ピアス痕といたずら　高校2年生の遠足はかったるい雰囲気に包まれている。勉強をしなくて良いという解放感と、でも無責任に楽しめるものでもないな、という全員の意識が絡まり合って、なんともカオスな空気を生み出す。
　行きのバスで行われるレクリエーションなんかは本当に盛り上がるものでもない。そもそも先生が用意したものなど反抗期の子どもが楽しめるわけだってないのだ。スマホをイジるのもありだけど、でもそれは流石に興味を持たなさすぎなのかな、というギリギリのラインで、数人のクラスメイトは寝ている。
　今回のレクは「実は私、〇〇なんです」を真実か当てるゲーム。司会はクラスの少しギャルっぽい女子。
　〇〇ちゃん、実は男の兄弟が居るんです、〇か✕か。
　丸だ。判りきってる、この間だってクラスで〇〇がさー、と愚痴っていたのを覚えている。
　丸です。やっぱり、〇〇お兄ちゃんいるんじゃん。
　クラスメイトの声がする。
　この上なく退屈だ。早く目的地についてしまえば、浮奇とふたりきりで回れるのに。隣で眠る彼の顔をそっと見れば、穏やかな寝顔が心を癒やしていく。
　それが逆に、突然の浮奇に関してのクイズで驚く原因になった。
　浮奇くん、実はピアス開いていたんです、〇か✕か。
　思わずぴくりと眉が動く。クラスメイトが若干ざわめいた。恐らくファンクラブ会員の名をかけて、間違えまいとしている女子達だろう。
　浮奇は顔が良い上に声もかっこよくて、さぞ女子からの人気は高いのだろうと思いきや、どうやら彼は可愛がられているらしいことに最近気がついた。勿論ファンクラブはあるが、彼女たち曰く彼氏には出来ない、遠くから見ていたい、だとか。
　逆に男子からの受けは良い。例え冗談で有ったとしても浮奇ならいける、とかそういう発言を通りすがりに聴く度に僕がピリピリしているのを、浮奇は面白そうに笑っていた。
　ところで問題の答えだが、丸である。浮奇の太ももにふたつ、はっきりと残る痕がある。バナナ何とかとかいう……僕にはよく判らないものの痕。少しだけ痛々しくて、僕は毎回そこにキスをする。それに毎度、もう痛まないよと浮奇は返す。
　その痕を知っている者は浮奇と僕以外に居ないはずだった。
　丸です。えぇ、浮奇くん開いてたの、やばくない！？ねぇ、まって、死んじゃう。
　どこが死んじゃうだよ、勝手に想像するなよ、お前には浮奇の太ももなんて一生見られねぇよ、とキレそうになる。あんまり持たない独占欲を認識してしまう前に考えを逸らそうとする。
　隣の浮奇は、そんなことは露知らず、相変わらず綺麗な表情で眠っていた。どうして、と起こして問い詰めたい気持ちと、まだ寝かせてあげたい気持ちがぶつかり合う。そもそも、浮奇が言わなければこんなに葛藤する必要もなかったのに。
　わかってる、浮奇だって面倒くさくて適当に書いたんだろうなってことくらい、ちゃんと、ちゃんとわかっている。
　それでも滅多にない怒りの感情が湧いて、現実逃避する為に目を閉じた。目的地までそう遠くないし、もう寝てしまおう。浮奇に追及するのは、別にあとでも構わない。
　
「ねぇうき、なんで言っちゃったの」
「んー、別にいいかなって」
「良い訳ないでしょ！やだ……僕とうきの秘密だったのに……」
「大丈夫、これからちゃんと目に出来るのはサニーだけだよ」