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    とうこ

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    とうこ

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    ひらいて赤ブー用に書いた七五です。アイスを買う二人。

    #七五
    seventy-five

    アイスを買う七五 平日の午前中、お客さんは少ない。ショーケースの中にはアイスクリームが色とりどりにずらりと並んでいる。私はそのガラス面を指紋ひとつ残さぬようきれいに磨きあげた。毎朝の仕事だ。床やマット、カウンター、店内を隅々まで掃除し終える。それから、昨夜閉店後から準備しておいた今月のキャンペーン商品を確認する。かわいらしい黄色いイキモノのブランケット、少女に人気のキャラクターらしい。そこそこ高額の商品をご購入いただいたお客様にのみお渡しする。細かなルールの書かれた本部からのメールを再読。それから個人スマホから当店公式のツイッターアカウントへ「いいね」を送る。
     以前に広報担当になった同僚から、
    「最近いいねが減って来ちゃったから、広報会議ですごーく肩身が狭いのよー」
     と泣き言もらされたのだ。それからはこっそりやっている。
     実際来客数の多い二十四区内の店輔と違いまったりしたこの店では、期間中にブランケットが全部ハケるのかどうか。こちらだって、もしそうなったら次の店長会議では肩身が狭い。
     朝から私は軽い憂うつでため息をこぼす。今日はきっと一日暇だろう。
     そう気を抜いていたら、とんでもないお客さんが来た。
     長身、金髪、碧眼。男性というだけでも珍しいのに、明らかに日本人じゃなさそうな外見だ。それもとびきり、雰囲気のある色男。淡い色のスーツに、肌寒くなってきた朝に必要なトレンチコートを羽織り、その洒落た佇まいは古き良き時代の映画俳優だ。通った鼻筋は精悍で、特徴的なほおのくぼんだラインがセクシー、それにシャープな眼差しはあたたかなみどり色をしている。
    「持ち帰りでお願いしたいのですが」
     低く嗄れた声は狭い店内に打ち水のように広がる。聞きとりやすく、声を張らずともよく響き、人に落ちついて耳を傾けさせる魅力のある声だ。一瞬、場も忘れて聞き惚れて、それからいらっしゃいませすらまだ口にしないまま見惚れていたことに気が付く。気恥ずかしさをごまかすため、私は言いなれた商品の説明を滔々と、上ずりながらも必死に伝える。
     彼は眉間にしわを寄せる。それですら、彼の皮膚の薄さが見てとれ、乾いたその肌のさらさらとした手触りを想像させる。アイスのラインナップにざっと走らせた目は素早い。
    「……では、レギュラーシングルのカップ、黒豆きんとんバニラとクッキーアンドクリームで」
    「かしこまりました。お持ち帰りのドライアイスは三十分まで無料でおつけしますが」
     シングルを二つ、お持ち帰り、なるほど彼女かな。私はそう推察しながら決まり文句を口にした。
     そこで、私は目を丸めた。
     彼の後ろから、彼より更に長身の男性が唐突に現れたのだ。長い腕をおどけた調子で伸ばすと、彼の肩に、まるで抱くようにして引っかけ、だらりとだらしなくもたれかかり、顔はアイスケースに向けたまま、
    「オマエまたクッキーアンドクリーム?」
     とからかう調子で言ったのだ。
     まずどこから驚いたらいいものか。
     真っすぐにきりりと立つ彼の凛然さを台なしにする不作法もだけれど、男子高校生でもあるまいしと呆れる距離感のなさもだけれども、それよりも、真っ白の髪。それが病や人工的なものではないことは、健康的なふわふわと棉毛のような豊かな毛量、それにこの店の照明でもツヤツヤと光をはねかえす見事な艶でわかる。そしてやっぱり、その素敵な髪も台なしに、奇妙なことに黒いアイマスクをつけたままだ。一体どういうファッションセンスなのか計りかねる。服も上から下まで飾り気なく真っ黒だ。
     そして、この人、いつ店内に入って来ただろう。
     金髪のお客さんは、苛立たしげに長いため息をついた。思慮深そうな、充分な配慮を常に欠かさないような、そんな人に見えていたのだけれども、意外にも露骨なやり方だ。
    「五条さん。アナタ、おとなしく待っていることもできないんですか」
    「だーって七海、この店、慣れてなさそうじゃん。オーダー手伝いに来たの! って、アレ? アレかわいくない? アレもらえるの? へー!」
    「……五条さん」
     苛立たしげなため息がもうひとつ。けれど肩に回された腕は跳ね除けられずにそのままだ。
    「どうせ黄色いから欲しくなっただけでしょう」
    「うん! 七海グッズ!」
    「そのキャラクター、私とは似ても似つきませんよ」
    「そうかなー? 似てると思うよ? ホラ、かわいいとことか!」
    「雑すぎませんか」
     もう一度、今度は今までで最大のため息だ。
    「早く選んでください」
    「え?」
    「ブランケット。……ほしいんでしょう? 貰うためには、アイスを八種類、買う必要があります」
    「やったー! 七海、今夜はアイスパーティしよ!」
    「おひとりでどうぞ」
     嬉しそうに、子供みたいにはしゃいだ声をあげる超高身長男性は、そのまま浮かれた調子で、真険に、アイスケースの中身に夢中になる。まずさっきのふたつでしょ? それからやっぱチョコ系ほしいよねー。あ、これ期間限定なの? じゃあこれにしよ。それからラブポーションね。僕、昔からコレが好きでさー。えーと、それからー、七海のも四個選ばなくちゃね。あ、よっつともクッキーアンドクリームとか言っちゃうパターン?
     整然としないオーダーに、間違えないようメモを取り、八個のアイスを順番にすくいながら私は内心、疑問だらけだ。このふたりの関係性がまったくわからない。同じ冷凍庫にアイスを持ち帰る仲? もしかして外人どうし旅行中で……いや、日本語はどう聞いてもネイティブ。今夜も一緒らしい。一緒だけれど別々のことをする関係? わからない。イヤそうにため息をつきながらもくっついたまま。わからないけど、今このブランケットを手に入れれば、このふたりとおソロイになることは間違いない。私も買っちゃおうかしら。
     とにかく、初日から好評を博し、今回のキャンペーンは期待できるかもしれない。黙々とアイスを用意しながら、私はあえて深く考えず、業務の方向へ意識を飛ばす。










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