服と信仰フォンテーヌ人の服装はとても高貴である
テイワット大陸を旅している空はふとそう思った。
フォンテーヌは何処か騎士団がある風の国、モンドの人と服装が少し似ていると最初は思っていた。
モンドにも貴族はいる。フォンテーヌにも貴族がいる。
しかしフォンテーヌの方がとても貴族らしい。
千織のデザインの服を纏うリネやナヴィアも素敵だが、やはり目を引くのはパレ・メルモニアの三人だ。
水神であったフリーナを筆頭にヌヴィレット、そしてクロリンデの服装はとても素敵だと思っていた。
しかしその服に込められた意味をまさかこんな形で知ることになるとは思わなかった。
「ヌヴィレット。実はオイラ、ちょっと気になることがあるんだ」
「気になること?私で答えれることなら答えよう」
本日。空とパイモンはヌヴィレットの執務室に来ていた。理由は、久しぶりに彼の顔を見ようという単なる理由。時間があるというのでヌヴィレットと三人で空はお茶会をしている。
ケーキと紅茶という小さなお茶会だ。
その場でパイモンが気になることがあると話し出した。
空は小さな相棒の気になることが何なのか知らないが見守る事にした。
「実はさ、フリーナとヌヴィレットとクロリンデって格好がなんて言うか似てるよな?そのフォンテーヌの人はみんな綺麗な服を着てるけど、三人の服はなんかこう違う気がするんだ」
どうやらパイモンも空と同じ事が気になって居たらしい。
ずっと気になっていた答えが聞けたら嬉しいと思い空は前に座っているヌヴィレットを見る。
するとヌヴィレットは目を細め、少し微笑む。
「私達の出で立ちは全てフリーナの案であり、それを気に入りこの姿をしている」
「フリーナの案?」
「そうだ。彼女は水神であり、このフォンテーヌの中心的存在。その彼女に仕えることが本来、私とクロリンデ殿に隠されたもう一つの立場でもある」
神に仕える。そんな国があるなんて思わなかった。
今までの国は神を信仰するが仕える人は居なかったからだ。
それにクロリンデは人間だがヌヴィレットは龍王。彼までフリーナに仕えるのは少し変だと思ってしまう。
「ヌヴィレットは龍王だよな?いいのか?フリーナに仕える立場で…」
「ああ。実際、フォンテーヌが平和なのはフリーナが神として居たからだ。君たちは知ってると思うが神というのは本来、自由なもので気まぐれと聞く。だがフリーナはこの五百年、人寄りの感性でこの国を統治していた。そんな彼女に仕える事を私やクロリンデ殿は今も誇りにも思っている。」
知恵の神のナヒーダはかなり人寄りだが、確かに他のテイワットの神々は自由奔放であり時に人に試練を与えてきた。
フリーナのように自己を犠牲にしてまで、水神を演じるのは彼女が人であり考えも人寄りだからということ……
そんな彼女を傍で見守っていたヌヴィレットやクロリンデはフリーナをとても特別に思っているのは知っていたがまさか信仰心がかなり熱いとは思いもしなかった。
「その信仰の証が服装なの?」
空が尋ねるとヌヴィレットは頷く。
「そうだ。パレ・メルモニアには制服は確かに存在する。だが私服で仕事もして良い様にはなっている。私の服はフリーナが私の為にオーダーした。最高審判官に相応しい出で立ちだ。クロリンデの服もフリーナが携わっているのは確かだ。
フリーナは水神を降りたが私とクロリンデ殿にとっては彼女は今でも支え守りそして私達を導く存在でもある」
その信仰心の現れが服装や髪飾りという事
「フリーナは自分には役目がないって悩んでたけどちゃんと役目があるんだね」
「彼女はそんな事を言っていたのか?役目か…フリーナの役目はただこの国にいる事だというのに…」
ヌヴィレットの言葉通りだ。
フリーナのこの国での役目は自由に過ごすこと。
存在事態が役目である。
本当にとても愛された神様なのだと思う。
「じゃあ、もしフリーナに何かあったらヌヴィレットとクロリンデはどうするんだ?」
「決まっている。彼女に害を与えたら私はその犯人を審判し、クロリンデが決闘をするのみ」
やりかねない
そう思い空は、この国の神は神を降りても神様なのだと思うのだった。
パレ・メルモニアを出てパイモンとぶらぶらしているとヌヴィレットとフリーナが路地裏にいた。
「あ、フリーナとヌヴィレット」
「パイモン。少しこのままここに居よう」
「え?話しかけないのか?」
「うん。というか物音立てるのも駄目だと思う」
今、動けば自分達はフリーナ達に見つかってしまう。
その為、このまま立ち止まって二人を見守るしか出来ない。
「ヌヴィレット、ど、どうしたんだい?」
「フリーナ。君の役目はこの国に存在することだ」
「え?」
ヌヴィレットはフリーナの頬を撫でる。
あの二人、とても距離が近いと思っていたし、ヌヴィレットの話からフリーナをかなり気にしてるのは知ってたけどまさかあんなに距離が近いとは思わなかった。
「役目って、けど僕はもう水神じゃ…」
「君がもしこの国に居なくなれば、フォンテーヌは悲しみに暮れる」
「っ……」
「それは私も同じだ」
「ヌヴィレット…」
フリーナはヌヴィレットを見つめる。
「君がなんと思おうと、私は君を大切に思っている。だから笑っていて欲しい」
ヌヴィレットの言葉にフリーナの瞳から涙が落ちる。
ヌヴィレットはフリーナを抱きしめる。
「た、旅人…あの二人って…そういう…」
「そうだね」
空はパイモンの頭を撫でて、物音を立てないようにその場を去る。
空を見れば晴天でヌヴィレットの思いがきっとフリーナに届いたのだろう。
「旅人、オイラ次に二人に会った時どんな顔したらいいか分からないぞ……」
「普通にしておこう。それが一番だよ」
人の恋路は邪魔したらいけないとはよく言うし……
そう思いながら空はパイモンとフォンテーヌの街を見て回ることにしたのだった。
end