14×20
もう一時間近く、この辺りを歩いている気がする。
そろそろ、暑い。三郎は知らない公園の日陰で、知らないベンチに腰を下ろした。空までもが見慣れない光景な気がしてくる。焦燥はあるが、パニックになるほどではない。
思い立って、近くの自動販売機に足を向けた。古い機体のようで、最近にしては珍しく電子マネーが利用できないらしいので、現金を持っていてよかった。──知っている大手飲料メーカーなのに、耳馴染みのない名前の飲み物ばかりだ。三郎はその中から、ミネラルウォーターを選んで購入した。
「つめたい……」
喉越しを噛み締める。こんなに喉が渇いていたのか、と納得して安堵する。
妙に凪いだ心地がする。初めて読む本を開くときのようだ。その物語は知らなくとも、作者は知っているから、どこか懐かしく思える。この世界には、作り手の穏やかな息遣いが断片的に残されている。
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