チルい穏やかに微笑む顔ばかり見ているせいか、彼がそれ以外の表情を浮かべているとすぐ分かるようになってしまった。なってしまった、というと聞こえは悪いが彼の知ってはいけない側面を覗いたようで後ろめたさがある故に自然とそういう表現になる。
何かを深く考え込むときでさえ楽しそうな笑みを見せるのに、ふとした瞬間、例えば日が暮れて夜が近づく紺と橙が混ざった空を見つめているときや明け方の肌寒い空気の中で薄着でいるときには随分物憂げな顔を見せるのだ。この世のもので楽しさを見いだせないものはない性格の割にどうしてそんな悲しそうな瞳でいるのだろう。何を嘆くのか、何を案じているのか。
静かに見守る存在でありたい。そう考えていたのにとうとう抑えが利かず白い頬に指を伸ばしてしまった。
809