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    John

    ガンヤンと天ヤム万歳20↑文字書き
    今はサチマル沼にずぶずぶ
    尻叩き用、活動メインはpixiv

    https://www.pixiv.net/users/67336437

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    John

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    サチマル19歳になってました。サッチは基本的にロマンチストでいたいリアリストですし、マルコはリアリストに徹したいロマンチストです。今更ですが各章の英語はいいかげんです。多分複数形だと思います。

    ※マルサチのような表現がありますが、サチマルです。

    拍手ありがとうございます、励みになります。

    #ワンピース腐向け
    #二次創作
    secondaryCreation
    #サチマル
    #腐向け
    Rot

    Crimson Memory紅の記憶紅の記憶


     偉大なる航路に、こんな人魚姫の伝説がある。

     実際にいる種族とは違う、伝説の中での人魚は海の上で暮らすことが出来ない存在だ。これをかつての世界で人魚というものは決して水中以外では生息することが出来ず、陸に焦がれて今の様に進化したのだという説を信じる学者も少なくない。

     信憑性は兎も角として、人魚姫の伝説の話自体は陸の人間に叶わぬ恋をした人魚が魔女と契約をして人間の脚を手に入れる。
     代償は美しい声で、歩く度に焦がれて手に入れた足は割れたガラスの上を素足で踏むような鋭い痛みが襲うという凄まじいものなのに、無謀なその恋は結局王子の心を手に入れられず、結局は人魚が海の泡から空の大気となって終わるらしい。
     人魚姫には数多くの姉達が居て、美しく長い髪を犠牲にして魔女と取引をした。妹の命を救うには、妹自身が姉達の髪と引き換えに手に入れたナイフで王子自身の心臓に突き立てるしかないのだが、彼女はそれを拒んだのだ。

     自分以外の女を愛し、その女の隣で眠る男。
     数百年の寿命を捨て、声を捨て、脚の痛みに耐え、家族を捨て国を捨て、最後には命を捨てて、恋を捨て。

     涙を誘う歌劇ではある。サッチが涙なしでは観られないと鼻を啜り上げる隣でマルコは心底白けた仏頂面で。

    「そんなに好きなりゃ、何でその男の脚を魚の鰭に変えることから考えなかったんだ?普通、発想が逆だろ」

     なんてそりゃもう、大真面目に真顔で言うものだから、海賊って奴はこれだから───。


          ✳︎


    「んじゃ、おれはここらへんでお楽しみの時間に…」
    「待ちな、サッチ」

     ここはグランドラインのとある島、パラダイス・エガリテ。全体としては夏島らしくリゾート感のある白い浜辺に南国の植物、鮮やかな色彩の鳥達の歌う島なのだがシーズンなのはまさにど夏のど真ん中に訪れてこそだ。
     
     白ひげ海賊団が訪れたのは、このパラダイスが秋に差し掛かろうという時期である。観光客の数が少なくなる分、穴場と言えば穴場である。何より、世界政府未加盟国でありながら、この島国は"海賊歓迎"といった稀有な姿勢で成り立っている。根っからの観光国として他とは一線を画しているだけあり、門を狭めない代わりに金を落とす限りは等しく客だという精神(あるいは商売根性)が国王から庶民に至るまで浸透しているのだ。

    「おまえ、おれに借金があるだろ。女買って遊ぶ金あるなら、返してからにしてもらおうかい」
    「ゲッ…!!ポーカーでの負け金のこと…!?待て待て、あれはあれ、これはこれじゃねぇか〜!な、もうちょい待って、兄弟だろ〜?」

     サッチの馴れ馴れしく肩に回される手を、マルコはヒエヒエの実の能力もかくやという冷ややかな視線で見下ろしては指先で抓りあげる。

     季節は秋とはいえ、夏島の秋と冬島の秋とは大いに違う。少しばかりの引かない熱気が底にあり、だが確かに空気は秋だ。夏の狂乱と、秋の高揚を静かに混ぜ込んだ様なこの時期がシーズンオフなのはあくまで一般人にとっての話である。

     パラダイス・エガリテ平等───その名の通り、"平等"で成り立つならず者達の楽園は無法者の法と秩序で治められているのだから面白い。


    「待たねぇよい、さーて返せねぇなら何してもらおうかい。あんなお涙頂戴の見せ物に付き合ってやったんだ、今度はおれな」
    「お、お涙頂戴って…泣けるじゃねぇか。あれ、最近はアレンジが加えられてる伝説と違ってかなり原作に忠実なんだぞ!」

     すっかり今日の決定権を握る兄弟に、二、三歩遅れ大急ぎで追い付いてはサッチは唇を尖らせる。最近は随分と髪が長くなったせいで、カチューシャで前髪を掻き上げるのが常だった。
     パラダイス・エガリテでは区画ごとに目的と用途が明確に分けられている。いくら、一般人も利用すると言ってもわざわざ海賊達が盛んに集う区画に顔を出す者は居ない。だが、それを超えるか超えないかもまさに自己責任。サッチがマルコを無理やり引っ張ってでも訪れた一般人向けの観劇場での演目が、マルコが白目を剥きそうな悲恋物だったとしても、だからこそ野郎一人で観る勇気などサッチにはない。

    「おれは泣けたし…、歌だって演技だって鳥肌ものだろ?立たなかった?本物の鳥肌」
    「誰の肌が本物の鳥肌だい、はっ倒すぞ」

     マルコの腕を取ってまじまじと確認すれば、不快とばかりに振り払われる。だが、かつての余所余所しい態度とは違って本気で嫌がっているようにも見えない。それがまたサッチには嬉しくて、無碍にされていた時間を取り戻す様にスキンシップを取りたがる様になっていた。
     この事実に気付いた時に、自分の頭の中に過った"ブラコン"の四文字は早々に打ち消したものである。自分がブラコンなら、周りは相当の"ファザコン"だ。他者と比べる様な性格は捻くれているが、あれらよりはまだマシだ。

    「まぁ…観劇自体は嫌いじゃねぇよ」

     それに、このマルコという男はどうも相手によって性格を変える癖がある。厳密に言えば、"マルコ"を弟と扱う兄弟達の前では"末っ子"といった顔で堂々と振る舞うし、ジョズやサッチと言った自分より確かに下───下に見るだの、見下すという意味ではなく───、大まかな意味で庇護してやらねばと見做す相手の前ではとことん兄貴風を吹かせるのだ。それはもう、びゅうびゅうと。

    「だろ?マルコも嫌いじゃないだろ?」
    「話自体が納得いかねぇ、まずそのいち、顔だけ見た相手に一晩で心底惚れ込むか?ソイツが、大酒飲みで女を殴る様なクズじゃないと何で分かるんだ。面が良いだけのクソ野郎なんて世の中ごまんと居るだろ」
    「マルコさん、口が悪い〜!」
    「そのに、惚れ込んだとしても伝説の中の人魚は三十になったって脚がねぇんだろ?そもそも"それなりの歳になるまで、思い込みで突っ走る様な恋はするな"って生態かもしれねぇだろが。歩く度に激痛だ?魔女も大した事ねぇな、副作用がデカすぎる」
    「マルコさ〜ん、性格も悪い〜!」
    「そのさん、自分が陸に上がるより相手を海に引き摺り込む方が圧倒的に早い。相手は陸の王族だろ?そりゃ、機会を狙うのは難しいかも知れねぇが…何も知らねぇ陸の上で声もない、体調も万全じゃねぇ、生身一つでどうこう出来ると思う見通しが甘過ぎるよい、バカだろ」
    「マルコさん、マルコさん、態度も悪い〜」

     何故にそんなにも可憐な人魚の姫をけちょんけちょんに言わなくてはならないのか。劇の関係者が周りに居ないかと見回すサッチの心臓がもたないとオロオロしながら止めようとすれば、殺意の籠った舌打ちが落ちてくる。控えめに言って、怖い。

    「そのよん、勝ち目がねぇ戦いの引き際が悪過ぎる。大勢の兄弟が───」
    「マルコ、姉妹ね。厳密に言やぁ、人魚姫は末っ子なんだから、"大勢の姉ちゃん"達な」
    「……じゃあ、その"大勢の姉ちゃん"達が全員代償払ってまでケジメつけようってのに、何だァ…?出来ません?育てて来た国王オヤジはどんな気持ちで海に落とされたナイフを見たってんだ、あァ?」
    「マルコさん、マルコさん、あのな。言いてェこと色々とあんだけどさ、多分ー人魚姫って話は、そんなふうに額に青筋立てて聞く話じゃねぇと思うのよォ…」

     やーれやれと頭の後ろで腕を組み、呆れた様に笑いながらも決して悪い気はしない。話を真面目に、真剣に追っていたからこその感想だ。姉ちゃんという言葉が兄ちゃん、国王という言葉がオヤジと聞こえるのは気のせいではないだろうが。

     それに今日のサッチは殊更機嫌が良いのだ、片手には真新しい包丁が収まったケースが下げられている。自分の名前が柄に彫られている、一目惚れしたこの包丁をどう自分好みに鍛えて行けるか、それだけで心が踊るというものだ。

    「ロマンチックな話じゃない?おれとしては、道徳めいた話は一旦置いておくとして、自分の命より結局は恋した相手の命を優先させたんだ。形はどうあれ、一途なオンナノコの…泣ける話ってだけで良いと思うけどね」
    「おまえは女優が好みのオンナだったから、贔屓目に見てんじゃねェか?じゃなけりゃ、その一途なオンナの話を聞いた後すーぐに娼館行こうって気にならねぇだろ」
    「それはそれ、これはこれじゃんかよ〜。ちぇー、この包丁おまえに預けて船まで持ち帰ってもらおうと思ってたのに…」
    「おまえの魂をおれに預けてどうする、自分で持ち帰れっての」
    「マルコだから任せても大丈夫かな〜って?」

     にっこりと調子の良いことを口にするサッチにマルコは肩を竦める。勿論、賭けポーカーでの借金と、この包丁の代金とは別である。いつか自分が見習いから一人前のコックとして認められた日に使う包丁、その代金の為に給料をコツコツと計画的に貯めてきたのだ。
     だから、娼館に向かおうというのは若干冗談に近いものがあった。大体、夜の街に向かうにはある程度酒場で飲んで機嫌良く酔ってから勢いで雪崩れ込むようなものであって、今のサッチとしては陸でのお楽しみの比率が娼婦の肌よりは包丁の刃の方が上回っている。

     それに、今日は別件で懐に忍ばせているものがある。忘れていたとするには、少しばかり薄情だ。

    「……ま、いっか。マルコ今日は色々と付き合ってくれたもんなー、うん」
    「だろ?今日飲む酒はおまえの奢りにしても、ここからはおれが行きたい所に行かせてもらうぜ。荷物持ちは任せたからな」
    「はいはい、もうどうにもこき使っちゃって〜?」
    「じゃ、まず薬品の補充で裏街な、本屋も行きてぇし」
    「あ、本屋はおれも行きたい!」



          ✳︎



    「─── 揃ってんのはこれくらいか…おい爺さん、ここに書き付けてあるモノ、全部量ってくれ。纏めて買うから少しくらいまけてくれねェか?」
    「んぁ〜〜何だって?」
    「このメモの薬品、全部量ってくれ、纏めて買うから、まけてくれ!!」


    「なに〜〜〜?纏めて買うから釣りはいらね〜?」
    「絶対ェ言わねぇよい、そんなこと」



     よぼよぼと杖をついたら小柄な老人に、その言葉は人生で一度も吐いたことがないとキッパリ断言する。交渉の末、薬品を二種類買い足すことによって割引を捥ぎ取った訳だが流石に秤に掛ける正確さはあるかと横目でしっかり確認しつつマルコは一角で薬品店を興味深く覗き込むサッチの後ろ姿を漠然と視界に収めていた。


    ─── 美味いもん食わせるだけが料理じゃねぇんだよな、身体が資本って言葉通りに、人間身体がしっかりしてねぇと力も出ねぇし。逆に言えば、飯を食う気力さえあれば、そんな簡単に人間って死なねぇし。


     いつの日だったか、仲間達に料理のこととなれば胸を張り溢れる愛を歌う様に饒舌に語る姿を、今の様にサッチを視界に映していた。船に乗る為に、たった数日で当時の船員全員の好き嫌いを全て把握した能力はサッチの地頭の良さと記憶力を遺憾なく証明していたし、マルコはそれよりも前にサッチの根性を認めていた。馬鈴薯ひとつで海に飛び込む馬鹿、と言ってしまえばそれまでだが馬鹿な男が確かに船長含め自分達が好ましく思うのも理解していたが、まさかこんな日が来るとはサッチの心を慮って涙した日には想像すらしなかった。




     自分は、サッチが好きだ。





     言えばサッチはきっと一瞬驚いた顔をしてから破顔するだろう。背中を力加減も考えず強く叩いて、照れ臭いだの水臭いだの調子良く言いながら、自分もだ兄弟と本当は大して照れもせずに言ってのける。想像がつく。


    「(…いっそのこと、コイツが女だったらまた別の理由を付けられたんだがねぇ…。世の中、上手くいかねぇよい)」


     案外、整った顔をしているのだ。それに何より愛嬌があって頭が回る。成長過程とはいえ体格が男として恵まれているなら、女としても恵まれていたことだろう。きっと、悲しい過去を背負いながらも前を向いて猛進する姿の眩しさに魅了される男は少なくない。

     料理上手の、聞き上手。
     男で恵まれた身体付きになりつつあるのだから、女だとしたら恐らく胸はたわわに尻も肉付き良く。

     感情に真っ直ぐな癖に、我慢しがち。宝石の類には興味がないが、美味いと評判の食材や料理の為なら景気良く給料袋を叩き付けるような筋金入り。

     よく笑い、よく怒り、よく悲しんで、放っておけない。

     頑張り屋の"女"だったなら

    "この娘のことを俺だけは理解している"
    "俺と幸せになってくれそうな子"
    "こいつには、俺がいないと駄目だから"

    等々罪作りな勘違いするクソな男達を量産しそうで。


     マルコは、サッチが好きだ。

     だからこそ、好きになりたくなかった。 





          ✳︎




     いつからだか覚えていないだの、そんな逃げは打たない。この感情が愛だの恋だの綺麗なものではないのもある理解している。困ったことに、それこそサッチの様な底抜けの青空の様な性格をしている男ならきっとする恋も、人魚の涙か何かの様に純粋で相手の為に流す涙の様に清らかなものかもしれないが、マルコ自身、これが好きだという以外決して美しいものではないと知っている。

     計画性のない、御伽話のヒロインに苛立つ以上に自分自身に腹を立てているのだから救いようがない。非現実的な生産のない考えは無駄だと分かっていても、元からマルコもそうした冷めた考えではなかった。年相応に落ち着いてきたといえば聞こえが良いが、間違いなくサッチのせいである。

    「お客さん、タバコ吸うなら店の外で吸ってくれよ〜」
    「………吸わねぇよ」
    「あらそ〜〜、吸いたさそうな顔してったからね〜〜、吸いたかったら灰皿、外にあるからね〜〜」

     流石はパラダイス。耳が聞こえないフリを海賊相手にするような肝っ玉爺の割に客の機微には敏い。カウンターに背中を預ける様に肘を突き、酒も煙草も確かに嗜むマルコだったが薬草香る店内で火の着いた煙草を吸う様な馬鹿ではない。確かに、吸いたい気分だとは思っていたが。

     サッチがもし女だったら、また意味のない空想を煙草の煙の代わりに浮かべてみる。もしも女だったとしたら、妹分になったわけだ。ホワイティ・ベイという強気な姉が居るから、妹分がいてもおかしくない。
     目が離せないから、自然と自分が何かと世話を焼いたり庇ってやったりすることになるだろう。それもおかしくない。ただ、部屋は流石に別室になるはずだ。それに、男一人船に乗せるのと女一人船に乗せるのは大分違う。差別ではない。差別ではないが、女の一生は男の一生より重い、と考えてしまう面子が多過ぎる。

     しかも船に乗った時の年齢は子供と充分言って良い歳だった。こんな小さくて柔らかそうで、暴風が来たら風に飛ばされて行ってしまいそうな(決して比喩ではない)少女を、夢の為とはいえ海賊船に乗せるなど船長が首を縦に振ったかどうか。

    「(あぁ、でもまぁ…女だから云々ってのは…言ったら髪切り落としてきそうなバカではあったねい…)」

     人魚の代償も全く惜しまずに、根本から切り落としそうな加減だ。そして本人が一番分かっている。マルコが、サッチが女だったらとあり得ない空想を繰り広げる程度には、サッチを手に入れたい馬鹿な男に成り下がっていることを。恋は冷めるというが、冷めるならさっさと冷めて欲しい。冷めるのを待ってじっと一年間、随分と堪えた筈だった。部屋を変え、遠ざけ、敢えてつれない素振りを見せ、その結果どうだ。
     苛立ちに似た感情を昇華させて、敬愛する船長の戦力になる為の力はついた。確かについた。


    ─── もしおれが何かやらかして、マルコが許せないって言うなら…おれ、おれ…盃を返すよ…。


     何でそうなる。何でそうなった?
     あの晩、出会したサッチは明らかに娼館帰り───初めて娼館にサッチを連れて行ったのはラクヨウだ、マルコは当時覚えた憤りで賞金額は低めとはいえ船を一隻沈めている───、女と遊んだ帰りで、言葉を覆わなければ女を抱いた帰りだった筈で。特有の、どこか憂いを含んだ眼差しがマルコが助走を付けて鳩尾を蹴り上げたくなるほど腹立たしい、最近は良い男になってきていた。
     茶の髪を伸ばし始めたのは色気付いてきたのかだとか、元から素質はあったものの環境が枷になっていたかマルコより小柄で細身だった身体はめきめきと成長を遂げて女が好みそうな男へと羽化するようで。

     そのうえ、女に対して扱いは優しい。姉であるベイに対して、サッチは常に紳士的だ。他の兄弟達がベイを仲間外れにするまい、同じ家族なのだからと敢えて同じ扱いをする中で平然と「自分は非戦闘員だから」と謎の断りを入れて、姉には特別女性の観点からの味見だの何だのかこつけて一品洒落たデザートを増やす様な。将来が不安な。そんな男を。
        



     そんな弟分を、滅茶苦茶にして腰立たなくなるまで抱き潰したくて仕方がねぇから距離を取ってたら、盃を返されそうになるって、一体どういうことだ。




     マルコは額を抑える。


     どういうことだって、こういうことになってんだろうが。


    「マールコ!なぁ、会計済んだ?おれも欲しいんだよ、これ。爺ちゃん、クコの実と銀耳、あと高麗人参…をこれで買えるだけ売ってくれ!」
    「えぇ〜〜釣りはいらね〜って?」
    「言ってねぇよ!?」

     誰に対しても同じ様にボケるつもりなのか、仙人の様に笑いながら棚を移動する老爺に油断も隙もないと動揺するサッチに、マルコは首裏に掌をやりながら

    「生薬なんて買ってどうすんだ?」

    とだけ落とす。

    「薬っつうか…薬膳?おれもまだまだ知識が足りないけど、イゾウが前に話してくれた脚気と米の話があるだろー?」
    「あぁ、ビタミンB1の欠乏症の…」
    「そうそう、理由が分からずしばらく"花の都病"とか呼ばれてたってやつ。最近、美味いもん作るだけじゃダメだよなーって…船での生活はどうしても制限出てくるだろ?モビーのコックになったからには、おれ皆が健康で長生きして、そんでもって強くなれる様な飯を作れる様になりぇんだ!」

     この眩しさだ。しかも、自分で堂々と言っておきながら「いやまだ全然、思い付きなんだけど…」と付け足すのは何なのか。

    「な、なんか言えよぉマルコ…、確かにちょっと大口叩いちゃったけどさぁ…、中途半端にならない様に…これでも、結構真面目に考えてるんだぜ?」


     言えるか。
     おまえの、一挙一動で下半身がイライラしてるだなんて言えるか。言ったら終わる。

     
     色んなことが終わる。


    「…………そりゃいいねェ…」
    「だ、だろ!?マルコはマルコで、ヴァレリー先生の跡を就いでさぁ…で、おれは別に料理長になりたいって気持ちはねぇけど…任せられるくらいに周りが認めてくれるコックになって、何つーの…格好良い言い方すると一角を担う…ってマルコ!?何、その反応!おれ、膝から崩れ落ちるくらいヤバいこと言った!?」


    「ふ〜〜……何でもねぇ、ちょいと…膝に矢を受けちまってよ…」
    「ここ何かの激戦区だったっけ!?」


     全てあの晩が悪かった。
     十五にもなって精通がなかったのも、夢精に動転するのも、知識がなかったのが悪い。誰にでもあることで、正常な身体の反応も知識が無ければ恐怖でしかない。自分に全幅の信頼を向けてくる姿勢が優越感と庇護欲を擽ったのは確かだ。その内、何となくでも本能的に分かるだろうと放っておかずに結局面倒を見たのも自分だ。

     ただ、あのキスが呪いの様に効いている。
     自分でも、何故唇を奪っていたのか分からない。唇と唇を押し付け合う行為がキスなら、一方的に押し付けたあの場合は果たしてキスになるのか?何度思い返したのか、何度、唇に指先で触れて確かめたのか。呼吸が出来ないと鼻の存在を忘れてまんまと唇を開いたサッチの吐息の温度を感じた瞬間、マルコもソファの上で果てていた。

    「マルコ〜〜、本当に大丈夫か?」
    「あぁ、大丈夫だよい…、それよりおまえ、ご高尚な決意も良いが、おれに返すべき金で買ってんじゃねぇよい」
    「それは!た、宝払いでお願いシマス…」
    「次から一筆書いてもらうからな?」
    「そりゃもう、ささっマルコさん!お荷物持ちますよ〜次は本屋ですよね!ね!」

     離れなければいけないと思った一年間で、どうにか振り払おうとした邪念がなくなったか。惨敗だ。部屋を離して、物理的に取った距離は余計もどかしさを感じさせただけである。何かしら問い詰めてくれれば良かった、と我ながら女々しいことを考えもした。サッチが、まさかキスまでしなくても良いだろうと、怒るなり悲しむなりの憤りを見せてくれればマルコも正直に答えただろう。


    ─── そんな雰囲気だったからで、特に理由はねぇ。



     その晩、ベッドに収まりながらマルコは朝のシュミレーションを随分と重ねたのだ。下の階からは健やかなサッチの寝息が聞こえてきて、呑気に寝ていやがると無駄に理不尽な腹を立てながら。

     ところが、起きたサッチはいつも通りであった。シーツをどうにか片付ける為に急かして起こしたが、あまりにいつも通りのサッチだったのでマルコはタイミングを完璧に失ってしまった。何のタイミングか?言い訳のタイミングを、だ。理由を求められないままに、いっそ悪い夢であったらと布団を被れば悪夢である。夢の中で、自分がサッチに何をしていたか。

     まだ女と寝たことすらないのに、サッチをベッドに組み敷いて乱暴を働く夢だなんて───!

     目覚めての罪悪感といったらない。下着の中も最悪だったが、それ以上に最悪だったのは夢の内容を逐一鮮明に覚えていたことだった。力なら、マルコが圧倒的に勝っている。困惑するサッチを寝台に押し倒し、剥き出しになっていく肌を撫でる。腹から腰に掛けて指を這わせれば、裏返った声で"嫌だ、こんなの"と次第に涙交じりに喉を震わせた、その声すら耳の底に残っていて。

    「(それがまた、最高に気持ち良かっただなんて…童貞の見る淫夢ってのは碌でもねぇよい)」


     ただ、少しばかり計りあぐねている。
     マルコは誰にも恋をしたことがない。
     
     誰かを抱きたいと思う感情、それは果たして"恋"なのか?





          ✳︎





    「─── でさぁ、すごいよな。勿論行かねぇよ?行かねぇけど、アイツ嫌いじゃないなー、バギーっての」
    「なんて?」
    「ん?だから、シャンクスのやつが」
    「アイツはどうだって良いんだよ、バギーが何だって?」

     ここのエリアは、流石に一般人が立ち入らない区域として分けられている。胸の大きく空いたドレスに身を包んだ美女達がジョッキを運ぶ中、窓際のテーブル席で酒を酌み交わし談笑していたのは良かったが、マルコの意識が一瞬飛んでいた。そのせいで聞き逃した不穏な話題にずいと身を乗り出すが、サッチとくれば話を聞き流されていたのを咎めるでもなく喉奥で笑っていた。

    「おまえなぁ…、すごいと思うよおれは。あれだけオヤジに追い払われておきながら、"マルコ!うちの船に乗れよ!"って勧誘し続けられるなんてさ。えーと、今何歳だったか…おれらより…」

    年齢差を指折り数える表情は柔らかい。そうだった、この男は他人のことが言えないほど、子供や歳下に対してとことん甘いのだ。バギーも気掛かりだったが、その表情の優しさにマルコの厚い唇がへの字に曲がる。
     子供好きで、子供と接するのがうまい。マルコも苦手ではないが、二番隊隊長のおでんとトキの間に産まれた赤ん坊の遊び相手を買って出る男の比ではない。

    「ろく…六歳違うって言ってたから…今十三歳か、あはは!凄いな、おれがマルコと丁度出会ったくらいの歳だろ?それでいて、あの二人は前線で戦っててさァ…ほんと、すごいよ」
    「そうかい、おれァそれよりも前からオヤジのところで戦いに参加してたけどな」
    「な〜に張り合っちゃってんだよ、マルコ。おれ、アイツら好きだよ?そりゃ敵だし、ここ二年くらい会ってないけど、かわいいだろ」
    「おまえはガキなら全員可愛いんだな」

     きょとん、とサッチの瞳が瞬かれる。
     それがまた面白くなく、次の酒を頼むべくマルコは掌を軽く挙げる。賑やかな店内は喧騒と言って良い騒がしさで包まれている。ムード作りの為の演奏家達の奏でる音楽より大きいくらいだ。

    「そりゃまぁ、かわいいだろ…?」
    「おれぁ頼り甲斐のあるデッケェ男の方が好きだよい」
    「まーた、オヤジだろ?分かってるよ…おほっ!」

     視界に飛び込んできた白い柔らかな双丘に、サッチの瞳がハートの形を描く。給仕のユニフォームにしては過激だが、こうした酒場では珍しくない。気に入ったならば金額の交渉、成立すれば二階の部屋でしっぽりとそういう流れが普通だ。

    「おまちどうさま、……うふんっ♡」

     これ見よがしに、仏頂面のマルコよりも明らかに御し易いであろうサッチに向けて色目が送られる。寄せられる谷間、鎖骨の下に小さな黒子が確かに色っぽい、いかにサッチ好みの美女だった。
    「はうっ…!!み、見たか、今の。おれにウィンクパチンって、ウィンク!!いやー、美人だったな〜たわわな果実が…、」
    「女と遊ぶ金があるなら、返せよい借金」

     酒の肴のソーセージに突き立てられたマルコのフォークに、サッチからはヒェッ!と小さな悲鳴を挙げながら慌てて両手を左右に振る。

    「分かってる、分かってるっての…!それにお高いんだろうな〜、美人でボインちゃんだもんな〜…あ、それで思い出した。ホットドッグだよ、ホットドッグ」
    「あぁ?」
    「だーかーらー、ソーセージで思い出したんだって。前に会った時、戦闘がそのまま宴になったろ?おれが作ったホットドッグを気に入ってくれてさ、バギーのやつ"おまえならおれ達の船に乗っても構わねぇぞ!その代わり、毎日ド派手にうまい飯をつくりやがれ!"って…かわいいよなぁ!普段あれだけ喧嘩してんのに、言うことはシャンクスのガキとほぼ一緒なの…」
    「ガキなんだろ」
    「素直ってことだろ、嬉しかったよおれ。それまで色々と喧嘩腰だったやつがさ、美味いって言ってくれたの」





          ✳︎





    ─── おい、ド派手にとまりやがれ!!

    ─── ん?あぁ、マルコか?マルコなら、さっきおまえのところの副船長さん達と…、

    ─── ちがうわ!あんなおっかねぇ不死鳥に用はねぇ!

    ─── なんだよ、じゃあシャンクスってガキか?それなら…、

    ─── あんなヤツはもっと知らねェ!!おれが用があるのはおまえだ、コック!!派手にすっとぼけやがって!

    ─── えぇ…仲良いじゃん、おれになに?あ、酒の追加を頼まれたとか?樽で運ぼうか。

    ─── 人の話を派手に無視しやがるヤロウだなァ!?それもちげぇ!おいコック!この皿に乗ってたホットドッグ!おかわりあるか!

     人は見かけで判断すると痛い目を見る。
     強い奴が、強い見た目を必ずしもしているとは限らない。サッチは非戦闘員であって、戦闘の際は只管に足手纏いになるだけなので自衛に徹底するのが一番船の役に立っていると言えば立っている。
     よって、明らかに幼い見た目の、そして中々に愉快な外見の少年ではあったがロジャー海賊団の船で戦闘員として存在している時点で決して侮ることはなかった。ただ、随分とある身長差に思わず腰を屈めて話を聞いていたのは弟や妹に対する癖である。


    ─── え、もう足りないか?軽食あんま出ないと思ってたんだよなァ…、皆酒ばっか飲むから。

    ─── ガーン!!そ、そうか…うまかったのにもうねぇのか…クソ、シャンクスの野郎がバカやらかしてっから遅れたんだ…。

    ─── え?美味かった?そりゃ嬉しいな!今回作ったのおれだよ、うちはソーセージから手作りしてるんだぜ。

     帽子を被った赤鼻の少年が驚きの口を開いては、すぐにいじけたように「でも、もうねぇんだろ」とボソッと呟くものだから、サッチは笑いながら少し待つように伝えた。そして、本当に少しの時間、少年の元に温め直したホットドッグを持って戻ったのである。

    ─── ほらよ、一個だけで悪いな。けど味はおんなじだ、熱々だからもっと美味いぞ。

    ─── !!ど、どうしたんだこれ、おまえ今これ作ってきたのか?

    ─── んん〜なんていうか、おれが後で手空いたら食おうかなーって思ってたやつ。けど、美味いって思ってくれるやつに食ってもらった方が良いよ。ちゃんと検食の分は残してるしな。

    ─── く、くれるってんならもらうぜ!返せったって返さねーからな、もうおれのもんだ!

    ─── いいよいいよ、食べてやって。あ、でも味の感想は欲しいかな。

    ─── うまい!パンとソーセージのバランスがド派手に最高だ!両方うまいけどな、互いを消しあうことなく高めあってるって言えばいいのか…とにかくド派手にうめぇ!!うめぇもんはうめぇ!

    ─── そんなに…?へへっ!おまえいーいヤツだなぁ、名前は?おれ、サッチ。コックだから戦闘には顔出さねぇけど。

    ─── おれか?おれは…、

    「ってな訳でさ、話してみたら面白いやつだし、美味い飯を作るなら船に乗せてくれるってさぁ」
    「おれがシャンクスのガキに絡まれてる間にそんなことがあったってのか…」
    「いいじゃん、おまえだってあの子に熱烈アピールされててさぁ?…他の船からも欲しがられるくらい、おれの兄弟って強くなったんだなぁ…って」

     舌打ち混じりに明らかに面白くなさそうな顔をするマルコに、そこまで露骨に態度に表さなくてもとサッチは笑う。自分とは違って、マルコを欲しがる赤髪の少年の瞳は言葉と態度は軽いものながら真摯な眼差しをしていた。

    ─── そう、宴に合流した後でもマルコを追い掛け回す姿を見て思った。コイツはきっと、将来凄いやつになるんじゃないかって。それに…、




    「(…なんか、やたらあの小僧と目があったんだよなぁ…あれかな、義兄弟がコックってのはやっぱり意外だったんかな…)」





    「おい、…ッチ、サッチ!」
    「ん?」
    「まさか、ちょっとあの赤っ鼻のガキに煽てられたからって、船移ろうなんて考えてねぇだろうな」
    「え、あ、そっち!?」
    「どっちだよ。おまえは、夢の為に船に乗ってんだろうが…その夢に、もしもあっちが近いってんなら…」

     サッチは思わず喧嘩腰ながら、返答を急かすような友の口振りにそれこそ派手に吹き出す。そうか、言っていなかった、確かにそうだ。
     最近、この意地っ張りな兄弟の性格がよく分かってきた気がする。いいや、意地っ張りになろうとしてなったんじゃない。いつか船長の右腕になりたい、という自分への期待が責任感ある大人としての性格に盾を付けていく真っ最中なのかもしれない。
     マルコの言葉を遮って、サッチは机の上を神経質に叩く指先の上に掌を重ねる。マルコの眉が跳ね上がったが、その癖、ヴァレリー先生の癖移ってるね、だの火に余計な油は注がない。

    「サッ…」
    「行かないよ、おれの夢はオールブルーを見つけ出すことで変わってない。おれの弟や妹達に報告して、美味い飯を四つの海の食材で作り上げる。…その夢がなかったらあの時、死ぬ方が楽だったんだ」
    「……あぁ」

     生きるより死ぬ方が楽なこともある。
     人生に絶望し切った時だけ、死は救いになる。

     それは、マルコもよく知っている事実だ。

    「おれに夢を追えって言ってくれた人は…まぁ、おれの好きな女?は今は、革命軍で頑張ってんだ。もう、悲しみを持つ子供達を作らない為に…って、」


    ─── サッチを頼む、ガルニさん…。あたしは自勇軍に身を寄せるよ。許せないんだ、自分の無力さも…こんな世界を作り出した元凶ってやつも…!!

    ─── ジルさん…。

    ─── 頼む!!…あんたらなら分かるだろ、国を追われ、自勇軍の助けがなかったら、人扱いされることなく終わった…あんたらなら…!!サッチは心が折れちまってる、あの子に、目標を与えてやってくれ!夢ならあるんだ!だけど、夢だけじゃ人は!生きられない!!

     自分の為に這いつくばって頭を下げる大人が居た。


    「夢だけじゃ生きられない…夢を目指すための武器をこの子に与えてやって…お願い、あたしじゃそれは出来ないけど…いやよ、あたし…これ以上…、」


    ─── "あたしの子供"が…!!これ以上、絶望のまま死ぬのは嫌なの…、いやなのよォ……ッ…!!


     流される涙が、噛み過ぎて口紅だか別の赤なのだかで汚れた煙草の火を消した時。ようやくサッチの止まっていた時間は動き出したのだ。


    「……夢を追いかけられれば死んでも良いが、それじゃ本末転倒だもんな。おれは置いてかないよ、マルコ。今度は大切な家族で夢を見付けに行くんだ。おまえも、オヤジも、兄弟達皆で」
    「……」
    「な?」
    「……分かったから手ェ離せよい、迷子じゃねぇんだ」
    「あ、うん」
    「タバコ吸ってくる」
    「いってらっさーい。……うーん、子供扱いしてるって思われちまったかな、なんか間違えたか?」

     首を傾げ、気持ちを伝える方法を間違えたかと首を傾げ続けるサッチを席に残し、マルコは覚束無い足取りで店の裏に出る。月の光が眩しいだなんて、地表では中々思わない。夜の空を飛んだ時に感じる圧倒感だけで良い。





    ─── おれの好きな女は今は革命軍で頑張ってんだ…!




    「好きな女…か、女々しいねぇ…」



     女々しい、女々しいのは果たして誰だ。
     サッチの好きの意味なんて、家族に対して使うそれと同じに決まっている。それでも、舌に乗せられた言葉は同じでも明らかに特別だと顔が語っていたことに、まさか気付いていないのか。
     ポケットから取り出した煙草に、自分の炎が燃焼の作用をもたらすことはない。咥えた先に、マッチを使って火を灯す。いつから煙草も酒も覚えたのか、ぼんやりあの馬鹿と離れていた時期かと思い返す位に女々しいのは───、

    「不死鳥のマルコ…さんですね?」
    「…そういう名前で今は通ってるな、何の用だい?一服中なのが見て取れねぇか」
    「これはこれは、申し訳ありません。鳥違い…いえ、人違いでは申し訳ないかと…、至福の一服中大変申し訳ありませんが…ご同行願えませんでしょうか」

     マルコは無言で付けたばかりの煙草を灰皿に押し付ける。店の中の賑わいは変わっていない、暗闇から姿を表す黒ずくめの男達が七、八人、全員武器を所持しているが、これくらいなら一瞬で───、

    「一応聞いとくが、"おれの名前"を確かめた後で、まだ首を狙うってのか?」

    「いえいえ、首を狙うだなんて野蛮な真似は。私達はただのプロのビジネスマンです。しかし貴重な商品を、お求めになるお客様の下にお届けする…例えそれが世にも珍しい鳥であっても…"金の籠"をご存知でしょう?」

     マルコの繰り出そうとした指先が一瞬不自然にぶれて止まった。
     
     その隙を、銃口が見逃さなかった。


    「海楼石の銃弾です、ご同行を…私達はプロのビジネスマンですが、…獲物が暴れた場合は正確に狙いを付けられない場合がありますね。別の無害な方に当たってしまう。例えば───、」



    ─── あなたの、ご友人なんかに。











    「遅ぇなぁ、マルコ…、どこまで煙草吸いに行ったんだ…?」






    TO BE CONTINUED_
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    John

    DONEサチマル続きました。

    ここまでお読みいただいたことに、感謝の念が尽きません。少しだけ私の語りにお付き合い下さい。

    私は海外の児童向けの小説を読むのを趣味にしているのですが、子供の頃に好きだった作品の作者の作品を読み漁る日々が続いていました。うまい!うまい!活字がうまい!!と貪る中で、この作品は面白いけれど私にはちょっと向いてなかったかしらん、と頬杖をつきなが(以下pixiv掲載)
    Q.Did you find it 心の中で、ほんの僅かに気持ちが揺らいだ。
     小石一粒、大海原に投げ込んだところで構いはしないだろうか、と。人生、最後の最後に思い残してしまったら台無しになるだろうか、と。
     そうして、すぐに打ち消した。死に際で左右される様な生き方ではなかった、胸を張ってそう言える。断言出来る。

    「( なぁ、おれと心中してくれるか? )」

     眉一つ、呼吸一つ乱さずとも答えは返ってきていた。
     この気持ちを抱いて、海の底まで持っていく。

    「( だよな、たった一人じゃ旅は楽しくないもんな )」

     だからこそ、言わなかった。
     何一つ、いつもと行動を変えることもせず、いつもの様に宴を終えてからの行動は単独で。誰にも怪しまれることがなかった。勘の良い兄弟子にも、好物に囲まれて顔を綻ばせる弟分にも、敬愛する父親にも、勝手に心の片方を預けてしまった男にも。
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