砂糖3杯とミルク多め 目を開けると隣に潔はいなかった。
部屋の壁を見たまま昨日の夜に思いを馳せる。何時に寝たんだっけ。夜は配信見て、潔がシャワー入って、出てきたら速攻ベッドに行ったから俺もシャワってベッド行って、そしたら案の定だった。確か2ラウンドで終わったはずだ。日中いつものガキのサッカーチームに教えに行って疲れてるはずなのに無理するから、ヒィヒィ言ってたのは覚えてる。歳を考えろ歳を。
起き上がると腰の違和感は無かった。微かにコーヒーの匂いが漂ってくる。ぺたぺたとフローリングを歩きリビングへ向かうと、丁度マグカップを二つ食器棚から取り出す潔がいた。
「おはよ」
……なんで目ぇ逸らすんだよこっちが恥ずかしくなるだろうが。何年目だよ。
「まだ寝てても良かったのに」
「しっかり俺の分のコーヒーまで用意してる奴が言うか?」
「む、俺が二つ飲むかもしんねーじゃん」
またコイツは意味のわからない事を。そんな俺の表情を読み取ったらしい潔は「冗談デス」と視線を逸らす。
「今日の気分は?」
「砂糖3杯とミルク多め」
「おっけー」
既にカウンターに出していた砂糖とミルクを俺のマグカップへ。自分は何も入れずそのまま砂糖の瓶をしまい始めたところを見ると、今日の俺の気分は読まれていた様で少し癪だった。
ミルクを冷蔵庫へ仕舞ったところで両手にマグカップを持ち、俺の座るソファーの前のローテーブルへコトリと置く。時計を見ればまだ7時前だった。休日の朝、この時間はまだ世間も静かだ。
「はぁー、ねむ」
「もうちょっと寝ときゃいいだろ」
「起きちゃったんだもん」
「二度寝は?」
「もうできない」
だからコーヒーで目ぇさまそうと思って。とブラックを示す。
「けど凛のせいでやっぱ眠くなってきた」
何事かをほざきながら隣に座った潔は俺にもたれかかってきた。いつもならそのまま肩で押し返すところだが、きょうの俺の気分は砂糖3杯とミルク多め。用意した事に免じて許してやる。
「もうさー、俺2回が限界だし」
「そうだな」
「朝は早く起きちゃうし二度寝できないし」
「あー……まぁ」
「歳だな……」
「否定はしねぇ」
「そこはしろよ」
日本人の突っ込みよろしく手の甲を俺に向けた潔は、そのままずるずると俺を膝枕にして目を瞑る。
「コーヒーは?」
「のむー」
「口にぶち込んでやろうか」
「このソファーお気に入りなんだからやめてー……」
語尾が小さくなって消えていった。やっぱ眠いんじゃねーか。まだ熱い砂糖とミルクの入ったコーヒーを取ろうと腰を浮かしかけてやめた。潔が膝の上で寝息を立てていたからじゃない。俺の右手がしっかりと握られたままだったからだ。
仕方なく右手もコーヒーも諦めてソファーに体を預けて目を瞑る。確かに、この状態なら二度寝できそうだと考える頃には俺の思考も沈んでいた。
ブルーロックを出て■年後、さらに同じ屋根の下で暮らし始めて●年後。
俺たちの割と良くある日常の話。