酔った浮奇から迎えをねだるコールを受け、同じ理由で何度か訪れたことのあるバーに入るなり、サニーはすっかり慣れたもので迷うことなくカウンターへ足を進めた。
カウンターに並ぶスツールに腰掛けバーテンダーと楽しげに話す恋人の姿を見つけ背後から名前を呼べば、驚いた猫のようにぴっと背筋を伸ばし、弾かれたように振り返る姿に思わず笑ってしまう。
視線が合えば「帰るよ」と促す言葉に素直に立ち上がる浮奇の腰を支えつつ会計を済ませ、腕の中で楽しげに笑う恋人を速やかに連れ帰ろうとした矢先。サニーの背中に軽い衝撃を受け、反射的に謝罪を口にしながら振り返ると、顔を赤らめ明らかに酔っていると分かる男に睨み付けられていた。
自分がよろめいてぶつかってきたくせに、聞き取りが困難な言葉で詰ってくる。そんな見苦しい姿を冷めた目で見ながら浮奇の腰を囲う腕の力を強め、反対の手をホールドアップする。
「あー…邪魔になるところに立ってて悪かったよ。…とりあえずこの辺でやめておかない?」
出来る限り穏やかな声音で告げるも、それがまた癪に障ったらしい男がサニーの頬を軽く手の甲で弾いて挑発してきたことに「あ、これはだめだ」と思った瞬間、横から伸ばされた手によって男の腕が勢い良く叩き落とされた。
「俺のサニーに何してくれてんの?」
低く唸るような浮奇の声に、思わず顔を手のひらで覆い深いため息を零す。
余計なことをしないようにと腰を強く抱いてその身を拘束していたサニーの努力も虚しく、浮奇は寧ろその腕を支えに長い脚を上げ勢い良く下ろし、パンプスの細い凶器のようなヒールを叩きつけるようにして男の爪先を容赦無く踏みつけた。
痛みに蹲る男の肩をさらに蹴り倒そうと足が上がるのを見れば、慌てて腰を捕まえるのとは反対の腕を膝裏に差し込み抱え上げ、これ以上危害を加えないように捕獲する。
「サニーの完璧な顔叩くなんてありえないんだけど!もう一発くらい入れないと気が済まない!」
「大声で恥ずかしいこと言わない!頼むからいい子にしてろ!」
毎日撫でまわしながらうっとりと眺めるほどに気に入っているサニーの顔に触れられたことが気に入らないと喚き、腕の中でジタバタと暴れる浮奇を膂力で押さえ込む。
「すみません!お騒がせしました!」と勢い良く頭を下げ、この程度の争い事は可愛いもんだと豪快に笑うオーナーの声を背に、まだ文句を言う酔っ払いを抱えたまま慌てて店から走り去った。