嘘つき男 其の参毎晩月が欠けていくのを眺めるたびに、アイツは目玉は今なにをしているのだと心配する気持ちになった。
そして、あと少しでアイツがゲゲ郎が帰ってくるのだと思うと心が弾んだ。
しかしと考えた。
嗚呼、アイツが帰ってきた時、自分はどんな顔をしてアイツを迎え入れれば良いのだろうかと。
今の自分は相棒ではない。
アイツは目玉は隣の廃寺に住み着いた幽霊族という夫婦の片割れで、拾った子供の父親で・・・同居人。
勿論良かったなぁと喜んではやれる。だが、それはあくまでも・・・。
嗚呼困ったなぁと頭を抱えた。
単なる同居人なのだ。
そう、それ以上でもそれ以下でもない。
廃寺で出会った幽霊族という妖の夫婦の生き残り。拾った子供の親という事で一緒に暮らすようになり・・・今は少し仲良くなったとは言えただの同居人。
そう、それ以上でもそれ以下でもない。
そんなアイツに、自分はどう対したら良いのか分からない。
しかし、何を考えようと、思おうと、悩もうとも人間生きていれば日は経つ訳で。
仕事帰りに夜空を見上げれば輝く月は浮かんでいなかった。
「嗚呼、もうそんなに経ってしまったのか」
暗い空を見上げ小さく溜息を吐いた。
新月と言っていた。
今日か明日か、はたまたもう少し経ってから戻るのか。詳しい事をアイツは言わなかったから分からないが次に会う時はもう目玉ではないだろう。
そんなアイツに自分はちゃんと反応できるだろうか。
そんな事を考えていれば、じゃりっと土を踏む音が聞こえた。
音に振り返り声を出す。
「・・・誰・・・だ・・・?」
「儂じゃよ」
声が聞こえた。それは聞き慣れた高い声ではなく、低く落ち着いた男の声。
そして懐かしい。
「・・・誰・・・だ」
誰かなんて分かっている。だけどもう一度誰何の声をあげるた。
「・・・分からぬのか・・・本当に・・・」
声は応えた。
「・・・もしかして・・・親父さんか?」
分かっているのに分かっていない振りをして言えば声は答えた。
「嗚呼、そうじゃよ」
男は応えた。
僕の望んだ答を。
「嗚呼、親父さんそんな姿をしていたんだ。声も包帯の時のしか知らないから驚いたよ」
嘘だ。自分は知っている。男の姿も名前も。だけどそれは言わない。
「嗚呼、漸く姿を取り戻すことが出来た。水木驚かせたなぁ」
そして男も言わない。
言わないから自分もそのまま言う。
「鬼太郎も待っているから早く会ってやってくれ」
男はその足を進めると、立ち尽くしたままの自分を追い抜かした。そして、ちらりと此方を見て言った。
「そうじゃのぉ。帰るか。行くぞ水木や」
「嗚呼、帰るか」
そんな男の言葉に小さく返事をして男の後ろをついて行った。
それから少しして家に辿り着いた。
先を歩いていた男は、玄関の引き戸の前で立ち止まった。
「何をしているんだ?入らないのか?」
言えば男は口元を軽くあげ笑って言った。
「招いてくれるか」
「何を言っているんだ、お前の家でもあるだろうに」
男の言葉に首を傾げていれば男はますます笑みを深めた。
「水木や早く入れとくれ」
「嗚呼、鍵は掛けていないからほら早く入れよ」
そう言いながら男の隣に進むと、閉じられていた戸を開いた。
「嗚呼うれしや」
男はそう言うと玄関足を踏み入れた。そしてくるりと自分の方に向くと笑って言った。
「水木や、おかえり」
「ああ」
おかえりゲゲ郎。
言葉に出さず心の中で僕は言った。