正真正銘、本当に、ただのテディベア。とある美しい少年が寝ても覚めても抱えて離さない灰色のくたびれたテディベア。少年はそれを緑色した王様だと言うがそんなふうには到底見えない。そのうち「王様と言うのだから、あれには宝が入っているはずだ」という妙な噂が広まり、好奇心旺盛な子供たちが彼からそれをこっそり盗んだ。よくよく見るとすでに一度、腹が裂かれた跡がある。子供らにはその傷が「宝を取り出した傷」か「宝を埋める傷」か判別できない。彼らは当初の目的通り腹を裂く。だが噂は噂でしかなくテディベアの中には綿しか入っていない。がっかりだと悪態をつく子供らの後ろにはあの美しい少年が……
「エアラクニッド ゼータが怪我をしたんだ」
「これは痛そうですね。すぐに治してあげましょう。何色の糸にしましょうか」
「青、青がいい」
「青ですね。怪我が治ったらお風呂にいれてあげましょう。ずいぶんと汚れていますから」
「それはだめ。ゼータは揉みくちゃにされるのが嫌いだ」
「これじゃ何色の毛か分かりませんよ」
「緑だ。緑色した王様だ」
「そうは見えません」
「私が見えてればいいんだ。私が覚えていればそれでいいんだ」
少年はそう言って、愛しいそうにテディベアに額を擦り付けた。