お絵描き 鍛練仲間の同室が、後輩にせがまれて妙なアルバイトをしてきたらしい。鍛練仲間がそれはそれは楽しそうに教えてきた。私の同室の男はすっかり興味を惹かれたらしく、私も絵の上手になるのだと息巻いている。てっきりモデルは件の美しい同級生に頼むのかと思いきや、女装用の服を引っ張り出してきた同室は、それを私に着せかけてくる。筆を手にああでもないこうでもないと唸っていたかと思うと、がくりと肩を落とす。
「うまく描けないのか」
「うーん、下手ではないと思うのだがな……なかなか似ないのだ」
手元を覗くと、とても人間とは思えない黒い塊が力強い筆遣いで描き散らされている。
「……」
「わっ、見るな見るな!」
似ていないから恥ずかしいと照れるこれが、絵の上手になる見込みはないだろう。私はそっとその胸にもたれかかった。
495