割増暴君『三十分後、お前の家』
　受信したメッセージには、それだけが表示されていた。理由も状況もさっぱりわからねぇが、とりあえず三十分後に家にいろ、ということだけはわかったから、ディノにそれを告げてオレは自宅へ足を向ける。ちょうどパトロールが終わったところだから三十分後に着けるけど、これタワーで受け取ってたら三十分後に着けるかなんてわからねぇぞ、とそこまで考えて、いや、パトロール中だとわかっていたんだな、と思い直した。あの男のことだ、それくらい把握済みで送った指示なんだろう。
　ぴったり時間通りに着くと、既にブラッドは玄関先に立っていた。
「……来たか」
　そう言って、オレをじっと睨んでくる。来るなり睨まれても、とオレは思わず後退りしそうになって、それからよくブラッドを観察した。どうも、目が据わっているように見える。なのにどこか覇気がなくて、それから目元や首筋、頬など全体的に妙に赤いような。

弾丸と角夜の帳が落ち、焚火は小さく燻る。町は遠く、星が近い。
「交代」
鬱蒼とした森で夜を過ごす危険を鑑みて、夜番は交代して行う決まりだった。最初にマニング、そしてアシャール。夜半は俺の担当だ。彼女はすでに船をこぎ、頭が揺れていた。仕方がないので落ちかけている彼女の前で指を鳴らすと、その音と動作で飛び起きた。柄に手をかけ、半覚醒状態でこちらを見上げるが、焦点が合わない。
「……キース？」
「交代」
「あぁ……ごめんね、寝てた」
本当に眠いから、あとはよろしくね、とかなんとかもごもごと唱えながらアシャールは身体を横にして寝息を立て始める。
それを見届けて、静かに火を消した。
虫の羽音さえ聞こえてきそうな静寂の闇をじっと見つめる。あるはずのない光が小さく遠く、微かに揺れていた。そして話し声。草を分け、枝を手折る音。