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    トリス

    a_la_do

    DONE拝啓 あなたへ

    トリスからエルさんの遺書にあてて

    *。.゜・*。.゜・*。.゜・*。.゜・
    『拝啓 あなたへ

    気まぐれで筆を取りました。
    僕は手紙など書いたことがないし、あなたも僕に書き方を教えなかったのだから、酷い文章でも笑ったりしないでほしい。

    今日は酷い雨の日です。
    あなたはきっと、こんな天気でも「悪くない」と言って笑うのでしょうね。
    僕は雨が嫌いだ。
    決まって嫌なことばかり思い出す。
    暖かい暖炉の炎、あなたの淹れてくれた紅茶、甘いお菓子の香り、二人で括ったノートの文字。
    静かな部屋であなたと過ごした時間が、まるで生きてるかのように、僕の頭の中のなかを過っていく……まるで亡霊みたいだ。
    僕の時間は今でも、この部屋の中であなたと共にあります。
    こんな惨めな僕のことを、みんなこっそり嘲笑っているんだ。
    可哀相なトリスカイト、いつまでも死人の背中に縋り付いて、と。

    忘れて欲しい、でも忘れないで欲しい、と書き残したあなた。
    これで満足ですか?

    愛してるなんて、言うなよ。
    あなたが僕に与えたものが愛情だというのなら、今、僕の胸の底で熱く冷たく渦を巻く、この汚泥のような黒い沈殿はなんですか。
    僕はあなたの思うような綺麗な何かでも、純粋な子供でもないんだよ。おあいにく様。
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