こーりゅーせん! イェーイ!
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七海が入学した年の交流会でのことだ。一年と二年だけで団体戦をこなすことになり、そこそこに気を引き締めて集合場所に向かったが、開始時刻が迫っても二年はなかなか現れない。灰原が
「……このまま七海と二人だけで団体戦が始まったりしてね」
と冗談を言ったが、七海は冗談じゃないと舌打ちをした。一年二人でやれるわけがない。しかしそうなった場合にどうするかを灰原と検討しておくべき様相になっている。そのため仕方なく、どの程度の被害で戦略的撤退を選択するか、その際のお互いの連絡手段などをぼつぼつ相談し始めたあたりで、問題児揃いの先輩はやってきた。
七海はあからさまに嫌な顔をして、灰原は声を上げて笑った。
賑やかな先輩三人は、大騒ぎだ。
「やあ、チース」
と紅一点の家入硝子は、ぶかっと重心の重い学ラン姿だ。パターンがそうなっているだけではなく明らかにオーバーサイズで、家入がいつもより華奢に見える。しかし額には旭日旗の鉢巻を巻いている。文字は、必勝。両手には扇。
「戦力外としては応援くらいは本気でやろうかなって」
にこにこと語る可愛い先輩は確かに能力的に戦闘向きではない。だから昔懐かしいスタイルの応援団を意識してのコスチュームなのだろう。着ているのがあからさまに、夏油傑のものだと察せる以外は、わからなくもない思考回路だ。
自分の制服を着られている夏油が、では何を着ているのかと言うと、いつものゆるりとしたシルエットではなくタイトなズボンを履いている。ただし、
「こいつ、脚みじけーから見てやってホラ、足元、ルーズソックス」
大笑いしながら最後の一人が言う通り、裾が余って随分ダブついている。五条の制服は元々長さに余裕を持たせたフルレングスだから、多少でも身長差があればそうなってしまうのは致し方ないし、元々五条の体型がおかしいから、むしろ夏油はよく着れたなと感心されても良いのではないだろうか。
だが最後の一人はツッコミを入れる資格はないだろう、七海はそう心底思う。
「私は普通だよ。悟が縦に長すぎるのがいけない」
「アーン? すみませんねー、スタイル良すぎちゃって!」
残った家入の制服は、五条悟が着ている。
「縦に長すぎるせいでタイツが履けなかったじゃないか。何事も程々が一番と言うことだよ。悟は体型からしてやり過ぎるきらいがあるということだね」
「何それ傑ケンカ売ってんの? 買うよ?」
ただ着ているだけならまだマシだった。女子高生としてまったく一般的な身長の家入の制服を無理やり着ているせいで、とんでもないことになっている。タイトスカートがミニスカートになるのは当然、上着も丈が足りずヘソが出たままだ。家入が履いているタイツは装備しなかったようで、生脚に靴下。どこかの風俗かAVで見るような制服崩れのコスチューム姿になっているのにかかわらず首から上はいつものガラの悪いサングラスをかけていて、頭には家入とお揃いの必勝鉢巻、表情も声も態度も悪い。
七海は幾度めかの、この学校に入学したことへの後悔をした。呪術師は変わり者が多いとは聞いていたが、こういう意味だとはもちろん想定していなかった。
それでもなんとか、開始時刻までの一分足らずの間にせめて作戦会議くらいはと口を開き始めたところで、
「じゃ、一年、オマエらは硝子を守りながら移動して。敵さんに位置を捕捉されないようにしてもらえると助かるけど、攻撃受けそうだったら俺が遠距離からでも何とかすっからテキトーでいいよ」
それだけ言い捨てられ、じゃあ行くかーと、ミニスカとルーズソックスは戦闘に向かう。そしてあれよあれよと一方的かつ記録上最速で勝利してきたのだった。
七海は、こんな出オチ姿の二人組に秒殺された京都校のメンバーに、深く同情した。