モラトリアムの終焉「私」が最初に見たのは、パイプ椅子に腰掛ける青緑の目をした女性だった。ふわりとした紺色の短い髪。グレーのパンツスーツに、青磁色のカットソー。人当たりの良さそうな雰囲気をしているのに、何処とない違和感と──それから、微かに漂う酒精の香り。
さっきまで妖鬼高校に居たはずなのに、と辺りを見渡せば、何処か素っ気なさの漂う一室だった。椅子や机、その他の調度品はあるのに、どうにも「温かさ」というものがそこからは感じられなかった。そして、彼女自身からも。
「運がないね、キミ。こんなとこで顕現しちゃうなんてさ」
机の上にでも置かれていたのか、何時の間にか彼女は一冊の本を持っていた。ペラペラとページを巡ってから彼女は何事かを調べ始めて、「名前は大上れい、で合ってるかな?」と聞く。少し驚きながら頷くと、彼女は少し離れた場所へとその本を置いた。
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