4月6日は手合わせの日 仮想任務訓練場に轟音が響いた。揺れる床、もくもくと立ち込める土煙。森林エリアの一角で木々がまとめて倒れていた。何事かと集まったエージェントたちは、倒木の切断面を見るや、蜘蛛の子を散らすように離れていった。得物が鋭い刀であると察するや、使い手にも思い至ったためだ。いま、あの青々と茂る森の中に、伝説的な最強の特級巻戻士とその弟子がいる。
森の中にいる弟子の方、クロノはうなじを汗で濡らしていた。先程まで駆けていた場所は亀裂でズタズタになっている。鬱蒼と視界を遮る木々も、今や背の低い切り株と化した。ただの一振りでここまで地形を変えられるとは、つくづく恐ろしい師匠だ。木の太い幹が刈り取られるだけでなく、地面も大きく抉られていた。14の頃に比べれば背丈も足も伸び、身体能力も向上している。だというのに、追われる背に感じるプレッシャーは数年前と遜色ない。ただ走るだけでは追いつかれるだろう。
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