新しい名前 昼と夜の境にいる。黒い男のすらりとしたシルエット。闇を纏って着飾って擬態するような、ニセモノに呼ばれた名前を俺は闇雲に拒絶する。
「それは冤罪で死刑になってこの世から消えた人間の名前だ馬ー鹿」
路地裏。室外機の稼働音。ぬるく湿った風が吹きつける。首を振る。不快さが纏わりついている。西日を背にする男は肩をすくめてみせる。表情はわからなくても仕草だけで的確に俺を苛立たせる。
「それでも今ここにいるお前は雫斗真だろう」
朝比奈ルシカはきっと笑っている。そのまま後ろを向いて明るい方へ帰ってゆけばいいのにと思って睨みつける。ずっとそうしている。ずっとそう思っている。昼間の世界に生まれたんなら元いた場所で、全部忘れて薄っぺらい平穏を享受して大人しくしていればよかったのに。そう言ってやったことだってある。
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