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    setsuen98

    @setsuen98

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    setsuen98

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    🔗🔮。
    ⚠読んでいただく前に⚠
    ・ふわっとした奴隷パロです。
    ・ちょーっとだけモブが出ます。
    ・そのモブにより🔮が酷い目に遭う描写がうっすらあります。

    🔗🔮未満というか、両片想いというか、なんというか。

    #violisko

     広い屋敷の中にはそれぞれ仕事を与えられた奴隷が溢れていて、俺もその中の一人だった。
     かつて共に暮らしていた両親は絵に描いたような“いい人”で、“わるい人”に騙された結果、本当に呆気なく俺を一人残して死んでしまった。当時まだ幼かった俺は訳もわからないままあっという間に売りに出され、今の貴族の屋敷で家内奴隷として暮らすようになってから、もう10年が経とうとしている。
     いつもの時間に起きて、掃除や洗濯など与えられた決まった仕事を黙々とこなす日々。何かミスをすれば怒鳴られ、時には罰を与えられる。結果身体が傷もうと、それを理由に休むことは許されない。
     ただ、俺にとっては決して悪い環境ではなかった。朝から晩まで働き詰めの成長期の子供には足り無いながらも、最低限の食事は口にする事が出来る。服も与えられるし、何より屋根の下で暮らすことができるのだから。
    路地裏でネズミに齧られながら、痛みに悶え苦しみ、じわじわと死んでいくことに比べれば、多少の理不尽などなんてことはない。生きる希望はなくとも死にたい願望もない俺は、ただ何も考えることなく、死なないように働くだけ。

    そんな灰色の日々に、突然紫が飛び込んできた。

     老いて急死した独身貴族の家から引き取られてきた浮奇は、同じ奴隷という立場であることなど信じられないほどに美しく、気位が高い人だった。
     周りからどんな噂をされようとも、妬んだ者達にどんなことをされようとも、浮奇の整った顔が下を向くことはなく、薄らと笑みを乗せた唇から罵詈雑言を吐いて安易に近付いた相手を圧倒してしまう。初めてその姿を見たときの衝撃はなかなかのもので、思わず笑いが止まらなくなってしまった俺に気付いた浮奇が、可笑しなものを見るような胡乱な目でこちらを見ていた。

     それをきっかけに話すようになってから、浮奇が俺より三つ年上であることと、前の主人にはその声を買われて仕えていたことを知った。
     浮奇の歌声の素晴らしさは貴族の間では有名だったようで、急に放り出されることになったその声をこぞって欲しがった貴族達に競売にかけられた結果、この屋敷の主人が落札したらしい。

    「…前に仕えていた旦那様は、すごく優しい人だった。大人達にボコボコにされて、ゴミみたいに捨てられて死にかけてた子供の俺を拾って、人として扱ってくれたんだ」
     曰く、芸を極めれば浮奇の声と容姿は必ずその身を助けると教え、奴隷だからと軽んじられ、踏みにじられる事が無いよう生きるための術を与えてくれた、と。
     饗宴時には着飾り演奏に歌を乗せ、主人が眠れない日には子守唄や朗読で安らかな眠りへ誘う。時には、主人にとって唯一無二であった死別した妻から贈られた大切な思い出の手紙を、何通も朗読して聞かせることもあったという。
    「旦那様の相手はもちろん、誰かの夜伽の相手をさせられたことなんて一度もないよ。宴の席で悪酔した奴らが俺たち奴隷に手を出そうとしても、必ず気付いて助けてくれたし…あの家にいた人は皆大切にしてもらってたから、他の奴らが好き勝手に妄想して噂するような仕事はしたことない。…俺たち奴隷にとっては、まるで夢のような場所だった」

     夜中の誰もいない水汲み場で、浮奇は遠い目をしてそう語った。まるで御伽噺を語るように、柔らかく幸せで満ちた、それでいて、静かに涙を流し悼むような。そんな声で。
     「いいな、」と吐息に混ざって勝手に零れた自分の言葉に驚き思わず顔を上げると、いつの間にかこちらを見つめていた浮奇の瞳と自然がぶつかる。
     星空を閉じ込めたような月明かりで薄らと煌めくオッドアイに見つめられると、何もかもを見透かされてしまいそうで怖くなり、咄嗟に目を逸らした俺の身体を長くしなやかな腕が包み、壊れ物を扱うようにそっと抱いた。
     ただ短く切り揃えただけの傷んだ俺の髪を、細い指が丁寧に梳くように撫でる。それをゆっくりと繰り返しながら、「ごめんね、無神経だった。」と謝る浮奇に、ただ首を横に振るしか出来なかった。
     俺が羨ましかったのは、不自由のない守られた生活なんかじゃ無くて、浮奇を大切に囲い込んでいた“ご主人様”の方だった。


     浮奇は何かと妬まれることも多かったけれど、それ以上に愛される人で、常に誰かが浮奇を見つめていた。もちろんそれは純粋なものだけじゃ無くて、汚い欲望にまみれたものも数多くある中で、自分のことをよく分かっている彼は本当に上手く立ち回っていた。
     最初は浮奇に閨の相手をさせようとしていた主人にも、何をどう言ったのか上手く去なし、前の屋敷と同じように声を活かした家内奴隷としておいてもらうよう取り計らっていたのには、正直驚いた。
     誰に対しても普段は勘違いをさせないよう距離を測って接しながらも、時には少し甘えるようなことを言って手に入れたパンや果物、お菓子なんかを全部俺にくれる。
     そんなことしなくていいといくら言っても、「そんなガリガリで何強がってんの。食べないといつまでも俺よりチビなままだよ。」と言ってさらに与えてくるばかりで、俺の心配や浮奇が誰かに甘えることへの面白く無い感情は、きっとこれっぽちも伝わっていない。
     年は数個しか違わないというのに、浮奇に与えられるばかりで何も出来ない俺があまりにも情けなくて、八つ当たりの様に与えられたお菓子を噛み砕いて飲み込むけれど、お腹が満たされる度、より一層苦しくて悲しくなった。
     そんな想いを抱えながらも、浮奇の餌付けで栄養状態が改善されたおかげで、俺の身体が正常に成長を始めたことは素直に嬉しいと思えた。
     ほぼ骨と皮となけなしの筋肉だけだった身体も、一年経つ頃にはかなり見栄えも良くなったし、痛み放題でくすんでいた髪や顔色も艶を取り戻しつつある。背もあと少しで浮奇を越せそうだ。
     予想外だったのは、それに伴って周りの評価が変わっていったことだった。どうやら俺の容姿は人に好まれるものだったようで、今まではこちらに見向きもしなかった奴らが、男女関係なく無駄に話しかけてくるようになった。それが嬉しいかと言われるとそんなはずもなく、苛立ちや煩わしく思う事ばかりで、こんなどうしようもなく不快なものを上手く躱す浮奇に尊敬の念すら抱いてしまう。

    「俺みたいに、そういう奴らを利用したい事がある訳じゃないなら、全部無視してればいいよ。大抵の奴はサニーを目の保養にしてるだけで満足してるだろうし…ただ、何か手出してきそうなのがいたら、近付かずに気付いた時点でちゃんと俺に教えること。守ってあげる」
    「あのさぁ…浮奇に守ってもらうほど弱くないんだけど。毎日散々こき使われてるから力もあるし、自分の身くらい守れるよ」
    「腕力があってもどうにもならないこともあるんだよ。サニーはお子ちゃまだから、まだわからないかも知れないけどね」
    「…何それ。絶対浮奇になんか頼らない」

     周りが勝手に変わっていく中でも、唯一変わらず続いている、真夜中の二人だけの時間。
     浮奇は主に饗宴の場に呼ばれたり、主人の安眠のために寝台の横で歌を紡ぐ事が多く、そんな呼び出しがある日を除いては、ほぼ毎晩屋敷の裏の水汲み場で落ち合い色々な話をした。
     どんな言葉を交わす中でも、常に浮奇は俺の身の回りのことを心配するばかりで、いつになったらこの関係を変えられるのかともどかしくなる。
     俺にとっても浮奇はかけがえのない大切な人で、守りたい人。だからこそ自分の身体が逞しくなっていくのは嬉しかった。なのに、大きくなったところで浮奇にとって俺は弟みたいなもので、ずっと守るべき存在から変わらない。
     浮奇がこんな風に執着しているのは、この世で俺だけだという自負はある。でもそれだけじゃ足りない。
     爪まできれいに整えられた指先で口元を覆い、おかしそうにくすくすと笑う浮奇。誰よりも美しいこの生き物を、今もきっと多くの者が手に入れたいと願っているだろうことは、俺にだって容易に想像できる。
     浮奇を守ると言い切るには、何も持たないただの奴隷である俺はあまりにも無力だった。
     どうしようもない苦悩に悩まされる中、ある日突然主人に呼ばれ、食事や洋服の準備など、身の回りの世話を申し付けられるようになったのは渡りに船でしかなかった。

     見栄っ張りな主人は、見目が良く自慢になるような者しか近くには侍らせない。それ故数多くいる家内奴隷でも主人の傍に仕えることができる者はほんの一握りで、奴隷という身分は変わらずとも、傍仕えに選ばれることは実質的な昇格になる。
     このまま上手く主人に気に入られることができれば、俺はその辺の奴隷に比べ力を持つことができ、浮奇を守れる術を何か一つでも手に入れられるかも知れない。そう思えば見た目が多少良くなっただけで扱いを変えるクソオヤジ相手だろうと、愛想よく振る舞うことは苦にならなかった。



    「サニー。私の部屋に浮奇がいる。手伝ってやれ」

     普段夜に呼び出すことのない主人から声が掛かったのは、傍に仕え始めてからしばらく経つが、初めてのことだった。
     今朝の給仕の際、主人が大切にしていたカップを割ってしまった俺は、どんな罰を与えられるのかと内心気が気ではない一日を過ごしていた。鞭で打たれるくらいならまだ耐えられるが、この屋敷から追い出され浮奇と離れ離れになってしまう事だけは避けたかった。
     そんな心配を余所に、妙に機嫌の良い主人から言いつけられた仕事に、何を手伝えばいいのかという疑問を飲み込んでただ是と応え、浮奇が待つという部屋へ足早に向かう。
     罰を与えられなかったことに安堵している筈なのに、妙な胸騒ぎが止まらない。早歩きだった足取りは徐々に速度を早め、無駄に長い廊下を駆け抜けていた。
     息を切らしたどり着いた先、重厚な扉に備え付けられたノッカーを数度打ち鳴らす。…返事はない。
     足を止めたにも関わらずますます呼吸が浅くなり、ドアノブにかけた手が、小刻みに震えている。
    何に怯えているのかも分からないまま扉を開き、一歩、また一歩と中に足を踏み入れ部屋を見渡すも、どこにも探し人の姿はなかった。…だが、主人の寝台の上に、不自然な膨らみがある。

     主人以外で、そこに身体を横たえる事が出来るのは。

     震える足は勝手に寝台へと向かい歩を進め、いくら広い部屋と言えど、覚束無い足取りでもあっという間にたどり着いてしまう。
    近づくに連れて漂う、独特で不快な臭い。苦しそうな細い呼吸音。膨らんだ寝具から覗く、柔らかな紫の髪。
     俺の手が寝具へと伸びていくのが、まるで他人事の様に目に映る。
     包みを解くようにそっと布を捲れば、少しずつ顕になる一糸纏わぬその身に咲く、大小様々な赤い花びら。首や手首には、まるで蛇が纏わり付くような痕がぐるり。
     ベッドに投げ出された脚の付け根からシーツにかけて伝うのは、ぶちまけられた汚い欲望の証と、白濁に滲む赤。

    「…、…さ、に…ぃ……?」

     押し潰されて掠れた声。
     これは、誰?
     何もかもが、俺の知っている彼と違う。

    「……みないで、」

     絞り出された声に誘われ、視線を上げた先。
     水を湛え俺を映す、その星空の色さえも違う。

     歪な笑みを浮かべる浮奇を見て、こんな風にしたのは、俺だと悟った。

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    Replies from the creator

    setsuen98

    DONE🌊🔮♀。大学生×社会人。
    過去あげた大学生×社会人のシリーズですが、これだけでも読めます。ですが良ければそちらも読んでみてください。
     先週のデートの際スハがそわそわとしながら手渡してくれた箱の中に収まっていたのは、うっかり指を引っ掛けでもしたら千切れてしまいそうなほど華奢なシルバーチョーカー。
    チャームも何も無いシンプルなデザインながら、フリルのような繊細な動きのあるチェーンはそれだけで上品に存在感を放ち、どんな服装にもマッチするセンスの良い品だが、箱を開けて真っ先に浮かんだ言葉は「誰と選んだの?」だった。ファッションやアクセサリーにそれほど興味がないスハが選ぶとしたら、シンプルなものだとしても何かしらの石やモチーフがついた無難とも言えるネックレスを選ぶはず。彼が一人で選ぶには、デザインが洗練されすぎていた。
     流石にスハのセンスじゃないでしょ、なんてそのまま問うなんてことはせず、オブラートに包んで包んで、それはもう遠回しに訊けば大学の友人達と出かけた際ショップについて来てもらいアドバイスをもらったのだと言うが、「その時に教えてもらったんだけど、チョーカーって“傍にいてほしい”って意味があるんだって」と伏し目がちに照れながら口にしたスハに、そのメンバーの中に女がいたことを確信して問おうとした矢先に続けられた「あと、彼氏がいますって印になるって聞いて……着けてくれる…?」と、私よりも背が高いにも関わらず器用に上目遣いで見つめてくる年下彼氏の可愛さにやられて、もういいか、という気になってしまいイチャイチャタイムに突入した、というのがその時のハイライト。
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    setsuen98

    DONE🌊🔮。芸能人×メイクさんパロ。
    まだ付き合ってない二人です。
     大きな鏡に写る自分の顔を見れば、あまりに不格好な表情に苦笑が溢れる。無意識に眉間に力が入り平素に比べ険しい目元に反して、口元はスタンプを押したようにわずかに口角が上がったまま。デビュー当時から、基本的にいつでも笑顔で、と口酸っぱく言われ続けた教えに忠実に従う自分の表情筋が今は恨めしい。
     デビューしてから駆け抜けてきたこの数年、自分なりに努力を積み重ねてきたおかげか、歌だけではなくテレビ出演や演技など、様々な仕事をもらえるようになった。有難いことに熱心に推してくれるファンもつき、かつて夢見た姿に少しずつではあるが近づけている。それなのにどうにも自分は欲深いようで、同じ事務所の後輩たちがデビューするなり順調すぎるほどのスピードでテレビやステージなど華々しい活躍を見せる度、劣等感と羨望が溢れどうしようもない気持ちに苛まれ、手のひらに爪が食い込むほどに握りしめそうになるのを堪えてすごい!と手を打ち鳴らす。そんな自分の姿が滑稽で醜くて、後輩たちに合わせる顔もなくなって、思考が自己嫌悪で埋め尽くされる。そんな気鬱が続く時がたまにあり、今まさにそんな気持ちを抱えながら雑誌撮影のためにメイクルームに入れば鏡に映るのはこの様。思わず項垂れ、少しでも胸中がすっきりしないかと大きく長く息を吐く。
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    setsuen98

    MOURNING🦁👟みたいな何か。付き合ってません。
     ほぼ満席状態の店内。二人掛けのテーブルにルカと向かい合って座ってから、なんとも言えない無言の時間が過ぎていく。と言っても実際には大した時間は経っていないけど、黙り込んだまま相手が口火を切るのをただ待つ時間は何倍にも長く感じられる。だからと言って、いつもの快活とした姿とは異なり神妙な顔でテーブルを見つめるルカに「話って何?」なんて無遠慮に本題へ切り込むことなんて出来なくて、手持ち無沙汰にカップに口をつけブラックコーヒーをちびちびと啜るしか出来ず、日差しが降り注ぐ外をいい天気だなぁ…なんて現実逃避まがいに眺めていた。
     「シュウに相談したいことがある」と改まって連絡がきた時は、一体何事かと身構えてしまった。まさかルカの身に何か深刻な問題でも起きているのかと心配になり即座に了承の返信を打てば、カフェでお茶でもしながら聞いて欲しいとの思いのほかゆったりとした回答に、勝手な杞憂だったのかと胸を撫で下ろしたのが数日前のこと。ただ実際に顔を合わせてみるとこんな風に一切読めない様子で、大きな問題でないことを願う最中、突然ルカが顔を上げ僕の方を見つめたかと思えば、また直ぐに視線を落とし何度か口をモゴモゴとさせてようやく口を開いた。
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