斉唱「孤独な鯨って知ってる?」
「孤独な鯨?」
「そう、その鯨は声が高すぎて誰にも理解される事のない孤独な鯨。誰もその鯨の声を聞くことができないんだ」
宵闇の暗さと同じくらい深い色の海は、冬の訪れを待つほど冷たい波が肌を刺す。
海へ行かない?と言った公子殿は、日没前の美しい黄昏色の髪が暗く染まっていた。
「その鯨はどんな声で歌うんだろうね」
「……とても美しい声だと思うぞ」
「はは……先生ならきっと聞けるかもね」
もし聞けたら教えてよね。その鯨がどんな歌声だったのかをね。
ブーツ脱ぎ、裾を上げながら海へ走る彼は美しい空鯨を掲げる。鳴き声が空から涙を流し、温かい雨が手のひらにぴちゃんと滴り、白い砂浜に吸い込まれていった。
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