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    let_it_tei

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    スプリガンのおみジャン
    何もわからん

    #おみジャン
    three-ringedJacket

    診断メーカー詰め合わせ御神苗と遊ぶ日はスマホの充電器を持っていかないジャン

     御神苗は、街に広がる人の営みの音が嫌いではない。
     歩道の両脇の店から聞こえるラジオ。重なり合う人々の声。あらゆるものを巡らす車の駆動音。耳を澄ませば、もっと多くの音を拾える。 御神苗はしなかった。街の流れに身を任せるのが ほにゃほにゃだからだ。



    歩道の両脇の店から
     緩やかな坂道の歩行者専用道路では、

    「テメーと仕事以外で出掛けることになるとはな。なんでオレなんだよ」
    「オレと一番年近いのがお前だったんだよ。芳乃は同い年だけど、あの女を誘おうものなら全額奢りは確定で――そもそもの話、男友達と遊びに行く場所探してんのに女のアイツ誘っても意味ねえし」
     ジャンの口からこの手の文句が出るのは五度目だ。同じような文句には同じような返答しかできない。多少言葉は変えているものの、御神苗とジャンの会話は不毛なものとなりつつある。
     ジャンもジャンで、口ではあれこれと言いつつも、「帰る」とは言わないのだ。帰りたいと言うことすらない。言葉と行動が一致し、直情径行の姿ばかり見ていたので、ジャンの今の態度をどう捉えていいのか分からない。彼が不器用な優しさを見せる人間だと知っているから、当然だとも意外だとも思う。
    ――人間は多様であり、一個人をとってみても多面性がある。スプリガンとして活動する中でそんなことは十分に思い知った。だからこそ、高位の存在は嘆き、悲しみ、怒り、そしてヒトという種に僅かな希望を見て、人類を見守る体で監視を続ける。
    「おい、当事者が分かりやすく飽きたって顔すんな」
     ぱしん、とジャンに軽く頭を叩かれる。
    「痛ッ」
    「……腑抜け野郎が」
     おそらく、ジャンは御神苗が頭を下げて避けると思っていたのだろう。御神苗も、隣にいるジャンが頭を叩こうとしていると分かっていながら避けなかった。
     ジャンは苛立ちを露骨に表し、御神苗は気まずくなって頬をかいた。
     普通の男友達なら、これくらい普通のふざけ合いだ。苛立つ必要も気まずくなる必要もない。
     だが、その普通すら二人の間ではままならない。大多数から見れば、銃弾が飛び交う戦場などフィクションの中の非日常だ。しかし、御神苗とジャンにとっては、その非日常こそが日常である。二人が一番顔を合わせるのは、まさに任務の荒事の最中なのだから。




    御神苗とジャンが時をともにする非日常ならば、御神苗はジャンの手を避ける。そして、それが二人にとっての〝普通〟の在り方なのだ。
     ジャンの苛立ちは、自分たちにとっての当たり前を無視して、御神苗がまるで大多数の〝普通〟に倣うように頭を叩かれたからだ。御神苗の気まずさは、そんな〝普通〟の態度を取ってみたものの、ジャンがそんなものなどいらないとばかりに不快感を露わにしたからだ。

     理由が分かっても、二人の間の空気はそう簡単に変わらない。せっかくの休日だというのに、望んでこんな気まずさを味わいたいと思う人間はない。御神苗も例外ではなかった。

     御神苗には珍しく、任務も入らない金土日の週末だった。学生相応の休日であり、〝普通〟の高校生ならば、友人と馬鹿をやったりふざけ合ったりして、ちょっとだけ羽目を外すような日だ。もちろん、御神苗はこの三日間を迎えることを随分と前から楽しみにしていて、〝普通〟の学生以上に体力があることをいいことに、目一杯予定を詰め込んでいた。

     はあ、と御神苗の隣にいるジャンが溜息を吐いた。
    「止めだ、止め。任務もないときにこんな煩わしい思いするのは割に合わねえ」
     御神苗も「そうだな」と便乗するように返した。
     人間関係を煩わしいと思ったことはないが――銃声が止まない場が日常になったかもしれない身からすれば、人と人の繋がりが感じられる瞬間こそ喜びを感じるのだから――好んで嫌な空気に身を置きたいわけでもない。この話は終わりだとお互い了承したのなら、難しく考えるのはこれで終わりだ。
     間が数秒空いて、仕切り直すかのようにジャンが口を開く。
    「男が女と出掛けたら全部デートとか思うクチか? 視野が狭いしガキそのものだぜ」
    「うるせえ。お前だって誘ったときの返事が『日本の遊び場なんて行ったことないな。面白そうじゃねえか』で満更でもなかったくせによ」
    「相手の言ったこと蒸し返すやつは男にも女にもモテねえぞ。オマエと一番年が近いけど、年上であるジャンお兄様からのアドバイスだ」
     にやりと笑って、ジャンが見下ろしてくる。御神苗は、ジャンがそういった仕草を向けてくることに慣れてしまった。高圧的な態度も、御神苗を同格と認めているからこそのものだ。仕草の意味が分かるものは、まだ心臓が落ち着いていられる。
     心臓が跳ねるのは、ジャンが腰を曲げて、御神苗の顔を覗き込むときだ。明るい灰色のような、深い緑のような、光の加減で色を変わるジャンの瞳が、御神苗の黒に縁取られた茶の瞳を見つめてくる。
    ――獣人の瞳は、果たして魔性のものだっただろうか、
     ジャンと目が合う度、光の加減で宝石のように移ろう瞳の本当の色を知りたくなる。
     誰かを知りたいという感情は、適度なものであれば、健康な精神と健全な社会性を証明するものである。
     しかし、ジャンの瞳は駄目だ。
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