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    アッシュ

    nana0123co

    PAST過去本から
    家出するルークと当たり前のように追いかけるアッシュの話
    (2011年8月)
    沈黙の破片 それはもうだいぶ前からルークの中にあった。
     こんな思いを抱いているなんて、誰にも気が付かれてはいけなかった。心の奥底にそっとしまって鍵を掛けて、誰にも、唯一ルークの心の中にまで足を踏み込むことの出来るアッシュであってもそれを見ることが出来ないように。
    「ごめん」
     小さく呟いたその先には誰もいなかった。
     ふわりと風に揺れた髪の間から緑の瞳がかすかに揺れる。そっと伏せられたそれが再び開いたその時には先ほどの陰りはどこにもなく、意思を持って歩き始めたその足取りはいつもと変わらぬルークのそれだった。
     はずだった。


     ルークがいなくなった。その知らせがバチカルへ届いたのはその日の夜のことだった。


     定期船の着く時間帯はその船から乗り降りする客ばかりでなく、その客を狙った辻馬車や行商人が港に現れていっそう騒がしくなるのはいつもの光景だった。船の上の揺れる足元から開放されたルークは、潮風の混じる外の空気を思いっきり吸い込むと、体をほぐすように大きく伸びをした。船は嫌いではないが、その性質上長時間波に揺られている上、定期船では個室などないから寝てやり過ごすという手段が取りにくいから普段より疲れた気分になる。それに、普段ならば他の乗客とたわいもない話をして気分を紛らわせれるが、今回は事情があってそれも出来ず、ちょっとだけ今の状況を悔やんだりした。
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