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    tsuyuirium

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    tsuyuirium

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    聡実くんお誕生日おめでとう🎂
    わぬ友情出演の狂聡です。わぬが普通にお隣に住んでてコミュニケーションをとってます。

    わたぬきの日隣に住むわぬから、衣替えの手伝いを頼まれた。桜ももうすっかり見頃になるくらい暖かく、天気がいい今日が頃合いのようだ。
     僕よりもおしゃれに気を遣っていて衣装待ちなわぬの冬服を、指示を受けながら衣装箪笥へと収納していく。
    「だいぶ片付いたで。僕より服持っとるな」
     ふかふかの胸板を少し大仰に逸らして、自慢げな素振りを見せてもちっとも威厳がない。ちぐはぐさがおかしくて、つい小さな笑いが溢れる。
     わぬは僕たちとは同じ言葉は喋らなかったが、不思議と言いたいことや意思が伝わってくるもので、コミュニケーションの上で困ることはない。今も喋らずとも、身振り手振りや豊かな表情で僕に指示を出してくれる。
     冬の間によく見かけていた、綿の入ったふかふかの半纏。一度このタイミングで虫干しをするそうで、半纏を受け取るとわぬはとてとてと日が差し込む窓辺へ駆け寄っていく。ベランダで風にあてたいのだろう。わぬはちらとこちらを見て、引き戸の前で立ち止まる。やっぱりそうだったことを確認して腰を上げる。
     カラカラと音を立てて扉を開くと、炊きたてのご飯のようにあたたかい春の風が僕たちを撫でつけた。春の風をご飯に例えたのはわぬがはじめに言っていたことで、それが気に入っていた。ふんふんと、一生懸命に上を向いて鼻を鳴らしているわぬも、きっと僕と同じことを感じているのだろう。
     わぬから再び半纏を手渡され、ハンガーに広げてから、風通しが良いであろう場所にかける。ふわり。タイミングよくもう一度吹いた風に煽られた半纏が鼻先を擽る。ふわふわのわぬと同じ、陽だまりの匂いがした。
    「春やねえ」
     窓枠のへりに座るわぬの隣に腰かけて、同じように目を閉じてみる。春の匂いと温度に包まれていると、眠くなって仕方がない。
    「え、うん。そうやけど。ありがとう」
     びっくりした。うつらうつらしていたところをわぬに袖をつつかれて、誕生日おめでとう、と告げられた。自分の誕生日を忘れていたわけではないが、わぬが知っていたことに驚いた。何でもない日のように衣替えを手伝ってほしいと言われたので、てっきり知らないとばかり思っていた。別に何かを期待していたわけではないし、自分から申告するのもわざとらしいかと思っていた。
    「狂児から聞いたん?」
     尋ねてみると、わぬはこくりと頷いた。その反応を見て、なるほどそうだったのかと、狂児のここ数日の言動にも納得がいった。
     お誕生日、聡実くんどうする? どっか行きたいとこある? そう聞いてくる狂児に、別に、どこも。でも家でゆっくりはしたい。なんて可愛げのないことを言っていた。自分のためにこの日、時間を作ってくれることは嬉しいけれど、新年度の忙しないこの時期にわざわざ遠出して、疲れることはないかなと思っていた。
     狂児はあのとき拍子抜けしたような顔をしていたけれど、すぐにそのあとにっこりと音が聞こえるくらいに目を細めて、分かった。と言っていた。おや、とその時思わないでもなかったが、きっとその時すぐにこの計画を思いついていたのだろう。
     わぬから今日、この日に衣替えを手伝ってほしいと言われたことを報告したときも、えらく優しい声で手伝ったり〜、なんて言われたものだから、今度はこちらが拍子抜けした。一応、家でゆっくりしたいなんて言ったのは僕のほうだ。けれど狂児が時間を作って僕のそばにいてくれると言うのに、わぬとはいえ他に予定をいれることに、不満の一つもないものかと思うとその時になって少し寂しさを覚えたりもした。
     けれどわぬと狂児が共犯だったということが分かった今、狂児の妙な態度全てに納得がいった。お昼なったらわぬと帰ってきぃ、朝に家を出る前に狂児がそう言っていたことを思い出す。またその時も妙にニコニコしていたな、と思うだけで、僕はただ、分かったと返事をしただけだった。
    「わぬも共犯やったんやな」
     そう呟くと、すっかり僕を騙すことに成功したわぬは再び得意げに胸を張って鼻を鳴らしていた。
     そしてすくっと立ち上がり、部屋の奥に消えていく。ぽふぽふとフローリングを蹴るわぬの足音が好きだった。しばらくすると両手いっぱいに袋を抱えて、再びわぬは隣に戻ってきた。
    「え、くれるん? ありがとう。見てもええ? ……わ、アスパラや」
     騙したお詫びとお手伝いのお礼、そしてプレゼントに。そう言ってわぬが差し出してくれた袋の中にはたくさんのアスパラガスが入っていた。わぬは旬の食べ物であったり、美味しいものにとても詳しかった。いい野菜や果物を見つけることが得意のようで、僕がわぬの生活まわりのことを手伝うことがあるのと同様に、僕もわぬのこの才能に助けられることが多々あった。
    「狂児になんか作ってもらうわ。ありがとう」
     どういたしまして。そう言わんばかりに頬の毛を膨らませている。
    「聡実くーん、わぬー、お昼やで! パーティしよ!」
     隣のベランダから狂児の浮かれた声が聞こえてきた。何が用意されているのか、帰ってからのお楽しみだ。
    「ねえ、狂児さん。わぬからアスパラいっぱいもらった」
    「アラ! ええね〜おひたし作り置きしよか。わぬありがとうな」
     はよ来んと全部食ってまうで! なんてできもしないことを言いながら、ベランダから遠ざかる足音で部屋の奥に狂児が戻っていくのが分かった。それでは僕たちも移動しようかと腰を上げたところで、ふと僕も思いついてしまった。
    「あんな、狂児さんな、来月の五日が誕生日やねん」
     やから、今度は僕に協力してな。そう言うと、少し悪そうな顔で目を細めたわぬは肩をくすくすと揺らして頷いた。
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    Replies from the creator

    tsuyuirium

    PAST狂児さんの賭けとそんなことはつゆ知らずの聡実くん。
    映画の演出を踏まえた描写がございます。
    大穴ばかり外すギャンブラーに明日はない 今日は振り返るやろうか。慣れた帰り道を少し俯きながら歩く背中に変わったところはなさそうだ。ベッティングまでに残された時間はあと少し。何か見落としていることはないか。可能な限りの情報を集めるために、対象の観察をしばし続ける。
     屋内での部活だからか、日に焼けていない頸がヘッドライトに照らされると幽霊みたいに白いこと。助手席で寝てしまってシートに押し付けられた後ろ髪が癖になってたまにはねていることも、後ろから見送るようになって初めて知った。
     初めて送り届けた日。家を教えられないと健気にも突っぱねながらも可哀想に、車に乗っている時点で無理だと告げたあの日から始まったことだ。
     家を知られたくないなんて面と向かって言った相手にすらも礼を尽くせるこの子の心根が、心配になるほど清らかで美しいのを目の当たりにして、そこにつけ込んだと言う自覚は正直、あった。着いたらラインして。心配やもん。そう言うとあの時の聡実くんはぎょっとした表情で目を丸くしてこちらを見ていた。あの顔を思い出すと今でも愉快な気持ちになれる。
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    tsuyuirium

    PAST聡実くんお誕生日おめでとう🎂
    わぬ友情出演の狂聡です。わぬが普通にお隣に住んでてコミュニケーションをとってます。
    わたぬきの日隣に住むわぬから、衣替えの手伝いを頼まれた。桜ももうすっかり見頃になるくらい暖かく、天気がいい今日が頃合いのようだ。
     僕よりもおしゃれに気を遣っていて衣装待ちなわぬの冬服を、指示を受けながら衣装箪笥へと収納していく。
    「だいぶ片付いたで。僕より服持っとるな」
     ふかふかの胸板を少し大仰に逸らして、自慢げな素振りを見せてもちっとも威厳がない。ちぐはぐさがおかしくて、つい小さな笑いが溢れる。
     わぬは僕たちとは同じ言葉は喋らなかったが、不思議と言いたいことや意思が伝わってくるもので、コミュニケーションの上で困ることはない。今も喋らずとも、身振り手振りや豊かな表情で僕に指示を出してくれる。
     冬の間によく見かけていた、綿の入ったふかふかの半纏。一度このタイミングで虫干しをするそうで、半纏を受け取るとわぬはとてとてと日が差し込む窓辺へ駆け寄っていく。ベランダで風にあてたいのだろう。わぬはちらとこちらを見て、引き戸の前で立ち止まる。やっぱりそうだったことを確認して腰を上げる。
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