「もし俺が女の子だったら、ずっと一緒にいられるのかな」
2人並んだソファーの上。
テレビの音に溶け込んでしまいそうな程小さな声で呟く。
映画を映し出す目の前の画面には、幸せそうな男女が小さな教会で式を挙げているシーンが映し出されていて、その映像から目を離さないままさらに言葉を続ける。
「例えば俺が女の子だったらさ。誰にも何も思われず、違和感もなく隣にいられるんだろうし、あんな風に皆に祝福される式を挙げて、いつかはサニーの子を産んであげられる」
「はぁ?何言ってんの?」
俺の戯言に返された怪訝そうな、または気持ち悪いものを聞いてしまったとでも言うような声音にそちらを窺えば、サニーが思いっきり顔を顰めていた。
「男女だからってそんな確証が得られるとか無くない? 式なんて挙げようと思えば誰でも挙げられるし、もし俺たちがやるってなったら仲間は皆祝福してくれるでしょ。なんの問題があるの?」
心底理解出来ないというように首を傾げ覗き込んでくる瞳と視線が絡むと、じっとこちらを見つめる双眸が柔らかく細められた。たったそれだけで、俺の胸中に愛おしさと幸福が溢れてくる。
「…結婚して家庭を持つとか、一度くらい考えたことあるでしょ?」
「無いことはないけど。いつかするのかなぁ、くらいで具体的なイメージとか願望を持ったことはないよ。……あと、」
不自然に言葉を切ったサニーにどうしたのかと首を僅かに傾け続きをうながすと、にんまりと悪戯っぽい笑みを浮かべたあと、わざとらしくキリッとした顔を作ってきた。...なに?
「もし浮奇が女の子だったら、地雷感凄いから俺は絶対近付かないし、付き合ったりしないかな。それに、今の浮奇はゲイじゃん。だから、もし女の子になったとしたらレズビアンになってる可能性もあるわけで、そうなったら俺も女の子になってないといけないでしょ。俺は女の子になりたい願望とかないし、困る」
思わぬ言葉に思わずきょとんとしてしまい、サニーらしすぎる失礼かつ少し外れている返答に、じわじわと笑いが込み上げる。
口元を手で覆って肩を揺らし笑い続けていると、眼球の奥に疼痛を感じ目を閉じる。喉奥が微かに震える中息を細く吐き、瞼の裏に広がる熱を散らす様に眉間に力を込めた後再び目を開け、変わらず目の前にあるサニーの頬を両手の平でそっと包んで薄い唇に口付けをひとつ。
にんまりと笑ったサニーからも可愛らしいリップ音と共にキスを返され、鼻先を軽く擦り合わせるとどちらともなく腕を伸ばし互いの温もりを求め身体を抱き寄せた。
「今の俺は今の浮奇が好き。それでいいでしょ。」
「そうだね」
「とりあえず、式どこで挙げる?」
「ちょっと、プロポーズすっ飛ばそうなんて許さないから。恥ずかしがらずにちゃんとして」
「ははっ、バレた」