オメガバ赤黒! 大人になったら、番になろう。そして正式な段階を踏んで結婚してほしい。オレの人生には、黒子が必要だから。黒子がいない人生なんて、もう考えられないから。
そんな、今思い返せば恥ずかしい言葉だった。我ながら必死な思いは伝わったのか、黒子は表情のないまま小さく頷く。それでも、彼の白い頬は赤く染まっていた。
ボクも、赤司君と番になりたいです。そう言ってもらえて、本当に嬉しかった。絶対に幸せにするし、大切にする。心に誓った瞬間でもあった。
黒子の家族、それから、あの小難しい赤司の父も、二人の交際は認めてくれた。ただ、口を揃えて言われるのは「番になるのは成人してからだ」ということだ。それは尤もだと思う。Ωということを差し引いても元々身体が小さく、ヒートもまだ安定していない黒子にとって、赤司と番になるということは肉体的にも精神的にも負担がかかる。それにまだ親の扶養に入る学生の立場であるし、東京と京都という隔たりもある。
けれど黒子の身体が成熟して、赤司も経済的にも自立した大人になれたら、番になって籍も入れたい。ゆくゆくは愛する人との子供が生まれたら、これ以上幸せなことってないとは思うけれど、それは黒子と一緒に考えていこう。とにかく、自分たちはまだ未成年の学生なのだ。やわらかな新雪のような、まっさらで綺麗なままの初恋。大切に育てていきたかった。
「あの、…赤司君」
「…ん?」
お互い部活で忙しいのに合わせて、赤司と黒子には物理的な距離がある。わずかな合間を縫って会える時間は貴重だった。
今回は三連休のうちの二日間、赤司が家の用事で東京に戻って来ている。とはいえ明日は赤司の家の予定があるから、会えるのは今日、ほんの数時間だけだった。どこかへ出掛ける選択肢ももちろんあったけれど、結局、いつも通り黒子の家に二人でいる。特に何かをするわけでもなく、タブレットでバスケットの試合を見たり、赤司が黒子に勉強を教えたり、一緒に課題をやったりもする。こんな過ごし方で良いのか、と前に一度聞いたら、これで良いんです、と黒子はシャーペンを握ったまま言った。
そう、これで良いのだ。
ふわり。と、バニラのような、たっぷり甘い匂いがふれる。
黒子の母親は、つい数分前に買い物に行くと言って出掛けて行った。父親は仕事で、祖母は近所の友人の家に遊びに行っているらしい。つまり、今この家には赤司と黒子の二人だ。正真正銘、二人きり。
「…もう少し、そっちに行っても良いですか」
「…うん。おいで」
課題を広げていた折り畳みの簡易テーブルは、少し身体を動かせば簡単に二人の距離が近付いた。他に誰がいるわけでもないのに、音を立てないようにそろりと近付いてくる黒子が可愛らしい。
厚手のニットを着た二人の上半身が、ぴったりとくっつく。抱き締めれば、バニラの香りがより濃くなった。
「赤司君、いい匂いします…」
「黒子も。ヒートが近いのかな」
「そろそろかもしれません…。最近、やっと少し周期が安定してきました」
「そうか。それなら良かった」
ハイネックの下に隠れたチョーカーに触れる。赤司が贈ったチョーカーは、厳重なロックが掛かっていて、赤司と黒子、二人の指紋と、二人だけが知る暗証番号を入れないと外れない。番になるのはまだ先だとお互い決めたものの、黒子の周りはやたらにαが多かった。万が一にでも何か起きないために、念には念を入れているつもりである。
赤司の肩口に顔をうずめた黒子は、すんすんと鼻を鳴らして匂いを嗅いでいた。そんなふうにされたらさすがに恥ずかしいと思いながらも、黒子の甘い香りに赤司もあてられてゆく。あかしくん、と呟く黒子の瞳が、トロリととろけていて、赤司も同じように溶かされた。ほんの数秒見つめ合って、そのまますぐに、唇が重なる。
「ん、…っふ…」
やわらかな唇同士が、重なり合ってふにふにと沈み込む。しばらくその感触を確かめながらも、赤司が黒子の唇の隙間を舌でなぞれば、黒子は小さく口を開いた。歯列をたどり、舌先を絡める。熱くざらついた舌を吸って、溢れた唾液を黒子はコクリと飲み干した。
ちゅ、くちゅ、と音が鳴る。二人の息が上がって、体温が上がってゆく。赤司の手は黒子の頭の後ろに回り、黒子の両腕は、赤司の背中にしがみつくようにニットの生地を引っ張った。よく暖房の効いた部屋の中で、じんわりと汗が滲む。甘い香りの密度が増してくらくらした。
唇を離せば、二人の間にうすく唾液の糸が伝って、しばらくしてぷつりと切れる。それが赤司のパンツの太ももあたりにぱたりと垂れた。
潤んだ瞳でその雫を追いかけた黒子が、ごめんなさい、と言ってシミになったそこを指で拭う。細身のパンツを履いた足の間は、誤魔化しがきかないほど興奮をあらわにしていた。
「赤司君…」
「ごめん。黒子がかわいいから」
「違うんです、ボクも…」
白い頬を赤く染めて、恥ずかしそうに俯いたまま、黒子はぎゅっと赤司に抱き付いた。耳元に黒子の熱い息が触れて、くすぐったくてぞくぞくする。
「ボクも、…濡れて」
「っ…どこが…?」
「ぅ、…うしろ、が…」
腰を浮かせたまま、黒子は赤司に体重を掛けて抱き付く。細い身体を支えるように、赤司は左手で床に手を付き、右手で黒子の腰の辺りを撫でた。しあわせな、大好きな匂いにつつまれる。手のひらに汗が滲む。息が荒く乱れてしまう。キス一つですっかり興奮しきっていることが、少し恥ずかしくもあった。
「さ、わって、みますか」
「だめだよ、オレたちはまだ…」
「大丈夫です、触るだけ、ですもん…」
からん、と小さな金属音が鳴る。赤司に抱き付いたまま、黒子は片手でベルトを外していた。少しもたついた手付きで外したベルトは、パンツに引っ掛かったままだらりと垂れ下がっている。
ごくり、と喉が鳴った。屈んだせいで、黒子のハイネックの下のチョーカーが見え隠れしている。心臓が、ドクドクとうるさい。
結局、興奮と欲望と好奇心に勝てずに、おそるおそると手を動かした。パンツの履き口の隙間から、下着のゴムが見えている。無駄な肉のない腰の肌は、服に隠れているぶん余計に白かった。
そっと下着のゴムを捲り、その中へと手を入れてゆく。うすっぺらくて小さな尻だ。そこの、ちょうど割れ目の部分がじっとりと湿って濡れている。
「…濡れてるね」
「赤司君といると、ドキドキして、いつも濡れちゃって」
「そうなんだ…」
「…ヘン、ですか…?」
「全然、変じゃない。嬉しい」
そう言えば、黒子はほっとしたように息を吐いた。ぺたぺたと指を這わせれば、指先に粘液がまとわりつく。くちゅくちゅと音が鳴った。まるで、さっきのキスみたいな、いやらしくて、ねっとりした音。
「あかし、くん」
「ん…?」
「あの、…」
もっと、さわってください。って、蚊の鳴くような声で黒子は言った。二人の息に熱がこもる。抱き締め合った身体が熱い。
汗ばむ手で、もう少しだけ指を進めた。くちゅり、と音が鳴る。人差し指の先が、わずかに埋まってゆく。
「っ、ぁ、…んッ…」
「ッ…、もう少ししたら、ここに、オレのが入るんだよ」
「はい、…ドキドキします」
「怖くない?」
「全然怖くないって言ったら、少し嘘になりますけど…。でも、赤司君となら大丈夫です。楽しみです」
子供のような無邪気な、それにしてはたっぷりの色っぽさを湛えて、黒子は小さく笑った。人差し指の、第一関節。ほんのそこだけ埋まった中は、狭くて、熱くて、あたたかい。さっきよりも、また少し濡れている。
「はぁ…早く噛みたい…」
「ぁ、…それは、まだだめです、成人してから…」
「ここまできて、生殺しにもほどがある…」
「大人になったら、いっぱいしましょうね」
「約束だよ」
「もちろんです」
ハイネックの下のチョーカーにかぷりと噛み付く。無論、頑丈な素材で出来たそれは、多少歯を立てたところでびくともしない。ロックが解除される時は、二人が成人した時、二人が番になると決めた日だ。むずがゆい気持ちが抑えきれずに、黒子の喉元に噛み付く。赤司よりも少し小さい喉仏。平らな胸。小さなお尻。それなのに、赤司に触れられて、いじらしく濡らしてくれる。
黒子の母親が戻ってくるまで、あとどれくらいだろうか。それまでに二人は乱れた服を直して、火照った身体を冷まして、何事もなかったかのようにテーブルに課題を広げて座っていなければならない。課題のページが進んでないことには、きっと気付かれはしないだろう。
20250116