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    とうこ

    じゃっと書いた落書きとか、なんかの下書きとか、適当な奴をぽいぽいしていきますよ!

    ついったー
    @tohko_0w0b
    マシュマロ
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    とうこ

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    パン屋さーん!
    まだ途中までです! 書き終わってない!

    #七五
    seventy-five

    七五 パン屋さん! パン屋の朝は早いとよく聞くけれど、この不真面目な店主はまるで会社員のように朝の9時からしか働かない。それまで生地は寝かせたまんまだ。
     毎朝常識的な時刻に起き、まず何をするかというと洗濯機のスイッチを入れて朝ごはんの準備をする。店先に並べるフルーツパイよりもずっと大きくて色とりどりの果物を乗せた特製だ。それが満足いく出来になれば二階に上がる。
     大きく窓を開けたままの部屋には風が心地良く舞っている。カーテンはそよそよとそよぐ。朝日の中に広がる景色は水平線まできらきらと輝く海だ。穏やかな内海は今朝も目が覚めるほど真っ青で美しい。そして窓際のベッドに眠る人も、またため息が漏れるほど美しい。
     髪も肌も白い人が白いベッドの中でしどけなく眠っている。やけに長い手脚を投げ出すようにして熟睡の様相だ。ゆっくりと上下する胸や腹はほどよく引き締まってアスリートのようだけれども、滑らかで疵ひとつない肌の上に点々と、血の色が散っている。ぽかんと開かれたくちびるのほうがまだ淡い色をしているくらいだ。
     七海はそのくちびるに触れる。すりりと指を滑らせても麗人は起きる気配もない。乾いてすべすべとしたくちびるも動かない。
     七海はそっとベッドに腰掛ける。ゆっくりと沈むスプリングは音を立てない。そのままほおやまつげ、それに喉仏、そしてそこに広がる歯の跡や、吸った跡にも触れる。もうすっかり乾いてさらさらの触り心地だ。
     それから七海は飛び込むようにしてのしかかり抱きしめて顔を埋める。眠っていた人が飛び起きて
    「うわっ」
     と悲鳴をあげても構わずにぎゅうぎゅうと遠慮なく腕の中に閉じ込めて力いっぱいに、
    「く、苦し、骨、骨、肋骨、折れる」
     と喚いて逃れようとするのを逃さぬと腕を捕らえてさらに締め上げれば
    「まじ、くるし、息、ぐえ」
     と漫画のようなうめき声があがった。堪らず笑ってしまう。体の上で、肩を震わせて。
     拗ねた顔をさせているのは見なくてもわかるので顔を上げないまま、埋めたまま、
    「朝ごはん、できてますよ」
     と告げる。本日最初に出した声だから、少し掠れていた。
    「……おう」
     わざと横柄な、拗ねた口調が子供っぽくて可愛らしいと、七海はまたおかしくなる。
     七海は今、大好きな人と、海辺の家で二人で暮らしている。
     念願の早期リタイアを果たして海の見える小さな街に引っ越してきたのはまだ最近のことだ。はじめこそのんびりダラダラ暮らしていたものの、根が生真面目なものだから、何もしないで一日を過ごすという生活にはすぐに飽きた。ついてきてくれた片割れが勧めるのに流されるようにして、趣味の延長でのパン屋を開いたのは少し前。忙しくなるのだけは嫌だからといい加減な経営をしているのに関わらず、少しずつ常連が増え、利益も順調に上がっている。七海が自分好みのパンを作るの際、材料へかける費用に糸目をつけず楽しめる程度には。
     だから朝はまず、好きなだけ手をかけ、楽しんで作った朝食を、大好きな人と食べる。
     毎朝毎度、青い海の色のような瞳を輝かせ、満面の笑みでかぶりつくのを対面で眺める。好きな人が喜んでくれるのは嬉しい。おいしい、ななみさすが、すごいと褒めてくれるので、くすぐったい。
     自分の分はハードパンにハムやチーズを挟んだものだ。毎朝代わり映えしないけれど、やはりコレが一番好きだ。七海は自分でも思う。食の好みや食行動にも、自分の偏執的な面が露呈していると。同じものを十年二十年、毎日食べ続けてもちっとも飽きないのだ。パンも、人も。
     そら美人は三日で見慣れるなんて戯言があるけれどもアレも嘘だ。もし本当なら美男美女を売りにした商売は三日で飽きられて上がったりのはずだ。現実にはアイドルに懸想してファン歴何年と経歴を誇る人たちもいるし、自分のように同じ人を毎日キレイだなと恋する人もいる。
     大きなフルーツパイをぺろりと食べ終えて満足げにくちびるを舐める舌を、七海はほぼ無意識に目で追う。そうしながらしれっと、
    「食べ終えたならさっさと開店準備に取り掛かってくださいね」
     なんて言う。
     黒いスキニーパンツを履きこなす長い脚をとんと床に着けて立ち上がり、はーいと良い返事、まずは身支度から取り掛かる姿を見送り、七海は厨房に入る。
     七海のお気に入りは、この家に引っ越す際に無理を言って取り付けた石窯だ。この街の自治体や消防署と何度もやりとりした。最初に焼いたのはあの人のための、チョコレートがたっぷり入ったデザートピザだった。今は毎日、店頭に並べるためのパンを焼いている。
     もちろんそれだけでは足りないので、ベーカリーオーブンも使う。ハードパンもソフトパンも両方が満足いく焼き上がりになるオーブンの選定も時間がかかったし、最適な取り回しを編み出すのにも苦労した。
     石窯やオープンの火に毎日目を焼かれるので、今でも仕事中はサングラスをしている。保護ゴーグルがわりでもある。火を使うのでどうしても厨房は暑い。真冬でも汗をかくのだから、こんな天気の良い暖かい日など更にだ。
     カランカランとベルの音に七海は壁掛け時計を見上げた。いつの間にか開店時間だ。耳をすませば、誰かしら客と喋っている声が聞こえる。笑い声もだ。
     七海の大事な人は、元々人懐っこい。表情はくるくる変わり、よく笑い、素直で明るくて、よく喋る。ルックスが飛び抜けているわりには愛想も愛嬌もあるのだから、彼とのおしゃべりを目的に来ているのではと思われる客も。
     黙って立っていればあまりの桁外れ、この世のものと思えぬ造形に、易々と彼に近づける人間などそうはいない。誰しも息を呑んで、固唾を飲んで、ただただ生気でも抜かれたように呆然と、彼の姿を見守るばかりだ。
     だのにその当人が大きな口をぱかりと開けて天真爛漫に笑うものだから、途端に、この世のものならぬモノとうっかり遭遇してしまったような緊張感は溶け霧散し、
    「一緒に写真を撮ってもいいですか〜?」
     語尾を伸ばす甘ったれた声も聞こえるようになる。
     パン屋の店員に写真をねだるなんてありえない。七海はオーブンの前で舌打ちをする。
     はしゃいだ若い女の声、おそらくまだ十代だろう。彼は教師をしていたこともあって、年少者にはことさら優しい。たいして何も考えずに応諾するのだろう。ほらシャッター音が聞こえた。
     その写真を、その後どうするつもりなのか。学校の教室で見せびらかして、幼い自己顕示欲でも満足させるつもりなのだろうか。たびたび見返したりなどして、独りよがりな疑似恋愛に酔いしれたりするのだろうか。どちらもクソだ。そんなクソみたいな感情の充足に使われたくはないのだ。大事な人だから。
    「なーなみ」
     イライラと赤い火を凝視していた七海に、明るく声がかかる。
    「お店に出してたの、売り切れちゃったよ。第二陣、マダー?」
     ひょいひょいと軽い足取りで近づいてくる様子はおどけているようだ。七海はひとつ目配せを送って、また作業に戻ろうとした。
     その背中に、ぴたりと温かい体が寄り添った。長い腕がするすると七海の体の上を滑るようにして伸びてきて、きゅうと抱きしめられる。肩越しに伸びてきた顔、七海のほおにわざとリップ音を立ててキスをしてきた。
    「ごめんね。次は、ちゃんと断るよ」
     七海もわざと音を立てて深く息を吐いた。
    「……なんでわかるんですか」
    「呪力。出力はさすが、一定にしてるけど、色がね、ガラッと変わったから。あ、イヤだったんだなって」
     そう、彼はとても目がいい。隠している悪感情も、恋慕も、性欲も、端から見抜いていってしまう。
     焼けたら教えてね〜と鼻歌混じりに言い残して、あっさり厨房を出て行ってしまった。また店頭に戻ったのだろう。全部見透かしているくせにと七海は、さっきとは違う感情で舌打ちをする。
     ほおに残るくちびるの感触に、耳に触れた吐息の温度がまだ残っている。それらが七海の心をちゃんと慰撫したことを、まるっと見抜いて、店番に戻ったのだろう。
     七海は作業に戻った。さっさと焼き切って、さっさと売り切ってしまおうと。
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    Sssyashiro

    DONE【展示】書きたいところだけ書いたよ!
    クリスマスも正月も休みなく動いていたふたりがい~い旅館に一泊する話、じゃが疲労困憊のため温泉入っておいしいもの食ってそのまましあわせに眠るのでマジでナニも起こらないのであった(後半へ~続きたい)(いつか)
    201X / 01 / XX そういうわけだからあとでね、と一方的な通話は切られた。
     仕事を納めるなんていう概念のない労働環境への不満は数年前から諦め飲んでいるが、それにしても一級を冠するというのはこういうことか……と思い知るようなスケジュールに溜め息も出なくなっていたころだ。ついに明日から短い休暇、最後の出張先からほど近い温泉街でやっと羽が伸ばせると、夕暮れに染まる山々を車内から眺めていたところに着信あり、名前を見るなり無視もできたというのに指が動いたためにすべてが狂った。丸三日ある休みのうちどれくらいをあのひとが占めていくのか……を考えるとうんざりするのでやめる。
     多忙には慣れた。万年人手不足とは冗談ではない。しかしそう頻繁に一級、まして特級相当の呪霊が発生するわけではなく、つまりは格下呪霊を掃討する任務がどうしても多くなる。くわえて格下の場合、対象とこちらの術式の相性など考慮されるはずもなく、どう考えても私には不適任、といった任務も少なからずまわされる。相性が悪いイコール費やす労力が倍、なだけならば腹は立つが労働とはそんなもの、と割り切ることもできる。しかしこれが危険度も倍、賭ける命のも労力も倍、となることもあるのだ。そんな嫌がらせが出戻りの私に向くのにはまあ……まあ、であるが、あろうことか学生の身の上にも起こり得るクソ采配なのだから本当にクソとしか言いようがない。ただ今はあのひとが高専で教員をしているぶん、私が学生だったころよりは幾分マシになっているとは思いたい。そういう目の光らせ方をするひとなのだ、あのひとは。だから私は信用も信頼もできる。尊敬はしないが。
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