忘れてくれと思ったが、果たしてヘヨンの記憶は確かだった。頷いてしまった過去は変えられず、居候から恋人に昇格した男は、特に変わりなく日々を過ごしていた。それでも、買い出しであるとか、散歩の付き添いであるとか、日常の細々したことまでデートになってしまった。ジェハンがそう思っているわけではなく、一度ヘヨンが「デートですね」と噛み締めるように呟いていたせいで、殊更意識してしまうようになっただけだ。
それはそれとして、デートらしいところにいった方がいいのだろうか。日用品の買い出しをデートと呼ぶ健気な男は、今日も大して興味もないだろう野球を見ながら隣で機嫌良さそうにしている。
「……遠出しますか?」
若者の間で恋人の記念日というものが細かく設定されていることくらいジェハンも知っていた。そろそろひと月になるのだから、何かした方がいいのだろう。お試し期間のような恋人関係であっても。ヘヨンの湯呑みの中のコーン茶が跳ねて、手に掛かる。熱いだろうにそれどころではないらしい。
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