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    メノウユキ

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    メノウユキ

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    続きです

    十話 黒い炎 しばらく歩いていると、公園内にある街灯の下に黒コートを身にまとった人影、オイカワさんが見えた。鴉の異形が連絡をとっていたと言っていたのでずっとここで待っていたのだろう。
     彼はタバコを吸ってぼうっと立っていた。ここにきてからしばらく待っていたのか、吸っているタバコも随分と短くなっている。道中トラブルがあったせいで、合流する時間が遅れてしまっていたのかもしれない。
     ある程度近づくとオイカワさんはこちらに気づき、軽く手を上げる。
    「そっちは大丈夫そうだな、変なのと出くわさなかったか?」
     気を遣ってくれたのか、彼は私を見てすぐにポケットから折り畳みの灰皿を取り出してタバコを入れた。
    「赤い戦車が襲ってきたので対処してました。大元はどうにかなりましたか?」
    「あぁ、廃工場に行ったら案の定発生源があった。おそらく、アオヤマを追い回していた連中がしかけたやつだろう。実際、あの赤い戦車は男たちを襲っていなかった。仕組みはわからんが、どうやら赤い戦車の攻撃を避ける術を持っていたらしい。もしくは、アオヤマを優先的に狙うようにしていたかだな」
    「そんなことができるのですか? 確か、赤い戦車は無差別に襲うと聞きましたが……」
    「さぁな、あくまで憶測だ。だが、奴らが追手の連中を襲わなかったのは偶然にしては出来過ぎている。元々無差別に襲うっていうなら尚更な」
     その話を聞いて少し悪寒がした。
     ここに来る前に襲ってきた赤い戦車が私を狙って襲うように指示をされていたのであれば、鴉の異形が前に出て注意を集めていたのにも関わらず、わざわざ体の一部を飛ばしてまでこっちを狙ってきた理由もわかる気がする。
     でも、これはあくまでも憶測。本当かどうかはまだわからない。
     私は頭を振って思考を振り払う。本当かどうかわからないところで怖がっていても仕方がない。今は自分のできることで身を守ることが先決。
    「ところで、これからどうするのです? 安全地帯もかなり限られていますし、一度町の外に出ますか?」
    「それも考えたんだが、町の外だと色々都合が悪い。追手の奴らが出待ちしている可能性もなくはないし、モモの支援が届かなくなるのは少し痛い」
    「では、危険覚悟で町中を逃げ回るのですか?」
    「それだとアオヤマの体力が保たんだろ」
     鴉の異形は話題を変える。
     確かに、この町にもう安全な場所があるかどうかも怪しい。路地裏にはあの赤い戦車がいるし、それ以外の場所ももしかしたら追手の男たちが潜んでいるかもしれない。オイカワさんたちに守られているとはいえ、長時間逃げ続けるのも現実的ではない。
    「ではどこへ?」
    「あるだろ、確実に安全で絶対に見つからない場所」
     彼はそういうと一つの鍵を取り出した。
    「鍵……?」
     街灯に照らされた鍵は深い緑色でアンティーク調の形をしていた。現代の家で使うようなものではなく、雑貨屋とかで見かける形だ。どこへ通ずる鍵だろう?
    「まさか、書斎へ行くつもりですか? モモさんの許可は?」
    「既に取った……というより、アイツの指示だ。今回の件についてはモモも疑問に思うことが多いらしい。だからひとまず、アオヤマに会って原因について考えたいだと」
     書斎? 普通のイメージだと本が立ち並んだ場所のイメージが強い。あの鍵はそこへ通ずる扉の鍵ということだろうか?
     話はさらに進んでいく。
    「ひとまず、ワタシは一度アオヤマと一緒に書斎に行ってくる。ココノは町の様子を見ていてくれるか?」
    「まぁ、モモさんの許可を取っているのなら大丈夫ですね。何かあったら連絡してください」
    「あぁ」
     鴉の異形は三つ足の鴉の姿へ変化し、その場を飛び去った。
     状況がやや飲み込めず、ポカンとしてしまうが
    「じゃ、ワタシたちも行くぞ」
     というオイカワさんの声ではっと我に返る。
    「あ、あの、これからどこへ行くんですか?」
     不安のあまり私はオイカワさんにそう聞いた。安全地帯なんだろうということは漠然とわかるが、どういったところなのかは言葉からは想像できない。
     彼がいう書斎というのは、私が思い描くものは違うだろうし、普通の場所であればオリエントのようにすぐ追いつかれてしまう。
    「ワタシ達の拠点のような場所だ。ちょっと特殊な場所だが、危険な場所ではない。まぁ、行ってみればわかる」
     彼はそう言うと公園の外へ歩き始めた。私も見失わないように慌てて彼の後を追った。
     
     ◇
     
     歩き続けて数分。公園を出てしばらくした場所でオイカワさんは立ち止まった。
    「この辺でいいか」
     周囲を見た後、彼はとある建物に近づき先ほど取り出していた深緑色の鍵を建物のドアにある鍵穴に差し込み、右に捻る。するとカチッという音が聞こえた後、自動ドアのように勝手に開いた。
    「この中だ。先に入ってくれ」
     言われた通りドアの中に入ろうとするが、思わず驚いて足を止めてしまう。ドアの中には石で囲われた小さな部屋があり、その奥にはまたドアがあった。明らかにが建物外観と中の広さが合わない。
     もしかして全く別の空間につながっている……? 
     しかし、今はためらっている時ではない。今の自分にとってこの町は危険地帯。この場所よりマシなところへ行けるなら、異空間だって別に構わない。
     私は覚悟を固めて、ドアの中に一歩、また一歩と足を踏み入れるのだった。

     ◇

     ドアから石造りの部屋に入り、その中にあるドアの先へさらに進むと、細い通路が奥まで続いていた。そんなに距離はないが、明かりが少なく、壁掛けのランプの中に光る石が淡く照らしている薄暗い空間だった。
     少し気味が悪く、肌寒い。骸骨が転がっていてもおかしくないとびくびくしながら通路を歩く。通路の突き当りまで歩くと、またドアがあった。
     恐る恐るドアノブに手をかけて開くと、私はまた驚く景色を目にすることになる。
     見上げて首が痛くなるほどの高い天井、そしてその天井近くまであるぎっしりと本が詰められた本棚、視界を前に向ければ今まで通ってきた通路よりかなり広い道がどこまでも続いている。
     しかし、巨大な本棚のせいか広くて長いはずの道も狭く感じてしまう。
     ここは書斎というより巨大な図書館と表現した方が適切だろう。本棚に収められている本を見てみると書体は英語に似ているが、ほとんどわからない文字で書かれたものが多かった。
     好奇心を掻き立てられながら周りを見ていると
    「驚いているとこ悪いんだが、先に進むぞ。こんなに広いもんだから、目的地にたどり着くのも一苦労でな……全く、使い勝手の悪い拠点だ」
     と、後ろからオイカワさんの声が聞こえた。
     返事をしようと振り返って彼の姿を見たとき、思わずぎょっとしてしまった。何故なら彼の身に着けている黒コートが赤く染まっていたからだ。黒コートに不規則についた赤いシミ。それがあの肉塊たちの返り血だと理解するのは容易だった。
     町中では、街灯の明かりがあったとはいえ薄暗くて見えなかったが、今こうして室内のような空間にきてやっと彼の外見がはっきりと見えるようになった。
     フードを取った彼の表情は暗く、光のない瞳をもった感情が消えたような顔をしており、目の下にある濃いクマのせいでひどく苦労人のように見える。
    「どうした?」
    「……いや、その赤いシミって……?」
    「シミ? あぁ、これは返り血だ。ケガはない」
    「いや、そういうことでは」
     血の量的に相当な数の肉塊を斬ったのだろう。路地裏などのオイカワさんの戦闘を見れば、肉塊たちに負けることはないと思うが……今の姿を見ると本当に無傷なのか疑いたくなる。
    「そ、そういえば、オイカワさんの本業? の仕事仲間ってたくさんいるんですか?」
     気まずい雰囲気が流れたので話題を変える。といっても聞きたい内容ではあったので話題を変えたというよりかは聞きたいことを質問したといった方が正しい。
     拠点がこれほど大きいと言うことは、それぐらい数がいることというのは予想できる。だが返ってきた答えは意外なものだった。
    「いや、本業の仕事は人間だとワタシ含めて二人だな。この拠点がでかいのはまた別の理由だ」
    「二人……?」
    「あぁ、二人。ココノとかの使い魔を含めるといくらか数はいるが、人間だと二人だ」
     町をたった二人だけで守っている? 普通に考えてありえない。いや、もしかしたら特殊な能力を使っているから町の規模を守ることができるのかもしれない。でなければ、一人一人の負担が重すぎて組織としては成り立たないはずだ。
    「一番奥にこの空間の管理者がいるから、とりあえずそこまで行くぞ。道順自体は複雑ではないが、距離がある。二十分くらい歩くことになるが、大丈夫か?」
    「はい。マスターに薬を貰いましたし、足もそれなりに動きます」
    「そうか。じゃあこっちだ」
     彼はそう言って先行して歩く。私もそのあとをついて行った。
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