影双つきり 鉄塔の上につま先を立て、眼下を見下ろす。高い屋根低い屋根が並び、広い道路から葉脈のように伸びた路地。その間を怒号と共に幾人かの男たちが駆けずり回る。
「撒いたか?」
背中から声が投げ掛けられる。よくよく知った話ぶりだが、未だに慣れない。
「まだ暫くはあの調子だろ」
「だよな」
溜め息をついたのは同時。双影という、実体ある分身を作り出す忍法によって、天下の賞金首は今"二人"いた。
追手の目を盗み、分身。そして、撹乱のために二手に分かれて散々町を引っ掻き回してやった。狙い通り、奴らはあっちでラッドを、いやオレはこっちだと言い争うわ混乱するわ。全く思惑通りに事が進み、俺は小休止とばかりにこの街の一番高いところまでやってきた。
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