最近の死体は腐らないんだって。
隣で今にも眠りかけているミスラはそうですかと一応返事を声に出してくれるものの、続く言葉を促してくることはない。それでも勝手にしゃべり続けた。
「いまはどの食べ物にも保存料が入ってるでしょ。それが何十年も蓄積したら、死ぬ頃にはすっかり保存料が効いて、腐らない肉のかたまりのできあがり、なんだって」
学校近くの公園でそんなことを高らかに語っている老婆がいた。焼酎のカップを傍らに日差しを浴びている老翁は耳が遠いのか気に留めていないのか微動だにしなかったけれど、子供を遊ばせていた親はそそくさと小さな手を引いてどこかへ行ってしまった。
白骨化した死体が見つかったニュースは定期的にテレビに映し出されるんだから、報道されていない分も合わせたら毎日どこかでだれかの死体が腐っているはずだ。誰かに吹き込まれたのか、自分で辿り着いた考えなのかは知らないが、あの老婆のくだらない妄想にすぎない。
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