おかえりただいま綺麗な目だな、と思わず魅入る時。指先が髪の襟足を撫でる時に視線の先が自分なのだと気付いて、目を閉じその意を肯定する。僅かな空白を感じるので、いまだにこの反応が正しいのかカガリにはわからない。けれど笑い声が含まれるような柔らかな吐息が自分の唇に含まれるのも知っている。挨拶のような、この時が一番好きだ。ふわふわとして力の抜ける嬉しさがある。
「…っ」
探るように歯列をひとつずつ舐められ促される。はじめて舐められたときは歯には神経通っていないんじゃなかったか、なのになんでくすぐったいんだ、なんて目を丸くした。あとは楽しいような怖いような混乱の時間がやってくる。
「… ぁす、」
舌先が絡む時に身体が震える。主導権はすっかり相手に奪われ舌が口の中で大暴れされる。侵略である。実際カガリは酸欠で死にそうになる。殺す気か、と思うのだ。
「…おっ、」
角度が変わり口が離れたときに息を吐く。
「ま…ッ~~~~」
途中でまた口が封じられた。死ぬ。後退すると後ろ頭を掌でガードされた。逃げ場が無いので力場は前に。額に軽く頭突きをする形で唇を離すと、間の悪さを感じた。
「えぇ…っ」
軽く喉を鳴らすような咳をした。喉に唾液が通る。深呼吸に一分ほど要する。ゼーーーーハーーーーー、ゼーーーーハーーーーー、熱による涙目のまま呼吸を整える。頭で肩口に頭突きをして遺憾の意を示しながら、カガリはアスランの胸元を3回ほど叩いた。何故か?腕の中から逃れられず背中をぽんぽんと撫でらているからである。
「おま…っなが…」
言えてない。可愛い。目を閉じたアスランが頭の中で二言の感想を述べながら彼女の堪能をしていることをカガリは知らない。知っていたら殴っていい案件だ。こほこほとカガリは呼吸を整える。頬を紅潮させながら「長いんだよ!」といえたのは落ち着いてからだ。
「何が?」
「キスが!」
「3秒くらいだろ」
「嘘つけえ!」
対しアスランは楽しそうに笑った。愛おしむような吐息が一回吐かれた。カガリがじとりと睨めば、にこりと笑われる。その優しい顔に弱かったりもする彼女である。
「ただいま、カガリ」
「お帰り、破廉恥野郎。…なにわらってるんだ、おまえ…」
何かもっと言いたいことがあった気がしたが、カガリは腕を回して労うように抱きしめた。懐の広い人間性を持つ彼女である。
「もっと怒るかなと思ってた」
「…いいよ、もう。帰ってきたならそれでいい」
「…君がキスとハグを約束してくれるなら俺は絶対帰ってくる」
「私は冗談言ってるんじゃないんだぞ」
「俺は大真面目に言ってる!」