英つむ 🌸 ぼさぼさに崩れ放題、はね放題の頭髪の人間がビルにふらふら入って来て、一瞬身構えた。彼の雰囲気に気圧されて周囲の社員たちもどうするべきか分かりかねるのか、距離を置いてその様子を静観している。崩れ放題、はね放題に加えて、伸び放題の頭髪は、ひとりしか思いつかない。周囲の目線はこの際気にしないことにして、入り口のそばへ小走りで近づいた。
「ちょっと、つむぎ?」
「あ、ああ〜……、英智くん……?」
「なにこれ? 誰かにやられたの?」
疲れきった声でつむぎが項垂れ、やや乱雑に髪をまとめていく。髪の隙間から見える瞳にも、やっぱりどこか疲れの色が窺えた。
つむぎの雑な手つきがどうも気に入らなくて、反対側の髪をなるたけ丁寧に整えてやると、その絡まりは見た目よりもずっと簡単に解けた。何度か繰り返すうちに、手に髪ではない触感に当たり、再びぎょっとする。おそるおそる慎重に抜き取ると、それは桜の花だった。綺麗に花弁が五枚揃ったそれは、一見するとロマンチックだが、相手は男でましてやつむぎなので何も感じやしない。
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