小さな案内人「ひびき!」
子供は朝から元気だなと自身を呼ぶ声に応えてやりながらまだ眠気の残る頭でぼんやりと思う。さすが護衛艦と言うべきか、それなりの距離を息切れひとつせず一気に駆け寄ってきて隣へと並んだ。
「おはよ、くまの。早いね。ちはやはどうしてた?」
「眠いから後でって言ってた」
「うん、わかった。もう少し掛かるだろうからゆっくりしていて良いよ」
ちはやの方が対人応対に向いているからと任せたいとことだけど、陸上げ中で調子が出ないならば仕方ないと諦める。とはいえ、どうしようか。はたかぜとは歳こそ近いもののほぼ接点も無く、呉に来てからですら挨拶くらいしかしていない。間がもたないよなぁと頭を悩ませたところで、この際くまのに任せてみてもいいかとひとつの案が脳裏を過る。本人の希望次第ではあるけど。
接岸した艦からやや離れて、次々に降りてくる乗員達を二人で眺めていた。そのうちはたかぜも出てくるだろうと、人数多いねぇと言い合っていたところに集団から離れる人影がひとつ。
「しばらく世話になる。よろしく頼む」
普段から生真面目そうな顔をしているけれど、どことなく緊張した面持ちが加わり更に強張っている。大ベテランの元DDGでも不馴れな環境で戸惑うのは同じか、と少し親しみが沸いた。
「いらっしゃい。何か疑問があれば遠慮なく聞いて。僕もちはやもここ生まれだからある程度答えられると思うよ」
「そうさせてもらう。…ところで、先程からじっと見られているんだが。この子はくまの、だな?」
名前を呼ばれたくまのがこくこくと頷き、今にも手を引いて行きそうなのをもう少し待ってて、と抑える。
「そうそう、先に謝っておくよ。来て早々悪いけど、こっちいる間の遊び相手頼まれてくれる?僕らじゃ体力が追い付かなくてね。昨日君が来ることを伝えたら朝からこの調子で」
「承知した。出る前にせとゆきから話は聞いた。俺で良ければ相手になろう」
「助かるよ。それじゃあ後は案内を」
はいっ!と元気に返事をするくまのへとバトンタッチする。良いよね?と聞けば頷きを返してくる。初仕事だと張り切るくまのの嬉しそうな顔につられてはたかぜの表情も緩んできた様だ。これなら自分の仕事は補足程度で済みそうかな、と二人の様子を窺いながらゆったりと背を追った。
初夏の太陽が海を照らすいい朝だ。