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    setsuen98

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    setsuen98

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    初めて書いた拙い🐑🔮。
    途中で心折れたけど勿体ないので供養。

    #PsyBorg

     ふと、真夜中に目が覚めた。いつもならこんな時間に起きることもないのになぜかなんて考えが浮かんだ矢先、隣から聞こえた微かな呻き声と浅速呼吸にああ、なるほど、とまだ半分眠ったままの頭で意識が浮上した理由を悟る。
     右腕で掛け布団を少し浮かせながら仰向けだった身体を左隣へと向けると、こちらを向いて蹲る恋人の姿が暗がりの中でもぼんやりと窺える。但しその寝顔は毎晩見る穏やかなものではなく、必要以上に固く閉ざされた目元と、世界の全てから自身を隠そうとでもするかのように小さく縮こまった身体。そして、何もかもを拒絶するように機械の手のひらがキツく両耳を塞いでいた。そんな痛々しい姿に、眠りの世界で彼を苦しめている何かに対して嫌悪感が湧き上がるけれど、優先すべきは彼を苦しみから解放してあげることだと意識を切り替える。
    「…ねぇ。ふぅふぅちゃん、」
     両手を擦りあわせて冷えていないことを確認してから、人差し指の背で歪められた眉や目元をそっと撫でながら、眠る人を起こすには頼りない吐息混じりの声で何度も何度も名前を呼び、時折瞼にキスを贈る。どうか夢の中でひとり怯える彼に届きますように、と願いを込めて。そんな願いが届いたのか、たまたまか、耳を覆う手のひらの力が僅かに緩んだことで出来た隙間に親指の指先を滑り込ませながらそっと語りかける。
    「いい子だね、ふぅふぅちゃん。手、離せる?」
     押しつけられた手を優しく握ってゆっくりと引き寄せると、思いの外すんなりと耳元から離れてくれたことに安堵し、その指先にもちゅ、ちゅ、とそれぞれキスをしてシーツへ。覆うものが無くなり露わになった肌を暗闇に慣れた目で注視すると、薄らと指の痕が残り赤みを帯びているようにも見えるそこを、今度は俺の手のひらで優しく塞いで親指の腹でこめかみを撫でる。気付けば苦しげな呼吸はゆったりとしたものに変わっていて、表情も穏やかになったようでこのままうなされる事なく朝を迎えられるようにと、額を重ねおまじないをかけ今一度顔を覗き込むと、予想外にもふるりと震えたまぶたがゆっくりと開いていく。
    「……うき、」
    「うん。…まだ夜中だから寝ていていいよ」
    「ん……夢を、見ていて…あまり、気分のいいものじゃない…ああ、悪夢というべきだな…」
     掠れた声で紡がれるのは美しく豊富な言葉を巧みに操る普段の彼のものとは異なる拙いもので、それが可愛くも、可哀想にも聞こえてしまう。そんな思いを表に出すことはせずうん、と相槌を打ちながら静かに耳を傾ける俺の手の甲に、まるで壊れ物に触れるような繊細さで機械の手が重なった。
    「恐ろしくて、嫌でたまらなくて、でも…逃げ場も無くて……必死に隠れていたんだが、気付いたら嫌なものは全部消えていたよ。導かれる様に目を開けたら、俺の美しい天使が救い出してくれたんだと分かった」
     ふふ、と優しい笑い声が吐息に混ざる。夢の中の彼をいじめていたのが何かは分からないけれど、そんな世界から俺の手で彼を救い出せて良かったと歓喜する。あの時、眠っていた状態でもふぅふぅちゃんの微かなSOSに反応して目を覚ますことができた自分を手放しで褒めたい気分だった。明日の彼にご褒美をおねだりしよう。
     耳を覆う俺の手のひらを自らさらに押し付けながら再び目を閉ざしたふぅふぅちゃんは、僅かな沈黙の後そっと言葉を紡いで可愛らしく微笑んだ。
    「…浮奇の音がする」
    「この音落ち着くでしょ?…ふぅふぅちゃんにはどんな音に聞こえる?」
    「地鳴りのような、遠くから聴く滝の音のような…いや、でももっと穏やかで…微睡みながら聴く風の音にも似ているな。ああ、これは心音か?…小さくて、可愛らしい音が混じっている」
    「ふふ、心臓の音が可愛いなんて、そんなこと言うのふぅふぅちゃんくらいなんじゃない?」
     耳を塞ぐことで筋肉が動く音や血流の音、そして心音が聞こえるというのは一体何で知ったんだったっけ。いや、音を先に知っていて、後からその正体を知ったんだったっけ…どちらが初めだったのかはすっかり忘れてしまったけれど、初めてその音を知った日、驚くと同時に不思議と心が凪いでいったことはよく覚えている。叶うならばそれが彼にも作用することを願って一か八か試してみたことが功を奏した事に喜びを感じ、顔を寄せ鼻先を擦り合わせると鼻が押しつぶされるほどぎゅっと押しつけられ、いやいやをして逃れながら可笑しそうに笑って咎める。
    「ん、もう。やめてよ」
    「ひひ、怖い思いをした可哀想な恋人のちょっとした甘えくらい許してくれ」
    「甘えるならもっと可愛らしく甘えて欲しいんだけど…ほら、もう寝ないと朝が辛いよ。……きっともう怖い夢はみないから、だいじょうぶ」
     すっかり元の調子に戻ったようにも見えるけれど、耳を塞ぐ手を押さえたまま離さないのを見るとまた悪夢が襲い来るかもとまだ不安なのかもしれない。それに気付かないふりをしながら軽口を返し、唇にキスをすると細く息を吐いた彼の口から少し頼りない声が零れた。
    「……このまま、浮奇の音を聴きながら寝ても?もちろん、手が疲れたら抜いてもらって構わない」
    「ふふ、いいよ。この綺麗な顔に触れたまま眠れるなんて、いい夢が見られそう。…俺の手ならいつでも貸すから、怖い時はひとりぼっちにならないで。夢の中だって傍にいさせてね」
    「ああ…ありがとう。愛してるよ浮奇。…おやすみ」
    「俺も愛してる。おやすみなさい、ふぅふぅちゃん。」
     もう一度、どちらからとも無く唇を重ねると目を閉じ、身を寄せ合い互いの呼吸と温もりを感じながらゆっくりと眠りへ落ちていく。次に見るのは、朝日に照らされた優しい笑顔である事を願って。
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    Replies from the creator

    setsuen98

    DONE🌊🔮♀。大学生×社会人。
    過去あげた大学生×社会人のシリーズですが、これだけでも読めます。ですが良ければそちらも読んでみてください。
     先週のデートの際スハがそわそわとしながら手渡してくれた箱の中に収まっていたのは、うっかり指を引っ掛けでもしたら千切れてしまいそうなほど華奢なシルバーチョーカー。
    チャームも何も無いシンプルなデザインながら、フリルのような繊細な動きのあるチェーンはそれだけで上品に存在感を放ち、どんな服装にもマッチするセンスの良い品だが、箱を開けて真っ先に浮かんだ言葉は「誰と選んだの?」だった。ファッションやアクセサリーにそれほど興味がないスハが選ぶとしたら、シンプルなものだとしても何かしらの石やモチーフがついた無難とも言えるネックレスを選ぶはず。彼が一人で選ぶには、デザインが洗練されすぎていた。
     流石にスハのセンスじゃないでしょ、なんてそのまま問うなんてことはせず、オブラートに包んで包んで、それはもう遠回しに訊けば大学の友人達と出かけた際ショップについて来てもらいアドバイスをもらったのだと言うが、「その時に教えてもらったんだけど、チョーカーって“傍にいてほしい”って意味があるんだって」と伏し目がちに照れながら口にしたスハに、そのメンバーの中に女がいたことを確信して問おうとした矢先に続けられた「あと、彼氏がいますって印になるって聞いて……着けてくれる…?」と、私よりも背が高いにも関わらず器用に上目遣いで見つめてくる年下彼氏の可愛さにやられて、もういいか、という気になってしまいイチャイチャタイムに突入した、というのがその時のハイライト。
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    setsuen98

    DONE🌊🔮。芸能人×メイクさんパロ。
    まだ付き合ってない二人です。
     大きな鏡に写る自分の顔を見れば、あまりに不格好な表情に苦笑が溢れる。無意識に眉間に力が入り平素に比べ険しい目元に反して、口元はスタンプを押したようにわずかに口角が上がったまま。デビュー当時から、基本的にいつでも笑顔で、と口酸っぱく言われ続けた教えに忠実に従う自分の表情筋が今は恨めしい。
     デビューしてから駆け抜けてきたこの数年、自分なりに努力を積み重ねてきたおかげか、歌だけではなくテレビ出演や演技など、様々な仕事をもらえるようになった。有難いことに熱心に推してくれるファンもつき、かつて夢見た姿に少しずつではあるが近づけている。それなのにどうにも自分は欲深いようで、同じ事務所の後輩たちがデビューするなり順調すぎるほどのスピードでテレビやステージなど華々しい活躍を見せる度、劣等感と羨望が溢れどうしようもない気持ちに苛まれ、手のひらに爪が食い込むほどに握りしめそうになるのを堪えてすごい!と手を打ち鳴らす。そんな自分の姿が滑稽で醜くて、後輩たちに合わせる顔もなくなって、思考が自己嫌悪で埋め尽くされる。そんな気鬱が続く時がたまにあり、今まさにそんな気持ちを抱えながら雑誌撮影のためにメイクルームに入れば鏡に映るのはこの様。思わず項垂れ、少しでも胸中がすっきりしないかと大きく長く息を吐く。
    3790

    setsuen98

    MOURNING🦁👟みたいな何か。付き合ってません。
     ほぼ満席状態の店内。二人掛けのテーブルにルカと向かい合って座ってから、なんとも言えない無言の時間が過ぎていく。と言っても実際には大した時間は経っていないけど、黙り込んだまま相手が口火を切るのをただ待つ時間は何倍にも長く感じられる。だからと言って、いつもの快活とした姿とは異なり神妙な顔でテーブルを見つめるルカに「話って何?」なんて無遠慮に本題へ切り込むことなんて出来なくて、手持ち無沙汰にカップに口をつけブラックコーヒーをちびちびと啜るしか出来ず、日差しが降り注ぐ外をいい天気だなぁ…なんて現実逃避まがいに眺めていた。
     「シュウに相談したいことがある」と改まって連絡がきた時は、一体何事かと身構えてしまった。まさかルカの身に何か深刻な問題でも起きているのかと心配になり即座に了承の返信を打てば、カフェでお茶でもしながら聞いて欲しいとの思いのほかゆったりとした回答に、勝手な杞憂だったのかと胸を撫で下ろしたのが数日前のこと。ただ実際に顔を合わせてみるとこんな風に一切読めない様子で、大きな問題でないことを願う最中、突然ルカが顔を上げ僕の方を見つめたかと思えば、また直ぐに視線を落とし何度か口をモゴモゴとさせてようやく口を開いた。
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