とある提案と恋の話召使とヌヴィフリ
本日は晴れ。フォンテーヌ邸は平和だ。
とても天気もいいので散歩をしようと外に出た。
人間の生活というのも悪くないと思う。やはり上に立つのは僕には向かないな。
そう思いながら歩いていると、目の前からクロリンデが走ってきていた。
なにか事件があったのかな?
忙しそうだし話しかけない方がいいよね
そう考えすれ違おうとした時、クロリンデが僕の前に止まり、手を握った。
「フリーナ様。御一緒に来てください」
「え?く、クロリンデ?何かあったのかい?」
「今は一刻を争います。このままではフォンテーヌが壊れます」
「え!?わ、分かった。一緒に行く。それで場所は何処だい?」
「パレ・メルモニアです」
そして僕はクロリンデに引っ張られてパレ・メルモニアに向かったのだった。
パレ・メルモニアの執務室は今、とても酷い空気が流れていた。ここで働く職員達は、外に出ていった。それぐらい酷く重い空気だ。
ヌヴィレットの前にはファデュイの執行官の召使がおり、この二人が織り成す空気が酷いものであった。
「ヌヴィレット殿、それで私の提案は如何なものかな?」
「私にとって貴殿の提案は良いとは思う。だが私は貴方を完全に信じてはいない」
「何故?」
「フリーナ殿を襲ったことを私が怒っていないとでもお思いか?」
ヌヴィレットの目には怒りが含まれている。
召使はヌヴィレットの正体を知ってはいる。だがまさか長い時を生きる水龍がただ一人の神だった少女にここまでの感情を抱くとは思っていなかった。
人外の彼がここまで怒りを含んだ目で召使を見るなどファトゥスの中でも信じるものは少ない気がする。
「その謝罪も兼ねての提案なのだが……」
「分かっている。先程も述べたようとても良い提案だとは思う。しかし私のこの感情も貴殿には理解していて欲しかった」
「なるほど。彼女に危害は与えないと誓う。それとフリーナ殿は本当に水神だったのだな」
「どういう事だ?」
ヌヴィレットは分からないという顔をする。
気が付いて居ないならそれで良い。
だがヌヴィレットは水龍であり人外の存在。
テイワットには長く生きるものは沢山存在するが、種族によっては人のことが分からないものも多い。
ヌヴィレットもまた人に寄り添うなどという考えは持っていなかったと思う。だが今、彼は、人間のように一人の少女を大切に思っている。
それはフリーナがヌヴィレットに心を教えたからだろう。
きっと本来の神、フォカロルスなら出来なかった事だと思う。龍に心を与えるなど
これは人間で神をしていたフリーナだからできる事だ。
召使は小さく微笑みそしてヌヴィレットに、気にしないでくれと言う。
「私の勝手な思いなので先程の言葉は気にしなくて良い」
そして、ヌヴィレットにどうやってこの提案を了承してもらおうかと考えている時だった。
ドアが開いた。
「ぬ、ヌヴィレット…なにがあったんだい?クロリンデがいきなり……」
入ってきたのはフリーナだった。
髪が短くなった彼女からは呪いの気配はなく、確かにただの人間となっているのがわかる。
「フリーナ殿」
「め、召使…えっとその…」
フリーナの瞳が涙で潤む。確か自分は彼女を襲ってしまった。余程怖い思いをさせたのも分かってはいる。
立っているフリーナを見ると彼女はとても小さい。
リネットよりも小さいのではないだろうか?
華奢な体躯に小さな背。
こんな小さな少女の体にのしかかっていたものを思うと、孤児院を営む召使はあの時は知らなかったとはいえかなり酷いことをしたのだと思う。
召使はフリーナの前に立ち、頭を下げた。
「え?ちょっ、ど、どうしたんだい?」
「すまなかった。フリーナ殿。あの時の事は私自信かなり酷いことをしたと思っている」
「え?えっと…そ、そうだよ。すっごく怖かったんだからね」
フリーナはそう言って召使を見る。涙は止まっているがやはり目には怯えがある。
「それで提案なのだが、お詫びを込めてお茶会を開きたい」
「っ……お茶会」
「ああ。ヌヴィレット殿にも参加してもらって、三人でだ。その事を今、ヌヴィレット殿と話ていた」
フリーナの瞳はヌヴィレットを捉える。
「ヌヴィレットも…お茶会に来てくれるの?」
「君が参加するなら一緒に参加しよう」
「そっか。じゃあその…いいよ。一緒にお茶会をしよう」
「では日程はまた連絡する。それと、君はやはり神だ。フリーナ殿」
「へ?それってどういう……」
フリーナの言葉を聞き終わる前に召使は部屋を去った。
この先、彼女を慰めるのは自分では無い。その役目は彼女の忠実な従者の仕事だから自分がこれ以上崩すのは良くない。
「あの二人は多分……」
フリーナの先程の表情を見る限り……
「長い時を一緒にいればよくあることだろうな」
そう呟き召使は子どもたちが待つ場所に戻ったのだった。
フリーナside
クロリンデに連れてこられたパレ・メルモニアはピリピリして、働いてる職員は外にいた。
その理由がまさか召使だったなんて……
彼女の事はとても怖い。襲われた時のことが蘇って足が竦む程に怖かった。
「フリーナ」
「ヌヴィレット…その、勝手に決めてごめん」
「いやいい。どの道引きさがなかったと思う。怪我はないだろうか?」
「どこも怪我はないよ。大丈夫」
立ち竦んでいる僕をみて、ヌヴィレットは僕の頬に手を添えて頬を撫でてくれる。
そしてそのままヌヴィレットはしゃがみ込み、僕の頬や額にキスを落とす。
僕もヌヴィレットに手を伸ばし彼に抱きつく。
「こ、怖かった……」
「大丈夫だ。なにかあれば私が君を守る」
「お茶会の時も守ってくれる?」
「守る。約束しよう」
そう言ってヌヴィレットは僕を抱き上げてソファーに座らせて、そのままソファーに押し倒される。
首につけている飾りを外され、ブラウスの前を少し開けられた。
「ヌヴィレット…んっ…!!」
ヌヴィレットの舌が首を舐め、吸い上げる。
「痕はだめ、見えちゃう…」
「服で見えない場所なので安心して欲しい。君が私のものという証だ」
ヌヴィレットは僕の首を触り、僕の上着を脱がしてシャツも脱がす。下着姿にされ、そして背中向けに寝かされて、肩甲骨の所にキスを落とし吸い上げる。
「んっ…ヌヴィレット…」
こんなに沢山キスを落とされたら、ヌヴィレットに愛されていることがダイレクトに伝わるし、ドキドキもする。
こんなことをいきなりヌヴィレットがするのはあまりない。いつもは同意を取ってくれる。
きっと召使の事でかなりの心配をかけたのだろう。
「ヌヴィレット…顔みたい…」
背中のキスも嬉しいけどやっぱり顔はみたい。そう思い懇願すると、ヌヴィレットが僕を前向きにしてくれた。
「ヌヴィレット、好きだよ。僕はキミのものだから安心して?召使にも何もされていないからね?」
ヌヴィレットにキスをするとヌヴィレットは僕を抱きしめてくれる。
「不安だったの?召使になにかされると思った?」
「思った。あの時、君は少し遠くにいた。前の時も彼女から私は君を守れなかった」
襲われた時と面会の時のことか。あれはまぁ仕方ないとは思う。ヌヴィレットでないと処理できない事だったし……襲われた時は夜で彼にも言っていなかった。
「大丈夫だよ。彼女からは殺気は感じれなかった。僕だってそれぐらいは感知できる。襲われた時は彼女は殺気も隠してた。やっぱりあの孤児院のお父様だけはあるよ」
リネくん達がいる孤児院はファデュイのものだ。そしてそれを経営しているのが召使だというのも僕は知っている。彼らが戦いなれているのも知っていた。あの人がトップなら当たり前に強いだろうとは理解できた。
「君はリネくん達のことを全て知っていたのか?」
「まあね。これでも国の統一者だったんだ。民のことはある程度把握していたよ。あの孤児院のこともね」
「なぜ追い出さなかった?」
「あの孤児院は昔からあるんだ……そして神の力ではどうにもならないこともある」
ファデュイがいるのは良くないとは思ってた。けどリネくん達は良い子だし、彼らはフォンテーヌに危害はもたらさない。孤児院のことも表向きはただの孤児院だ。
だから目を閉じていた。全ての罪を己の正義で裁くのを僕は良い事だとは思っていない。
「それでも私は…君にもしもの事があれば……リネくん達でも許しはしない」
ヌヴィレットは僕の髪を梳く。
本当にこの龍はとても人間らしくなったと思う。
「その時はキミが助けてくれるだろ?ヌヴィレット」
「必ず君を助けると誓う。例え彼らと対立しても私は君の味方だ。フリーナ」
そう言われて嬉しくなる。
リネくん達と敵対なんか考えたことも無いがもししたらフォンテーヌが吹き飛ぶ未来しかみえないので辞めておこう。
僕はヌヴィレットの唇にキスをする。
「フリーナ……」
「愛してるよヌヴィレット。僕の水龍」
するとヌヴィレットの瞳が細められて僕を抱きしめる。
「この感情だけは本当に言葉にできないが……私も同じなのだと思う。胸がとても暖かくなる」
「ふふ。それは良いことを聞いたよ」
そして僕はヌヴィレットにもう一度キスをした。
ヌヴィレットも額にキスをしてくれる。
こんな砂糖菓子のように甘くて幸せな時間を過ごせるなんて五百年間思ってもなかったけど、本当に幸せだな
そう思い僕はヌヴィレットの愛を受け入れたのだった。
end