2023.05.08
真夜中の訪問者は足音も消さずに降り立った。頬ずりするような気配の主は、横たわる俺に構わずぎしりとスプリングをたわませる。
「甲洋、起きて」
一度目は聞こえなかったふりをする。他の誰かに同じことをすると困るから。
「ねえ、起きてってば」
二度目にやっと目を開ける。眼前に頬杖をつく少年の向こうで、時計は日付が変わる少し前を示している。
「おはよう、甲洋。いい夢見られた?」
「だとしても、今消えたよ」
夢どころか、起こされて不機嫌ですって睨んでみても、ちっとも笑顔を崩さない。逆に毒気を抜かれて体の力を抜いた。撫でた髪は少し冷たい。こんな雨の夜に、どこを歩いてきたのだろう。
「なんだよ、こんな時間に」
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