2021.01.29
誰に読まれることもない記録をつけている。私自身の言葉が残ることはないけれど、形を変え、飾る言葉を変え、物語となって人間に伝えられていくよう施された書に、延々と記録をつけている。そうして日々を過ごすよう定められて生まれたのは、いつの頃だっただろうか。私のようなモノを、人間は妖精と呼ぶらしい。世界には、そういうふうに生まれ持った役割を果たして生きているモノが、私の他にも様々に暮らしている。たとえば、春告鳥。私は春が好きだ。彼らの愛が、この国の春を告げている。だから、春告鳥と呼ぶのだそうだ。
春日井の色男が生まれたばかりの雛を配偶者にしたという事実は瞬く間に春告鳥じゅうの知るところとなった。なんの事はない、単純な恋愛結婚だというのに、尾鰭は好きに伸びてゆく。
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