晩夏の金木犀 香水が嫌いだ。
どうも俺には刺激が強すぎるようで、鼻腔を突き抜けていく香りに痛みすら感じる。
「おまたせ」
待ち合わせていた女が、強烈な金木犀の香りと共にやってきた。
ただでさえ残暑にうんざりしていたのに、更に気が沈む。鼻の奥がつんとしたから軽く啜っただけなのに、女は嬉しそうな顔を見せた。
「気づいた? ちょっと早いんだけど、大好きな香りなの」
女というものは皆、香りにうるさく香水が好きなようだ。
俺は安い石鹸の香りで十分だった。
そして、香水以上に金木犀が嫌いだった。
そこらで雑に茂っているだけでも強く香り、鼻腔どころか服にも、部屋の中にまで纏わりついてくる。草木にさほど関心のない俺でさえ名を知る程に、香りだけで人の記憶に刻まれる不快な植物。
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