたのだと自覚し、我に返った伊織は思わず考えていたことをそのまま口にする。
     そう口にしてから良くなかったかと後悔する。ずっと顔を見つめられていてはいい気分にはならないだろう。不敬だぞと機嫌を損ねてしまうかと思われたが、逆にセイバーは不思議そうに首を傾げた。
    「何を云う。きみだって」
    「ん、俺がどうかしたか?」
    「……いや、いい。とにかく飯だ! 飯にするぞ!」
     ほら早く立てとぐいと強く腕を引かれる。
     遠慮なしの力に体制が追いつかず、前につんのめりそうになりながらもどうにか立ち上がる。少しは加減してくれと訴えようとすれば、セイバーは遥か遠くまで走り出していた。
    「待てセイバー、貴殿は場所を知らないだろう!」
     そう声を掛けても、聞こえていないのか止まる気配はない。
     そのせいで、勝手に先走るなと注意しながら傘を片手に追い掛ける羽目になった。
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