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    okeano413

    @okeano413

    別カプは別時空

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    DONE甲操 ソリスト・エチュード
    https://poipiku.com/2100044/4363044.html の続き
    2021.05.08

     すっかり眠り込んでしまった頬にかかる髪を避けてやると、むずがって、言葉にならない寝言を言った。さんざん触れた唇から、聞き取れない声がいくつも落ちる。その中に自分の名前を見つけてにやついてしまうのは、やむなしというものだ。
    「全部聞くんだからって、言ってくれたのにな」
     窓の外はまだまだ暗いけれど、日付はとっくに変わっている。これまでの内緒ごとを聞いてくれるのをプレゼントにして欲しいと頼んだのは、日が沈んですぐだったのに。
    「素直に言うって、やっぱり難しいな。聞いて欲しい事はいくつも浮かぶのに、どんなふうに伝えようかって、どうしても考えちゃってさ」
     夕食を共にしながら、まずは改めて、今日を祝おうとしてくれた気持ちへの感謝を。来主にとっても俺の為の日にしてくれてありがとう、と締めくくると、くすぐったそうに胸を抑えていた。
     普段なら質問に答えたり、今生きている世界について語る時間には、戦場や、それ以外でも幾度も助けられている事への感謝を。ますます感情の向きに身を委ねるようになったとはいえ、一番冷静に対応するさまを見せてくれるのは来主だ。良い手本を習うようにしてい 1391

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    DONE甲操 夜を謡うように進め
    誕生日おめでとう
    2021.05.07


     天気もいいし、客足も遠のいて早めに作業を終えられたので、夜の散歩をする事にした。空を好む来主に、降り落ちてきたアルタイル以外の、星々の美しさを空のすぐ下で見せてみたかったというのもある。
    「少し散歩でもしようか」
     任せていた食器類を片付け終えたのを確認して声をかけた。散歩のワードに、喜びを体で示すようにガラス戸を閉じたままの手を挙げながら踏み台から飛び降りて、床で埃をかぶりかけていた電気仕掛けのランプを持ち上げる。竜宮島から避難してきた人が、思い出の品としてフリーマーケットに出品していたのを引き取ったものだ。もう、一人の夜を歩きたくはないらしい。
    「いいよ! このランプ、使ってみたかったんだ!」
    「待て、戸締まりがまだだから」
     ランプの明かりを灯しながら、子犬のように二つ返事で飛び出そうとした襟を掴んで呼び戻し、ロールスクリーンを二人で下ろす。星明りが照らしてくれている外よりも暗くなった店内に来主用の看板を移動させて、鍵穴に銀色の鍵を差し込む。使い込んだ痕の付いてきた鍵には、コーヒーカップ型のキーホルダーが付けてある。暮らしていく為に技術を学ぶ事にしたう 6353

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    DONE甲操 清閑日和2021.04.28

     日も高いはずの時間から、空が不機嫌に沈んでいる。風雨が沛然と窓を叩き続けているせいだ。気象予定が示すには、昼時へ帳を下ろすように降り続けるこの雨は、明々後日までは続ける心づもりらしい。乱雑に続く重い音にかき消されて生活の賑わいが聞こえないのは物淋しいが、時々ならば、静寂に身を委ねて家にこもりきりになる一日があってもいい。
     環境システムの長期メンテナンスとしての雨は、アルヴィス勤務者、一般島民に関わらず事前告知されていた事もあって、島内ネットワークの更新欄には前日からうちを含めた各店舗の臨時休業の知らせをずらりと並ばせていた。いくつかの施設は宿直で開けているらしいが、少し抜けた誰かの為の雨宿りとしてだろう。
     島の在り方を明かされる以前からも、こういった長雨の時期はあった。この島の形で一日降らせておしまい、というのは不自然だからだろう。もしかすると、本当に降り続けた日もあるのかもしれないけれど。偽装鏡面である以上限界はあるし、自然に襲い来る嵐は避けようもない。
     不便はあるが、雨はそれなりに好きだ。いざ降り始めれば、いくらか屋根にさえぎられたとしてもそこに留ま 2525

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    DONE甲操 きみの連れる星影2021.04.18

     今日は星がよく見える日らしい、と訪問者が言った。背中にはリュックに詰めた気に入りのお泊まりセット。扉を閉めないように差し込まれた爪先の丸い靴。背負うのは、瞬く星々に照らされた青混じりの夜空。下ろしたての濃緑のセーターに包まれて、白い吐息を連れた来主が笑っている。
    「いや、俺何も聞いてないんだけど」
    「おかあさんがね、良い空だから甲洋くんと見ておいでって言ってくれたんだ」
     持ち上げてみせるバケットには、夜食らしき小ぶりのおにぎりがいくつかと、羽佐間先生のメッセージらしきメモが収まっている。確かに見事な星の光だけど、聞けと顔に書いてある話の方が本題だろう。今日はどこで何を教わってきたのだか。
    「だから、事前承諾取るって約束は?」
    「してないけど、帰ってきただけだもん。だからただいまだよ」
     そっちは別に聞いてない。部屋があるんだからここも僕の家だと理屈を並べて押し掛けるのは、来主が何かを学んだ後の癖だ。学習の仕上げと言い換えてもいい。人に言い聞かせる復習こそ効率が良いと理解しているのか、幼子が親に学びを伝える相手の代わりとして、俺を選んでいるかは知らないけど。あ 1462

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    DONE甲操 ゆわひのあいらし二話2021.04.05

     ひと月前に合格をもらってから、閉店後に表の黒板を書き換えるのは僕の役割だ。初めて書いた文字を「かわいいな」と言われたのがなんでかやけに悔しくて、咲良に頼み込んで字の書き方を教わり始めたのはふた月ほど前のこと。ペンの持ち方から叩き込まれる特訓はすごく厳しかったけれど、細かく用意してくれた目標を達成するたび、うんと優しく褒めてくれる彼女のおかげで、楽園海神島店での役割を一つ増やしてもらえた。それも、真っ先に見てもらえる場所を文字で飾る大役を。出来ることが増えるのは、それを認めて褒めてもらえるのは、いつだってたまらなく嬉しい。
    『アンタ、筋がいいわよ。覚えたいって気持ちが強いからかしらね。もう少し丁寧に書けたらハナマルもあげられるんだけど』
     そんなふうにあれこれ言いながら、ちょっと強引に髪をぐしゃぐしゃにしていく、白くて、細くて、指輪の痕がくっきりと残る手から教わった文字を、今日も慎重に書き進めている。情報を得ても、知っているだけで実行しないのと、いざ自分の手でアウトプットするのは全然違う。学ぶこと。学んで、僕以外のひとに伝わるよう、実行すること。様々なことを、心 3775

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    DONE甲操 天満月にさらわれないで2021.03.24

     少年が月を眺めている。客席から閉ざされた扉の向こう、窓際の席に頬杖をついて座る来主にホットミルクを差し出してやると、居場所を思い出したようにこちらを見上げた。薄緑を溶かした瞳と木蘭色の髪が、月光を浴びてよりきらめいている。このまま、月に拐かされて、何処とも知れぬ場所へ消えてしまいそうだ。
     幻覚を断ち切りたくて、わざとらしくごとりと音を立て、自分用の紺色をテーブルに置く。試作品のブレンドが狭い水槽で身悶えた。ここは現実だ。夢見心地になるなら幸福なものがいい。来主を連れて行かせるものか。煮詰まる思考を胸の箱に押し込めて、つとめて優しく微笑みかけた。
    「隣、座っても?」
    「ホットミルクに免じて、いいよ。砂糖は入れてくれた?」
    「寝る前だから、蜂蜜を少しだけな」
    「? 砂糖を入れるのとどう違うの?」
     不思議そうにしながら、白のマグを両手で受け取る。柄尻が猫の形にあつらえられたスプーンで、温めた白色の底を削って持ち上げた。丸みにすくわれて付いてくる、月よりも濃い金色をたしかめてはしゃぐ。
    「月と同じ色だ!」
    「よく混ぜて飲んで。あとの歯磨きも忘れるなよ」
    「うん!  1469

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    DONE甲操 Leidenschaft
    頂いたお題から
    2021.02.10

     あんまり寒くて、厨房の空調が悲鳴を上げてしまった。棚卸しと店舗清掃ついでに食器類を整え直そうと決めていた今日に限って。殆ど終わってからの不調は幸いなものの、まだ三分の一ほどが洗浄と消毒を待ちわびている。
     幼い総士に触れる手をなるべく荒れさせたくはないし、来主の柔らかい手も空調なしに冷えきった水には向かないだろう。
    「一騎、来主。店の空調は無事の筈だから、あっちを任せてもいいか。残りは俺がやるから」
    「はーい!」
     指示も聞かずに飛び出すな。第一関門突破。
    「えっ、俺もやるよ。二人のほうが早いだろ」
    「来主を一人にさせる気?」
     扉の向こうで動く来主は、今のところ教えた通りに動けている。調度品に埃よけを被せ、高いところから順番に。覚えはいいし、行動力もある頼れる奴だ。自由にさせ過ぎるとなにをしでかすか不安という一点を除けば。一騎もそれをよく知っているから、もう追撃は不要だ。成長の為にも一人にさせてみたいけど、寒い厨房に残すのも、労力の掛かる向こうを一人で任せるのも不安だ、なんて顔で来主を見ている。第二関門突破。
    「……わかった。甲洋も無理はするなよ、たくさんお 1668

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    DONE甲操 見上げる空は2019.06.29

     朝から生憎大粒の雨だった。出掛ける予定はなかったが、切れそうな食料品に気付いてしまったからには、今日中の買い出しは避けられない。雨の日に限って客足は伸びるものだ。先延ばしにして、材料不足の店じまいなど起こそうものなら遠見に睨まれてしまう。転移を使う考えも浮かんだが、すぐに首を振って却下する。少なくない避難民が今の生活に馴染もうと懸命にしている繊細な時期に、余計な刺激は与えたくない。そもそも、緊急事態にこそ使うべき力だろうし。
     辺境の島として擬態を続けてきた名残か、海神島へ移り住んでなお、アーカイブに存在する冷凍食品などはアルヴィス内以外では再現されていない。そもそも島外れの喫茶店がお客様に出すものを冷凍で間に合わせるのは歓迎できない、そうだ。俺がカプセルで眠っていた間、溝口さんが決めたルールらしかった。代理マスターを任せてもらった身でそれを破るわけにはいかない。
     髪を結い上げて身支度を整え、おとなしく眠る来主を置いて、陰鬱な軒下で紺の長傘を開いて──
    「うわっ!?」
     ──紙吹雪に襲われた。それも適当にちぎられた出来じゃなく、舞いやすいよう細く三角に切られ 1063