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    shidu_k13

    @shidu_k13

    雑食なのでいろいろ
    黒🏀練習中

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    shidu_k13

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    #赤黒
    redAndBlack

    みなとみらい純情ものがたりごめん黒子、この埋め合わせは必ずするから。本当にごめん。本当にごめん。
    ぺこぺこと頭を下げながら赤司が慌ただしく出て行くと、途端に部屋は静かになった。はぁ。と自分の吐いた溜息がやたら大きく聞こえる。
    「埋め合わせって…」
    何回目ですか。独り言が響いて虚しくなる。
    そもそも今日だって、前に約束していた出掛ける予定が赤司の急な仕事で行けなくなってしまって、その埋め合わせが今日だったはずだ。埋め合わせすら埋め合わせするってどういうことだ。それにその前も、仕事終わりに食事に行く予定だったのが彼の急な残業で何回かキャンセルになっている。
    赤司の仕事が忙しいことは十分すぎるほどよく分かっているし、仕事とボクどっちが大事なんですかなんて野暮なことを言うつもりはこれっぽっちもない。赤司の中で仕事が大部分を占めているのを分かっているからこそ、多忙な彼を少しでも支えたかったから一緒に暮らすことを決めたのだ。
    それなのに結局、同じ家に住んでいるのに顔を合わせることすらままならない日が続いている。今日だってやっともぎ取った代休だったはずなのに、二人で出掛ける予定時間の数分前に赤司の携帯が鳴り、彼は呼び出しに応じてしまった。
    分かっている。彼しか対応出来ない仕事もあるだろうし、頼りにされていることも分かっている。けれど、それにしてもみんな彼に頼りすぎではないだろうか。赤司も赤司で急な仕事も全てこなしてしまうから、周りがますます彼に任せるのではないだろうか。
    また一つ溜息を吐いて、ソファに腰掛ける。出掛けるつもりで着替えた服は、前に赤司が選んでくれたシャツだった。購入して以来なかなか一緒に出掛けられなかったから、今日ようやく着られて嬉しかったのに。髪の毛だって、久しぶりのデートだからと赤司がセットしてくれて軽くワックスで流してくれたのだ。似合っていない気もするけれど、こうやって二人で準備するのも新鮮で嬉しかった。
    それに赤司だって珍しく張り切って髪をセットしていて、すごく格好良くて素敵だなって思ったのに、彼はその姿のまま仕事に行ってしまったのだ。「今日の赤司さんもいつもと違ってカッコいいわね♡」なんて、女子社員だけならともかく、男女年齢問わずどうせそう囁かれている。ああ、考えたらむかむかしてきた。

    しばらくソファに座ってぼんやりしていた黒子だけれど、ふと思い立って腰を上げた。一人で部屋にいても仕方ないし、気晴らしにどこかに出掛けよう。そう思って、スマートフォンのメッセージアプリを立ち上げる。
    『旅に出ます。お仕事頑張ってください。』
    それだけ送って電源を切った。鞄の中にスマートフォンと財布とハンカチ、読みかけの文庫本を入れて靴を履く。ドアを開ければ、むっと蒸し暑い夏の風が肌を撫でた。

    .
    さて、どこに行こうか。と思うも、行き先はなんとなく決めていた。前に二人で行きたいと言っていて、結局まだ行けていない場所。ここから電車を乗り継いで一時間程の、定番のデートスポットだ。
    定番だけど、海沿いを散歩して、観覧車に乗って、夜景見たりするのも良いですよね。たまたまテレビで放送されていた連休のおでかけ特集を見ながら黒子がそう言えば、良いね、今度行こうかと赤司は笑って言ってくれたのだ。それがすごく嬉しかったけれど、結局その約束は果たせていない。あれは確か五月の連休前に放送されていた番組だったから、あれからもう三ヶ月以上も経ってしまった。
    いつ行けるのかもわからないし、それならもう一人で行ってしまおう。それに今は、なんだか一人で海でも見たい気分だった。どうせなら観覧車も乗ってしまおうか。ただ、黒子一人で行っても係員に認識してもらえず、いつまで経っても観覧車に乗れない可能性もあるけれど。

    最寄り駅から電車に乗り、乗り換え駅の渋谷まで地下鉄に揺られる。空いていた席に腰掛け、栞が挟まった文庫本を開いた。
    彼は今頃どうしているのだろう。忙しくしているだろうか。黒子のメッセージには気付いただろうか。気になる気もするけれど、スマートフォンの電源は切ったままだ。がたんごとん。電車に揺られながら、文庫本のページをめくる。

    人の多さに途中何度も辟易しながらも着いた目的地は、やっぱり休日らしく人が多く、そして暑い。午後の日差しがじりじりと黒子の肌を刺した。じんわりと汗を滲ませながら、どうしようか、どこに行こうかととりあえず駅前の案内板を見る。
    喉が渇いたから、どこか自販機で水でも買おうか。それともマジバを探してバニラシェイクを飲もうか。ぼんやり案内板を見ながら、もうここまで来たら行き当たりばったりで良いだろう、と右も左もよくわからずに適当に歩き出す。

    きらびやかな港町は夏の鮮やかな色がよく似合うと思った。まぶしいくらいの青空に、大きな観覧車と、並ぶ高いビルの街並みがよく映えている。なるほどこれは、人気のデートスポットであるのも納得だ。景色が楽しくて、歩いているだけでわくわくする。現に、親子連れや友人同士はもちろん、先ほどからやたらにカップルが目立っていた。
    仲良さそうに手を繋いで歩く男女は、楽しそうで幸せそうだった。そんな人波を横目に、結局自販機で買ったミネラルウォーターを一口飲んで、黒子はぶらぶらと街を歩いた。

    一人で歩いても、十分楽しかった。おしゃれなカフェがあったり、美味しそうなアイスがあったり。物珍しい雑貨屋や、2号に似合いそうな可愛いペット用の服屋もあった。
    一人で歩いても楽しいけれど、でも結局思うのは彼のことだった。カフェのパンケーキが美味しそうだったから赤司くんとシェアして食べてみたい。2号に合う服を赤司くんにも選んでほしい。頭上を行き交っているロープウェイの行き先はどこかわからないけれど、なんだか楽しそうだから赤司くんと乗ってみたい。この街に詳しくないから、あの観光バスに乗ってみるのも良さそうだ。
    はぁ、とまた小さく溜息を吐く。すれ違ったカップルは、こんなに暑いのに腕を組んでいちゃいちゃ歩いていた。黒子は一人でとぼとぼ歩きながら、海の見える公園を目指す。赤司に選んでもらったおろしたてのシャツは、背中が汗でじっとりと濡れていた。

    迷いながらも辿り着いた公園は、思ったよりも人がいなかった。どちらかと言うと小さな子供を連れた家族が多くて、レジャーシートを敷いて休憩している親子もいる。はしゃぎ回って遊ぶ子供たちの可愛らしい声を聞きながら、空いていたベンチに黒子は腰掛けた。ちょうど日陰になっていて、日差しがないぶん少し涼しい。途中、赤レンガの建物で見つけたソフトクリームにどうしても心惹かれて買ってしまった。道中歩きながら食べたソフトクリームは、もうだいぶカップの中で溶けてしまっている。美味しいけれど、でも、赤司くんと食べたかったな、と思った。本当はもう一つの期間限定のミックスソフトとかなり迷ったのだ。一緒に食べたかった。そう思っても仕方ないけれど。
    額に滲んだ汗をハンカチで拭う。本を読もうかとも思ったけれど、せっかくここまで来たのだからと、しばらくぼんやりと景色を眺めることにした。
    夕方近くなってもまだ強い日差しは、海に反射してきらきらと輝いていた。大きな船がいくつか並んで見える。遠くを走っているのは遊覧船だろうか。
    海沿いの湿った風が、暑さで火照った身体を少し冷やしてくれる。赤司にセットしてもらった髪はもう汗でぐちゃぐちゃだ。目の前を、子供たちが走り回って駆けてゆく。蝉の鳴き声が途切れ途切れに聞こえた。

    さみしいな、と、急に思った。
    予定を合わせられないのも、なかなかゆっくり話すことが出来ないのも、仕方ないのは分かっているけれどやっぱりさみしい。彼のそばにいたくて、抱えているものが多すぎる彼の荷物を少しでも持ちたくて一緒にいたいと思ったのに、何も出来ない自分が不甲斐なかった。
    今何時だろう。少し日が傾いてきたし、そろそろ帰ろうか。何より、早く赤司に会いたかった。
    ずっとオフにしていたスマートフォンの電源を入れる。すると何件もの不在着信とメッセージの通知があってぎょっとした。そして電源を入れた瞬間に、またぶるぶると携帯が震え出す。着信元は言うまでもなく赤司だった。
    「も、もしもし…?」
    「やっと繋がった!黒子、今どこにいるんだ!?」
    「え、どこって…」
    一人で海見てますけど。とも言えず、まあちょっと、と誤魔化す。もう帰ります、と言おうかと思ったけれど、何となくそう言うのが悔しくて、明らかに焦っている様子の電話口の赤司へ口を開いた。
    「赤司くん」
    「黒子、」
    「一人じゃさみしいです、って言っても良いですか?」
    「っ…」
    そう言えば、本当にさみしくなって泣けてきた。さみしいのは今だけじゃない、ずっとそうだ。一番近くにいることを許されているはずなのに、いつまで経っても遠い気がする。生まれ育った環境がまるで違うのは分かっているけれど、でも例えば自分が女性で、彼と結婚でも認められたら、こんなさみしさは感じなかったのだろうか。それとも緑間のような優秀な人材だったら、仕事でも彼のサポートを多少は出来ただろうか。たらればを言ってもどうしようもないのに、うじうじと心の奥のほうが痛くなる。海が揺れて見えるのは波でもかげろうのせいでもない、たぶん自分が泣いてるからだ。

    「…っ、黒子!!」
    叫ぶようなその声に、えっ、と驚いた瞬間、溜まっていた涙がほろりと溢れた。
    聞こえた声がスピーカー越しではない気がする。まさか。おそるおそる顔を上げれば、脱いだジャケットを腕に抱えて、シャツを捲って僅かに息を切らす赤司がいた。
    なぜ、彼がここに。むにっと頬をつねる。痛い。
    「…なにしてるの」
    「つねってました」
    「どうして」
    「赤司くんがいるから…まぼろしですかね」
    「まぼろしじゃない、本物だよ」
    はぁ、と大きく息を吐いた赤司は、隣良いかいと言って黒子の座るベンチの空いたスペースに腰掛けた。シャツのボタンを二つ開けて、捲った袖口で汗を拭っている。赤司がそんな大胆なことをするなんて珍しい。暑い、と、シャツの襟元をぱたぱたと膨らませていた。
    「飲みかけですけど…いりますか」
    「ああ、ありがとう」
    黒子が渡した飲みかけのミネラルウォーターを、赤司はぐびぐびと飲み干した。それから赤司は黒子のほうに身体ごと向き直す。走ってきたのか、髪は乱れて、こめかみにはまだ汗が浮かんでいた。
    「黒子、本当にごめん」
    赤司が深く頭を下げる。驚きすぎて涙も引っ込んだ。どうしてここにいるのか、なぜここが分かったのか、仕事はどうしたのか。色々聞きたいことがありすぎて、何が何だかもうわけが分からない。
    「どうして、ここに…」
    「前に、行きたいって言っていただろう」
    「覚えていたんですか…」
    「もちろん…。なのに、全然行けなくてごめん」
    「いえ…」
    ふるふる、と黒子が頭を横に振る。膝の上でぎゅっと握られた赤司の手を、黒子はそっと触れた。熱い。手のひらまで汗を掻いている。
    「ここにボクがいるかもわからないのに、来たんですか?お仕事は?」
    「仕事は、一時間で終わらせてきた。急いで帰ろうと思ったのに、黒子からのメッセージを見て肝が冷えたよ。今度こそ愛想尽かされたのかと思った」
    「そんなこと…」
    「ここにいるって確証はなかったけど、何となくそんな気がしたんだ。当てずっぽうだったけど、会えてよかった」
    そう言うと、赤司は黒子の目元をそっと指で拭った。その仕草にはっとする。そうだ、思わず泣いてしまったのだった。恥ずかしくて目を逸らしたのに、赤司は黒子の顔を覗き込むように、じっと視線をとらえて離さない。
    「謝っても許されないかもしれないけれど…。本当に、すまなかった」
    「いえ、違うんです。赤司くんが忙しいのはわかってます。これは、自分が不甲斐なくて…」
    「不甲斐ないのはオレのほうだよ。オレは黒子に助けられてばかりなのに、何も返せていない」
    「な、なに言ってるんですか、そんなのボクだって…」
    いやオレが、いえボクだって、の押し問答を何度か繰り返して、きりが無くなって二人で顔を見合わせて笑った。いつの間にか、あんなに強かった日差しは落ち着いて、夕日が沈み始めている。走り回っていた子供たちももう帰る時間なのか、辺りに人はほとんどいなかった。
    日が落ちるのが早くなった。もう夏も終わりが近付いている。
    「今日、一人でここに来て…。やっぱり、赤司くんがいないとつまらないなって思いました。どこに行っても、赤司くんと来たいなって思ってしまって」
    「うん。今度こそ一緒に行こう。仕事も…もう少し何とかする。また黒子に嫌な思いさせてしまうかもしれないけど、なるべくそうさせないよう、努力するから」
    「なに言ってるんですか。キミはもうこれ以上頑張らなくて良いんですよ」
    「けど…」
    「良いんです。赤司くんが今日ここに来てくれた、それだけで嬉しいです。あとは観覧車に一緒に乗ってくれたらもっと嬉しいかもしれません」
    「それはもちろん、乗ろう」
    薄暗くなり始めた公園に、静かな波の音がわずかに聞こえる。街の明かりがぽつりぽつりと灯り始めた。まだ暑さを引きずる湿っぽい風が、赤司の前髪をひらひら撫でる。
    そういえば、彼の髪も乱れたままだった。手ぐしで直してあげれば、赤司は恥ずかしそうにまばたきをしてはにかむ。
    「ぼさぼさだった?」
    「ぼさぼさでも赤司くんはかっこいいですよ」
    くすくす笑い合っていたけれど、次第に赤司の顔が近付いてきた。黒子がじりじりと後ろに下がれば赤司もまた追いかけるように迫ってくる。今にも唇がくっつきそうになってしまって、黒子は思わず赤司の口を手で押さえた。
    「むぐ」
    「近いです!」
    「キスしたい」
    「外ではダメですって」
    「ちっ…分かったよ、帰ったらね」
    「…観覧車の中なら良いかもです」
    「そうか。早く行こう」
    「うわっ…赤司くん!」
    黒子の手を引いて、赤司は立ち上がった。大きな手のひらをぎゅっと握る。
    そうだ、期間限定のソフトクリームもあとで一緒に食べてもらおう。観覧車とそれで今日はチャラにしてあげてもいい。そしたらあとは家に帰って、今夜は二人で一緒にいられたら、それでもう今は十分だ。
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